第13羽 関係を強要されました。
ヤクザのような人だと、身を竦ませていた自分が恥ずかしい。
薄っすら眉と、耳を貫通されている安全ピン。それからシャツの胸元から僅かに覗かせるのは黒いタトゥーらしきもの。
見た目でレッテルを貼ってしまっていたが、ボランティアに勤しむぐらいだから善意を尊ぶ人かも知れない。
ようやく低姿勢から脱してくれた樫野先輩は、ポケットから何かを取り出す。
「お前にこれを貰って欲しい」
ほとんど特徴のない腕章は、ススキが装飾していたものと一致していた。
というかダサかったのでご遠慮願いたかった。
「いや、ちょっとそういうのはちょっと……」
軽度の対人恐怖症を抱えている僕は、他人と長時間目を合わせることも億劫。なにかのコミュニティに属することには抵抗がある。
「お前にはこれを付けるだけの正義がある。それだけの価値があると見込んでのものだ」
……高校生にもなって河川で溺れた上に、女の子に助けられた僕にはとっても勿体無い言葉ですね。
果たしてこの人は真実を知った上でも、またもや優しくて残酷なセリフをもう一度吐くことができるのだろうか。
「それに、これを受け取ってもらわないと俺の立つ瀬がない。俺をこれ以上辱めるんじゃねぇ。勿論、強制はしないがな」
絶対に断れない雰囲気で、僕は精一杯声を張り上げる。
「ありがたくいただきまーす! 実はこういうことに、昔から興味があったんですよね!」
だって、こんなに強面の方に脅迫されたら首肯するしかない。
はきはきと元気よく言ってはいるが、そうでもしないと指を詰められそうで。
「ああ、そう言ってくれると思っていた。これからは一緒にやっていくぞ。だがまあ、今のところは一応仮入団という形になると思うがな。入団したい時は、自分の意志が赴くままに参加してくれればいい」
堅苦しい口調。
一考すると逃げ場はなさそうだが、その場しのぎの繰り返しでなんとか回避できなくもない。口約束は時間の経過とともに風化する。関わり合いが希薄になってしまえば、あちらからもコンタクトを取りづらくなるはず。
「話は終わったのかしら?」
失礼します、という声と共に襖が開けられると、お盆を手にもつ千恵子さんが立っていた。
「ああ、ちよ姉か。登坂がボランティアに入団を決意表明してくれたんだ」
千恵子さんはそそくさと座りながら、お茶菓子とお茶の用意をし始めた。
「良かった。同年齢ぐらいの子が少ないからって、拗ねてたものね。早速みんなに報告しないと」
「……別に拗ねてねぇから」
頬を赤らめながら呟く彼に説得力は皆無だったのは、お姉さんもだったらしい。にっこりと彼女は微笑む。
「はいはい、そうね」
なにやら姉弟の絆を見せつけられたのだが、こっちはそれどころじゃない。
呆気なく僕は袋の鼠になってしまいました。
チキンレースという名の出来レースに敗北した僕は、やりたくもないボランティア団体に仮入団することになった。




