表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふぁみりーチキン  作者: 魔桜
~flying human~
11/53

第10羽 意識を失いました。

 そして、帰り道の途中で立ち往生している現在に至る――

 橋の下の女の子は自主的に水泳の練習を行っているのか、四肢をばたつかせている。小川の流れは早くて、腕章付いた腕はまるで溺れているように藻掻いている。潜水も兼ねているのか何度も水中から顔を突き出しては、息継ぎをしている。

 ああそうだ、これはもう人命救助するしかないってことは分かりきっている。だけど、そういうわけにもいかなくて。

「くそ、このっ――ド田舎、電波通じねーぞ!」

 辺境の地には文明の利器も役立たずで、興味本位群がる野次馬どころか人っ子一人周囲には見当たらない。速やかな救助増援の見込みはないから、今は急いで助けを呼ぶために奔走しなければいけない。そうするしかない。

「僕はこう見えても泳げないんだよ」

 青白い肌からは想像できないだろうが、運動音痴な僕にとって一番不得手とされる競技が水泳。プールサイドを横断すらできない僕にとって、深度ある川は恐怖の象徴だ。まあ、勉強もできなくてコミュ力もないのだから、いいとこなしなんだけど。

 そして、そんな非力で何もできない僕はようやく、ない頭を絞って素晴らしいアイディアを捻り出すことできた。

「逃げるわけじゃない。逃げるわけじゃなくて、これは誰か助けを呼ぶための才気溢れる行動だ」

 相手が少しばかり顔見知りであるススキだからといって関係ない。

 カナヅチの僕が今ここで助けに駆け出しても、共倒れになるだけで、そんな無駄な犠牲なんて彼女だって望んでいないはずだ。こんなところで命を捨てるような奴は、ただのヒロイズムに浸るナルシストだ。馬鹿の一つ覚えのように自分の正義を振りかざしたところで、人一人ができることなんてたかが知れている。

 分相応に人は生きることで、人は人並みの幸福感を得ることができる。そうやってみんな淡々と生きていて、ディテールに循環する生活を送っている。それがあたりまえのことで、マジョリティ。誰だって妥協――納得していることなんだ。

 だから。

 躊躇なく僕は、息絶えそうなススキのために全速力で走り出した。そう、全ては彼女を助けるためにやっていることなんだ。だけどきっと、僕のこの賢い選択は黒歴史に刻まれることになるだろう。

「――あ、方向間違えた」

 体内に埋め込まれている方位磁石が今回は偶然に狂って、川に向かって足が勝手に進みだした。そのまま勢いは失速することなく、無骨な鉄骨の欄干に掛けた足を滑らせて、そのまま数十メートル下の致死の可能性がある水の底へと目掛けてダイブする。


「ああああああああああああ――もうッ――とっべええええええええええええええ!!」


 開き直り気味に両手を広げて空を抱きかかえながら、口を愉快に歪ませる。

 空気抵抗がシャツをはためかせ、経験したことのないようなアドレナリンが体内に多量に流れる。思考が高揚感に埋め尽くされながら、蒼穹を滑空する。

 だけどそんな無敵タイムにも制限時間があって、無様ながらもそのまま落下していく。

 走馬灯ってやつだろうか。

 とにかく目に見える事象全てがゆったりとスローペースとなって、頭の中では短い人生を振り返っている。短いながらも、この島で出会った人々。誰が一番僕の不幸を悲しんでくれるんだろうか。少なくとも僕の本当の家族の両親よりは、なりたて家族の従姉が悲しんでくれるような気がする。

 どんどん過去を遡っていくスピードは上がり、頭が熱暴走するように沸騰し始めた。以前の学校でやってしまったことや、秋月もみじとの邂逅。それから、大切な、本当に大切な、あいつのことを思い出した。記憶の奥底に封印していた、家族のことを。

 ――そして僕は意識を失った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ