第24羽 コスプレと揶揄され、
「僕は水だけでいいです」
「いなり寿司を頼もうか」
「ここからここまで全部」
三者三様の注文にも、サービス精神旺盛な対応で快く承るウェイトレス。健康的な脚線美を惜しげもなく晒すような短めなスカートが、自然と視線がいく。厨房に戻る前に仲間内で話し合うのは減点対象だが、綺麗どころが明るい笑顔で談笑する姿を見ていると悪くない。
あっ。
そのうちの一人がこちらを見て「は、え? あの人たちなに? コスプレ集団?」とこちらにまで響くお音で囁いていた。きっと、僕らのことが微笑ましいのだと思う。ファミリーレストランにいるお客さんもジロジロとこちらに視線をやっている。
――制服姿の僕と、巫女姿のマグロと、体操服姿の柳生咲乃に。
プリントを届けて終わるはずだったのだけど、お腹すいたから夕飯を食べようという話になって、こうして三人一緒になった。だけど、二人ともほとんど話をしていないのでかなり気まずい。断ろうとしたけど、どんどん話が進んでいって、タイミングを逃してお供するような形になった。
とはいっても、帰宅すればみみみさんの手料理が待っているので水しか注文できず、そのせいでなぜか「あっ、注文しないんだ? せっかくの外食なのに」みたいな一致団結しない人間特有の自意識過剰な申し訳なさがあって、なんか無駄に謝罪しなければらないような感じ。
しかも二人ともしらーっと焦点を合わせずに座っていて、話す気はなさそうだ。お前ら仲悪いのかよ、だったら三人集まるなよ、とか心中で悶絶しながら、周囲にはそれが異常に見えるようで、視線の強さに拍車がかかっている気がする。
こうして俯いていても埒外なので、当たり障りないよう水を向ける。
「あのっ、なんで、柳生さんは体操服姿なんですか?」
「………………」
はい、ナチュラルにシカト。
どうしようか答えようか逡巡しながら、こちらを見やって白い前歯を曝して、そして彼女は困惑したように項垂れたから、もう誤魔化しようがない。ショック受けてるのはこっちのほうだと言いたい。
完全に他者をシャットダウンしてくれる対応だったたら、声が小さかったからとかいくらでも言い訳できたのに……。
すると、柳生はマグロにゴニョゴニョと耳打ちする。うん、うん、とマグロは頷くと、
「濡れたからそうだ」
「どこの通訳だよ! というか濡れたって大丈夫か? 一体何があったのか詳しい話を聞こうか」
表情を隠すような色艶のある髪から見えるのは、儚げで害のなさそうな柳生の顔貌。翳りのありそうにも見えるが、それを補って余りある美麗さが一種のチャームポイントのようになっている。
じっとしていて、手を組んでいる姿ですら絵になっていて、ここがファミレスであることも忘れてしまうほど。そのぐらい女性らしいというか、綺麗だった。
それから、テーブルに載せられることができるほどの胸。体操着だからこそさらに衆人環視の、主に異性からの横槍が入るような気もする。無条件で見続けてもいいのは、ツレである僕ら――
「いってぇっ!」
ガスっ、と凄まじい音がして、細い脛を的確につま先で蹴られた。激痛に足を上げると更に膝がテーブルに激突して、泣きっ面に蜂。せめてもの矜持は、悲鳴を、痛みを訴えないぐらい。うぐぐ、と下唇を噛み締めながら、なんとか見せかけの笑顔を貼り付ける。
「私の咲乃をいやらしい目で見るなよ」
逆鱗に触れられたように憤怒するマグロは空恐ろしい。凶悪なまでの視線に怯えながらも、巫女服だからちょっとシリアスな感じにはなりきれないところがあって、なんかもう、笑えてきてしまう。




