第15羽 豹変されて、
「え? もしかして…………ススキ?」
「ピンポンピンポ~ン! 大・正・解ぃ! そんな君にはこれをあげるッスよっ!」
ぴょんと元気よく跳ねてしゃがみ込む。
ススキは自身の身体の影に隠れていた、二つの紙袋をなにやら漁り始める。
「んーっ、と、えーっと、ちょっと待っててね」
そんなことを言いながらつま先立ちしている彼女は、まるで別人のように女っぽかった。いや、性別は間違いなく女なのだが、まともに美貌を見たのが初めてだったからだろうか。今までのマイナスのイメージが全て好転してプラスに変換された。
「はいっ! これが優ちゃんの分っ!」
高級そうな和菓子の箱を取り出されて、勢いのまま受け取ってしまう。
「いや、そんないいよ、こんな――」
「いいんスよっ、そんなに遠慮しなくてっ! あたし達ボランティア団体のみんなに配るものっスから」
「……あっ、ほんとにいいです」
ボランティア団体の件については保留。というか,目を逸らしたい案件事項だったのに,また思い出してしまった。
あっ,と突然ススキが小さな声を上げる。
いつも元気溌剌なススキの表情が,さっと豹変する。申し訳なさそうな,どこか負い目があるような悲愴な面持ちなのが意外だった。そんな感情を持ち合わせているとは思えない彼女の顔が翳ると,こっちが見ていて傷つきそうになる。
慌てたように廊下を通りかかった女子生徒に声をかけた。
「あっ、さくのん。ねぇ、さくのんにも――」
ススキが和菓子を手渡そうとしたけれど、こちらを一瞬見やっただけですぐに歩いて行った。早歩きで歩く彼女に大幅に道を開ける生徒たち。そんなに強ばった顔をしているのだろうかと思うぐらい、みんなの退きかたに迷いはなかった。
「柳生と知り合いなのか?」
「え? そっちこそ、さくのんと知り合いなの?」
「まあ、ちょっとな……」
柳生咲乃。
少しからかっただけで本気で殴る,それから冗談が全く通じない女。……というぐらいしか柳生のことは知らない。が、知り合いといえば知り合いの範疇に入るだろう。