第14羽 洗礼を受けて、
創立何百周年なのか分からない校舎。
鉄骨が剥き出しになっている箇所があり、強風が吹けば倒壊しそう。それでも、古ぼけている灰色の校舎の背景がより一層、咲き誇る桜の華麗さを際立たせていることには違いない。
昨日降ったあいにくの雨すらも、演出の一つ。
雨に打たれ、はらりと落下した桜の花びらは地面一面に広がる。水溜りに反射する煌びやかな太陽の光が、視界いっぱいに鮮烈な刺激をもたらす。ソメイヨシノの転入歓迎とも受け取れる洗礼を受けながら、新たな校舎の敷地内へと足を踏み入れる。
島の学生は、小学生の頃からほとんど顔なじみばかりらしく、どうやら異端者の存在は浮いている。色違いの前の制服を着ているからといってここまで注目されると照れる。
健やかになれるような自然の香りのある風が、ゆるりと吹く。学校の周りは山林が茂っている関係か、空気が澄み切っていておいしい。涼風が気持ちよくて、これからの学校生活の展望を思い浮かべて浮き足立っているのか、羽のように足が軽い。乳酸蓄積とは無関係の下半身は、妙に開放感がある。
ああ、いい感じだ。
と、思っていたらチャック全開だった。
そそくさと校舎の中に入り、影のある場所で即座に締める。女子の視線が多かったのが、ただの思い過ごしだったということを信じたい。
振り返ろうとすると、
「おっす! 元気、元気ぃ?」
「……どなたですか?」
肩をポン、と親しげに叩いてきた相手にしては、見覚えのない女性。
コンビニに陳列しているスイーツのような、クリーミーな淡いモンブラン色の髪は長め。今にも溶けてしまいそうな笑顔を型どる、薄い唇には艷美さが巣食っている。そしてちょうどいい濃さのバニラ色な化粧の下地が、それら全てを支えていた。
垢抜けた印象の割に、制服の上にはジャージを羽織っているから話しやすい。
これで上から下までバッチリ決められていたら、クラスの綺麗グレープに押し込められるぐらいに、その容姿は一般女子高校生のからは群を抜いている。もしくは嫉妬されて、どの輪からも外されそうだ。
「ひっ――どいなあー、優ちゃんは。命の恩人に向かって、その言い草はないんじゃないんスか?」
命の恩人って……。