表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

オオカミ少年  後編。



 雨宿りのために寄らせてもらった牧場で、牧羊犬のジャックに出会い

ました。

トヨのお父さんの話や、銀色オオカミさんがナナさん…本当の名前は

ヴァルトさんであることを話してくれました。

トヨに、『良いオオカミは、ヴァルトさん自身です』と言われ、彼は

とても悩んでいる様子でした。


『しばらく一人にして下さい』


そう言われて、トヨとジャックはヴァルトさんを残して納屋から母屋へ

と向かいました。



*****



ジャックに招き入れられた母屋には、羊飼いの青年と若い牧羊犬が

居ました。

トヨはペコッと、おじぎをして自己紹介をします。


「私は、トヨと申します!

すいません、かってに雨宿りさせていただいてしまいました…!」


「僕は、クロード。

こっちはボーダー・コリーのアインだ。


あはは、気にしないで。どうせ、ジャックが呼び止めたんだろう?

ヴァルトの旅の仲間のお嬢さん、歓迎するよ。ゆっくりしていってね。」


「おー? かわった しっぽだなぁー。クンクン」


トヨは頭を撫でられたり、匂いをクンクン確認されると驚いて、思わず

ジャックの後ろに隠れてしまいました。


「トヨ、大丈夫だ。何もしねぇから、俺の後ろにしがみつくな!

ったく。臆病だなぁ、さっきはあんな啖呵(タンカ)切ってたのに。」


ふて腐れてトヨが、ぷいっとそっぽを向いた、


その時です。



ドカァン!!




 ヒツジのいる棟の方から爆発音が聞こえました。


「君は、ここで待っていて!」


 羊飼いのクロードと牧羊犬の二匹はヒツジたちのもとへ向かって

飛び出していきます。

一人残されたトヨは少し悩んで、すぐに顔を上げました。


「…ヴァルトさんを、呼びに行ってみましょう!」


トヨもヴァルトに援軍を頼みに行こうと、ドアに走り寄ろうと

ドアを見ます。

すると、勝手にドアが開きました。そこに立っていたのは……。



*****




 ヒツジたちの小屋は大きな風穴が開いていましたが、中にいた多くの

ヒツジたちは無事でした。


「どういうことだ?」


ジャックが不審そうに、壁に出来た穴を見ていると、


「何の騒ぎですか、すごい音がしましたが…。」


ヴァルトさんが羊飼いたちに駆け寄って尋ねます。

ヒツジたちは 怖い思いをしてすぐ、突然『オオカミ』が姿を見せたので

混乱してまた騒ぎ始めそうになりました。



 気を利かせたジャックが、小屋から離れた位置で説明をします。



「そうですか…。ところで、トヨはどこにいるのですか?」


口元に手を当てて考えていたヴァルトが、ジャックに尋ねると、


「あれ、母屋に居たはずだが…?」


「いえ、母屋には誰も ……っ!まさか…!」


「フフフ、そのまさかだよ。」



 ヴァルトとジャックがほぼ同時に振り返ると、そこには満月に照らされた

眼鏡のオオカミさんと、縛られて身動きの取れないトヨが居ました。


「君は目障りなんだよ、銀色。

ここは僕のナワバリだ、早々に出て行って欲しいな。」


ヴァルトさんが眼鏡のオオカミさんをギッと鋭く睨みました。


「トヨから手を離しなさい!…関係のない、その子を巻き込まないで下さい!


私は翌朝には出て行きますから!!」


ヴァルトさんは犬歯をむき出しにして、眼鏡のオオカミさんを威嚇しています。

しかし眼鏡のオオカミさんは、それを歯牙にもかけずにハァー…とため息を

吐いてトヨの頭をポスポス軽く撫でます。


「かわいそうに。君、関係ないんだって。

その上、翌朝には置いていくつもりだったみたいだよ?ヒドイ男だなぁ、

銀色って。」


「お前に、そんなことを言われる筋合いはありません!」


ジリジリと間合いを詰めるヴァルトさんに、眼鏡のオオカミさんはニンマリと

嫌な笑顔でトヨを片手で抱えて言います。


「この子、僕がもらってあげようか? 銀色はいらないみたいだし、」


ザシュッ と、肉が裂ける音がしました。



「トヨから、離れなさい。


これが最後の警告です。 次は…ありませんよ。」



月明かりに、ヴァルトさんの鋭い爪がギラリ、と輝きます。ポタリ、と赤黒い

雫が落ちました。


眼鏡のオオカミさんの肩から、じわじわ赤黒いものが染み始めます。

それを他人事のように見てから、眼鏡のオオカミさんは少し腹立たしげに、

ため息をつきました。


「まったく、君は本当にメンドクサイ。

そんなに大事なら、簡単に『離れる』とか言うな。


…はぁーあ。サッサと、この子を連れてどこかへ行きなよ…。

銀色、君のその辛気くさい顔、ムカツク。二度と僕の前に現れないでくれ。


……じゃあね。」


縛られたままのトヨを トンッと、ヴァルトさんの方へ押して、眼鏡のオオカミさんは逃げて行きました。


「トヨ…!」


倒れて来たトヨをしっかり抱きとめてから、ヴァルトさんは 逃げて行く眼鏡のオオカミさんを追おうとしました。


しかし、ジャック行く手に立ちはだかります。


「ジャック、なぜ止めるのですか!」


「ちょっと、冷静になれってんだよ。


…追う必要がないからだ。

トヨ。あいつ、お前に何か言ってなかったか?」


ジャックに縄を解いてもらったトヨが、その場に座ったまま話始めます。



「ジャックさんたちがいなくなって、すぐに、あのメガネのオオカミさんが

やって来て、


『あいつらは、爆発の音におびき出されて居ないよね?

…今から、君には僕と茶番を演じてもらうよ。なぁに、君は何も話さなくて

いいよ。

上手くいけば、君は銀色に置いていかれないで済むよ?』


…と言われました。」


 ヴァルトさんは、驚いて目を見開きます。

ジャックは、後から来たクロードとアインに説明しながら、目で合図して続きを

促しました。


「私、どうしたらいいのか、とても迷ったけど、置いていかれたくなくて、

協力してしまったんです!ご、ごめんなさい!!」


トヨが泣きそうになって、ぎゅっと歯を食いしばります。

ヴァルトさんはただ、トヨの両手を握って、首を横に振って言いました。


「あなたが、怪我をしていないなら、いいのです。

…危うく、『あなたを決して置いていかない』という約束を、私は破るところ

でした。


勝手に決め付けて、あなたの意思を聞こうともしなかった…すいません。」



「あの、私、ヴァルトさんとまだ、旅がしたいです!…だめでしょうか…?」


じわぁ、と今にも涙が零れ落ちそうに、トヨの瞳で揺れます。

その瞳をしっかり見つめて、ヴァルトさんは問いかけました。


「それは、恩返しのためですか?」


トヨは目をパチパチさせて、考えて、すぐに答えました。


「…いいえ、私、ただ ヴァルトさんと、はなれたくなくて。

…どうして、でしょう…?


あぁ…っ ごめんなさい、恩返しのこと、ヴァルトさんに言われるまで忘れて

ました!」


「いいのです。恩返しのことは、忘れて下さい。」


その言葉で、不安そうな顔をするトヨに、ヴァルトさんは優しい声で言います。



「トヨはもう、十分過ぎるほど、私に与えてくれましたよ。

こんなどうしようもない私を、最後まで見捨てずに、腕を引いてくれて、

本当に…ありがとうございます。


あなたが、もし嫌でないならば……どうか、ずっと私のそばにいて下さい。」



最後には、ペコリと頭を下げられて、トヨは大混乱です。

でも、『このまま、一緒に居られる』ということは分かったので、嬉しくて


「…はいっ!」


と、元気に返事します。


「ちょーっと待ちなぁ!!」


ところが、ジャックさんたちが、”待った”をかけました。


「なんですか。」


「”なんですか”じゃねぇよ!シレっと、とんでもないことを言うな、馬鹿!

ドーベルマンのお巡りさん呼ぶぞ!!」


ヴァルトさんはちっとも動じていませんが、トヨは何か、自分が悪いことを

したのかと飛び上がりました。


それを、ヴァルトさんが『落ち着いて下さい』と頭を撫でて、


「大丈夫です、トヨ。

何も悪いことはしていないのですから、怯えなくていいのですよ。


…たまたま、貴女が私より少し年下だっただけのことです。」


今まで見たことの無いような良い笑顔で、そう言いました。


「馬鹿野郎ーッ!何が”少し”だ! アグ◯スを呼ぶぞ!

いくつ歳の差があるか、いってみろテメェ!!


お前、俺と同じ歳だろうがッ!!」


トヨは、びっくりしてカッと目を見開いてしまいました。

ジャックはかっこいいけれど、トヨから見ると少しだけおじさんに見えます。


…と、いうことは。

ヴァルトさんは、若そうに見えていたけれど、おじさんだったようです。


「おじさんの私は、嫌ですか…?」


「? いいえ、ヴァルトさんはヴァルトさんですから、気にしません。」


ヴァルトさんはニコニコと嬉しそうですが、トヨは頭からハテナを出して

首を傾げています。


「おい…、何も知らないトヨを(たぶら)かしてどうしようってーんだ、

お前…。

とりあえず、親友の娘のピンチだから殴って良いよなぁ…?」


ジャックは全身をガタガタ震わせて、拳を握りしめています。


「誑かすなんて、とんでもない。

私は真剣です。…トヨには、少しずつ教えていけば良いのですよ。

少しずつ、ね?


そんなことより、トヨ?その封筒は何ですか?」



 トヨ以外のジャック、クロード、アインがヴァルトさんの妖しい笑みに

凍りついている間に、ヴァルトさんは謎の封筒を発見しました。

トヨに問いかけてみます。


「あ!

これ、メガネのオオカミさんが私をぐるぐる巻きにする前にくれたんです。

『もし、ダメだったら僕が一緒に行ってあげるよ』って言ってましたけど…

何でしょうか?」


封筒を開けてみたけれど、トヨは字が読めず、しかも人間の文字だったので

クロードさんに読んでもらうことにしました。


「何々…? あ。これ、船のチケットだよ。行き先は……。あぁ。

…極東の国 ヤマト行きだね。」


「ヤマト…!?」


それを聞いて、反応したのはジャックでした。


「ヤマトって言ったら、トヨの両親の生まれ故郷だ。

って、…あいつ、なんで知ってんだよ。まさか…ストーカーか…?」


ヴァルトさんの目が、ギラリと殺気で光りました。

トヨは首を傾げたままです。


「お?手紙が入ってた。


『これは、僕の名誉のために言わせてもらうけど、僕はストーカーでも

ロリコンでもありません。勘違いしないでよね。』

…すごい。ジャックの考え、読まれてるぞ。」


ジャックはバツが悪そうに、頭をガリガリと掻いて『続き読めよ』

と、言います。


「ええと。


『この手紙を読んでいる、ということは無事に和解が出来たんだね。

おめでとう。心の底からどうでもいいけどね。


偶然、僕の故郷がヤマトだったから、あの子が柴犬だと分かってちょっと

おせっかいしたくなっただけの話だよ。ただのキマグレ。


まぁ 上手くいったなら、僕はこう言うしかない。リア充爆発しろ。以上。』


…なんか、不思議な奴だったね…?」




 ふと、よく見ると、トヨがソワソワ モジモジしながら、ヴァルトさんを

見ています。

それに気付いて、ヴァルトさんはトヨに言いました。


「次の行き先は、ここにしませんか? トヨ。」


トヨは尻尾をパタパタさせて、


「っ! いいんですか…!う、嬉しいです!」


ぱぁあっ、と花が咲いたような笑顔になりました。


そんな嬉しそうな顔をされたら、ジャックだって『やめとけ』なんて、

野暮なことは言えなくなってしまいます。


心の中で、トヨの父親であり親友に、申し訳なくて手を合わせました。




翌日、二匹は極東の国 ヤマトへ向かって旅立って行きました。





次のエピローグで完結です。

もう少しだけ、お付き合い下さい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ