第19羽 幼女に軽蔑され、
「きみ、転校してきた登坂優姫くんだね」
「は、はい。そうですけど、なにか?」
理知的な表情を浮かべる彼女は、精緻な顔立ちをしていてどこか無機質っぽさが感じられる。冷静沈着といった感じ。洗練されたような表情の作りはあまりにも綺麗すぎて、造花のような偽物の美しさを彷彿させる。
銀縁の眼鏡でも掛けていれば完璧な気がするが、無駄な装飾品は一切付けていなかった。唯一のオシャレなポイントとしては、首にかけているネックレスぐらいなものだった。だけど、その銀のチェーンが通しているのは指輪で、また失恋話のきっかけを生む地雷になりかねないので触れなかった。
「今日欠席したうちのクラスの、笠間クロエくんを知っているね?」
「知りません」
自分で転校生だと断定しておきながら、なぜ欠席した人間を既知だと断定するのか。
お嬢様のような姫カットで垂れている横髪を、落ち着き無く弄りながら顎を引く。
「ふむ。その笠間クロエくんなのだが、きみの家から非常に近い位置にあるのは知っているね」
「知りません」
「ふむ。だと思った」
じゃあ、聞くなよ。
純朴そうな瞳は人形のように瞬き一切せず、先生は喋りながらも手はずっと動いていた。ひょいひょいと髪の毛の束を編んでいて、瞬時に小さな三つ編みを作り出していた。
「話の流れでもう分かっているとは思うが、笠間クロエくんに今日配ったプリントを持って行って欲しい」
「…………一応、先に言っておきますけど、その、笠間さん? っていう方の家の場所知りませんよ」
「問題ない。だから私は――ここにいる!」
言い切った感を醸し出しているけど、なびかない。感銘を受けるような不自然な流れには乗らない。
「地獄の底への道案内は、私に任せろ」
良さげな台詞だけど、だいぶ……薄っぺらいな。
というか率先して、生徒を地獄まで案内する先生ってどうだろうか?
「ついてきたまえ。きみの前は私が守ろう」
「あ……はい」
なんだ、この罰ゲーム? 先生と一緒に中学生に戻ったような、この小芝居じみた寸劇を誰かに見られでもしたら悶死してしまいそうだ。
ブッ、と担任の背中に吹き出した。
ゆうりちゃんが蔑視の表情を浮かべていた。
廊下でぎゅっとハグしているせんりちゃんは視界の外だが、ゆうりちゃんにはガッツリ視線が絡み合っていて、言い訳のしようがない。
キ・モ・イ。
たて横に唇を拡張したりの口パクで、直接的な口撃を浴びせてくるゆうりちゃんは心底可愛かった。抱きついている二人に混ざりたかったけど、今はバ――経験豊富な婦女子の従僕になり下がるしかなかった。




