七匹の子やぎ。
小高い丘に、小さな可愛らしいお家が建っています。
花が咲きほこる庭で、今日も元気に、子やぎたちは
遊んでいます。
「ナナさん、大丈夫ですか?」
「大丈夫ではありません。」
きゃー、きゃー、と子やぎたちはナナによじ登って
はしゃいでいます。
ここに来て、もう一時間もこの調子なので、ナナさんは
疲れてぐったりしています。
すると、丘を走って登って来る一匹の影が。
「こらー!お客さんになんてことしてんだ、おまえら!」
やってきたのは、小さいけれど目がキリリとかっこいい
オオカミさんです。
「リリー!」「やっときた!」「あそぼー!」
子やぎたちは嬉しそうに、ナナさんから離れてリリーの方へ
走っていきます。
「あぁ、おまえ銀色のか。この子らが迷惑かけたなぁ。
ごめんよ?人懐っこいのはいいんだけど、怪しい奴に
付いていかないように言っておかないとな。」
「ナナさんは、怪しくありません!」
トヨが、プンプンと怒ります。
リリーが驚いて、そういうつもりで言ったんじゃない、
ごめんよ。と、謝りました。
「それで、あなたはここで何をしているんです?
子やぎたちに、ずいぶんと懐かれていますね。」
ナナさんが、不思議そうに尋ねました。
「あたしは、こいつらがあんまりにも危なっかしいから、
遊んでやりながら、『へんなのにきをつけろよ』とか、
『ひろいぐいすんなよ』とか教えてるだけだよ。
まぁ、『オオカミ』が言うなよって話だけど。」
子やぎたちが、リリーをぐいぐい引っ張ります。
「あそぼうよ!」「あそぼう!」「リリー、あそぼう!」
「ちょっと待ちな!ちゃんと、七匹いるか数えてからな!」
リリーが、ひい・ふう・みい・よー と、数え始めます。
「いつ、むー、 ん!?もう一匹いないぞ!」
リリーと子やぎたちは、慌てました。
この近くには昼間でも暗い森や、危険な崖があるのです。
「ナナさん!私たちも迷子のこやぎさんを探しましょう!」
トヨがナナさんの腕を掴んで、はりきっています。
そして、みんなで手分けして探しに出ようとしていた、
その時です。
「おーい!みんなー!」
暗い森のある方の丘の入口から、体が一際小さい子やぎと、
その子やぎに連れられた誰かが登って来ました。
「あんた!一匹で行動するなって、あれほど言っただろ!」
リリーは駆け寄って、子やぎのほっぺたをムギュウ!と引っ張ります。
「ごむぇんにゃはーい!(ごめんなさーい)」
「あぁ、あまり怒らないであげて。
私が、この辺りでリンゴが成っているところがないかしら?と、尋ねて
この子に案内してもらってしまったの。」
黒檀のような艶やかな黒髪の、ぽってりと赤い唇をした色白の少女が、
困ったように笑って、手元のバスケットに入ったリンゴを見せます。
「あなたは、白雪姫ではありませんか?」
ナナさんは、とても驚いています。
「えぇ!おひめさま、ですか!」
トヨも驚いていますが、どうやら『お姫様』が何かは知らないようです。
「うふふ。お義母様とお父様と王子様に、美味しいアップルパイを作って
差し上げたくて、リンゴを探していたら迷ってしまったのです。
この子が来てくれて、助かりました。ありがとう、勇敢な子やぎさん。」
白雪姫は、子やぎの頭を優しく撫でて、お礼を言います。
子やぎは嬉しそうに、エッヘン!と胸を張りました。
「みなさん、リンゴが必要だった量よりもたくさんありますの。
ご一緒に、アップルパイを作って食べませんか?」
子やぎさんたちは、ワーイ!と喜びました。
白雪姫、リリー、子やぎたちのお母さん、トヨでアップルパイを作ること
になり、ナナさんはまた子やぎたちの遊び相手をすることになりました。
「ナナさん、疲れていたみたいだったけど、大丈夫でしょうか?」
トヨは、リンゴを切りながら心配でソワソワしています。
リリーは手元が危ないぞ、と言いながら笑って、トヨから包丁を取り上げます。
「銀色のも、あれくらいで倒れたりしないから大丈夫さ。
あいつには、本当に感謝してるよ。子やぎたちと遊ぶのは大変だけど、
まぁまぁ楽しくやってるからね。」
「感謝? どうしてですか?
ナナさんが、リリーさんになにかをしたんですか?」
リリーさん、ニコニコと笑いながらトヨに言いました。
「具体的にはナイショ。
でも。こうやって、みんなが楽しくなったってーのに、あいつは気付いてない。
心に目隠しをしているのかもな。だからさ、トヨ。」
「は、はい!」
トヨの手を、リリーが強くギュッと握ります。
「気付かせてやってくれないか。
『良いオオカミ』の話は、もうみんなが知ってる。
もう大丈夫なんだって。」
トヨには何のことか分かりませんでしたが、リリーの必死な様子を見て、
何度もうなづきました。
出来上がったアップルパイは、香ばしい匂いと甘酸っぱい良い匂いがして、
とても美味しそうでした。
しかし、トヨは考え事に夢中で、子やぎたちにアップルパイを横から
とられても気が付きません。
「トヨ、お腹でも痛いのですか?」
ナナさんが心配しても、子やぎたちに尻尾を引っ張られても、トヨは
上の空です。
『少し放っておいてみよう』と、ナナさんは黙っていました。
けれど、トヨの様子は翌朝、丘の上の家から出発する時になっても変わらず、
上の空のままです。それに、いつもはコロコロ変わる表情が、今日は眉間に
シワを寄せたままの形で固まっています。
ふと、トヨは 決心したようにに立ち止まって、ナナさんの目をしっかり
見て、言いました。
「私は、ここまで連れて来て頂いても、自分が何者なのか分かりません。
でも、少なくても『オオカミ』では無いような気がしてきました。
容姿がぜんぜん違いますし、今までに出会った、ナナさんも茶色い
オオカミさんも、リリーさんも素敵です。
『オオカミ』は、みなさん あんなにも立派なのでしょうか。」
「立派などではありません!」
突然、ナナさんが声を荒げました。
声は怒っているのに、泣きそうな顔をして体をブルブルと震わせて
います。
「『オオカミ』は、卑怯で小賢しくて、簡単に嘘だって吐きます!
どんな、良いことを言われても、優しくされても、絶対に信じては
いけないのです!」
あまりの迫力に、トヨは怯えています。
それを見たナナさんは我に返り、もっと泣きそうな顔になりました。
「トヨ、怖がらせて、すいません。
…あぁ、やはり限界かもしれません。トヨ、私についてくるのは、
もうおやめなさい。
この先も、私はあなたに関係の無い八つ当たりを、してしまうかも
しれません。
そんなの、嫌です。私に、そんなことをさせないで下さい。」
そう言ったきり、ナナさんは道の端にうずくまって、動かなくなって
しまいました。
『どうしよう』と、トヨは必死に考えました。考えて、考えて。
やっと、答えを出しました。
トヨは、ナナさんの腕をグッと掴んで、小さい体で引っ張ります。
「ナナさん!私は、まだあなたに助けていただいた ご恩を返していません!
怒鳴られたって 置いていかれたって、追いかけて行って、あなたに必ず、
恩返しをします!私は、結構しつこいんですから!
なにが恩返しになるのか、私には さっぱり分かりません。
でも、進んだ先で、思いつくかもしれません!
先に進みましょう?
ナナさんは、今どこへ行きたいんですか?」
引っ張っても、引っ張っても、ナナさんは動きません。
子どもと大人、さらにナナさんは男です。大きさが全然違います。
ビクともしません。
それでも、トヨは一生懸命に引っ張ります。
ここで諦めたら、もう二度とナナさんには会えないとトヨでも
分かってしまったからです。
どれくらいの時間、引っ張っていたでしょうか。
先に折れたのは、ナナさんでした。
黙って立ち上がって、困った顔でトヨを見つめています。
そんなナナさんに、トヨは にっこり笑って言いました。
「さぁ、行きましょう!」
トヨが、ナナさんの手を握りしめて ズンズンと、森の道を進みます。
二匹は、森を越えて、山を越えて、まだまだ進んでいきます。