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ふぁみりーチキン  作者: 魔桜
~flied chicken~
27/53

第26羽 全てが霧消しました。

「……一年前の事件ってなんのことなんだよ?」

 ようやく話が収拾がしたらしいので、気になっていたことを投げかけてみた。気軽に聞いてみたつもりだったけれど、二人の様相からどうやら地雷みたいだった。言い方からして、どうせ大げさに言っているだけだろうって、タカをくくっていたのに。

 特に、さっきまでのおどけていたマグロが一変。

 血の気がなくなっていて、自分が口を滑らしたことを悔恨しているようだった。

「別に、なんでもな――」

「一年前の一件以来、私の兄が変わってしまったんです」

 バッサリと遮られた。

 鈴の音のような透明感のある声にはっとする。

 見れば、マグロも驚愕していて、余程珍しいことなのかも知れない。

 ――柳生がこうして大っぴろげに話すことは。

「私たちボランティア団体は笑顔が絶えませんでした。最初は小規模で、私と、兄と、樫野くんと、ススキだけだったんですけど。あの時はほんとうに、ほんとうに楽しかった……」

 あ……に……?

 現在の理事長が初期メンバーだと聞かされていたから、もしかしてあの人が柳生の兄なのか。

 はらりと、ほんの一瞬。

 感情を表面化するのが、どこかたどたどしい柳生は肩を揺らしたその時。

 髪の毛がズレて、相貌が露わになった。

 自慢の思い出を語るように、彼女は笑っていた。

 ただ、笑っているだけなんだけど、その底から芯の強さみたいなものが伝わってきて、胸にくるものがあった。

 そんな綺麗な表情も髪の毛に隠れてしまうと、また話し出す。

「だけど、救われなければならないものを救えなかったあの時から、兄は手段を選ばなくなりました。だから私は、今の兄をなんとかしたいんです。どうすればいいか未だに分かっていないんですけど。なんとかしたいんです……他ならぬ、この私が」

 柳生が恐らく無意識に持っているコップ。

 その中の水が、波紋を作っている。

 その震えている手を、マグロが掴んでぴったりと重ね合わせて、テーブルに置く。二人の片手が積み重なるように。まるで千切そうな心を繋ぎ留めるように、ぴったりと。

「私が……私がいるぞ。今、ここに。咲乃の隣には――私がいる」

 妙に説得力のある声が響く。

 なぜか周りの雑音全ては霧消する。

 マグロの……その声で。

「枕を濡らす時がいつかくるかもしれない。また絶望する時がくるのかもしれない。――だけど、それは今じゃないんだ。だから、ここにいさせてくれないかな?」 

「…………うんっ!」

 喜びを、悲しみを、苦しみを、そんな感情を一緒くたにしたような柳生の声音。

 たったの一言なのに、幾千の意味が込められているように、心根まで染みるような気がした。

 湿っぽいような雰囲気の中、ゆっくりと二人がこちらに首を向ける。

 僕も遅れながら首を向けて「んー、誰かなー?」と後ろを向いてふざけてみたけど、あちらさんはノーリアクション。

 やっぱり、そうなります?

 重ね合わせている彼女たちの手に、もう一つ。僕の手を上から重ねる。

 こういう団結するみたいな空気は、正直あんまり好きじゃないんだけど、どうにも断り辛い。またギャグギレした柳生に殴られそうだしね。

 三つの手が重なり合って、

「私たちは今から友達だ」

 マグロが静かに告げる。

 そして三人の視線が絡み合っているけど、僕だけはあんまりいい表情していないような気がする。うーん、ぶっちゃけ、なんについて話しているかも不透明だったから、二人にのまれた。

 だってさ、結局のところ一年前になにがあったのか言及は回避したわけだ。

 それって二人は断ったわけなんだ。

 ……僕に打ち明けるってことを。

 どうしようもなく辛くて、トラウマになるような事件だったとしても、それでも包み隠さず言って欲しかった。結局のところ僕はよそ者だってことを痛感した。僕は一年前、彼女たちの物語には存在しなかった。いうならば途中参加の、イレギュラー因子のような存在なんだ。だったら、きっと当たり前のことか……。

 だけどまあ、いつか話してくれる時がくるだろうって、今は前向きに思うことにする。

 

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