持ち主の機嫌で色の変わる花を、婚約者にプレゼントされたら。
最近、持ち主の機嫌で色が変わる花が流行っているらしい。
「あら」
「おっと…」
リボンがかかった噂の花の一輪を、婚約者のカーターから手渡された途端、ぱっきりとした黄色から寂しげな青色に変わった。
「本当に変わるのですね、色が」
私は花びらを観察するように見ていたが、カーターはなんとも言えない顔で私を見ていた。
「どうされましたか?」
カーターを見上げると、花と同じ色の目が微かに揺れていた。
その瞳の色を吸収したみたいな花の色は、私の機嫌を表しているらしい。
「あっ、いや…、その」
「あなたの瞳の色で綺麗ですね」
「…そうくるか」
カーターはうーんと悩ましげに表情を変えた。
「僕は期待していたらしい」
「と言いますと?」
「赤やピンクに変わったら嬉しいなとどこかで思っていたみたいだ」
そう言って見つめてくる瞳が、切なそうに私を見ていた。
「青ではお気に召しませんでしたか?」
「いや、とても綺麗だと思う。…だが、この花の色が変わる理由は知っているかい?」
「持ち主の機嫌で変わるのでしたよね?」
「そう。…だから、僕と一緒にいるのは、つまらないのかなって」
そこまで言って頭を掻いたカーターを見て、私はフフッと笑ってしまった。
「あら、ごめんなさい。違うのですよ」
私は空いている方の手で、カーターの右手の指先を握った。
「あなたが悪いのではないのですよ。ちょっと悲しいことがあって、それを引きずっていたみたい」
私が素直にそう言うと、カーターは目を見開いた。
たしかに、持ち主の気持ちを反映しているらしい。
よくできた商品だなぁ、と感心してしまう。
「そうなのかい?いつもと変わらない笑顔だから、気づかなかったよ…」
「では、取り繕えていたのですね。よかった」
私が微笑むと、触れ合っていた手をぎゅっと握り締められた。
カーターの目が、さっきよりもずっと悲しげに揺れていた。
「そんな笑わないでくれ…。僕では、何もできないかい?」
「ああ、そんなあなたまで悲しい顔をしないでください。大丈夫ですよ」
「でも…っ」
「私の乳母がですね、もう歳だからと田舎に帰ってしまうことになったのです。今までずっと一緒にいてくれたから、離れるのが寂しいだけなのです」
「そうか…」
「ええ、でも仕方のないことではあるでしょう?だから、気にしないでくださいね」
そこまで言うと、なぜかカーターはもっと苦しげに表情を歪めた。
「そんなことがあったのなら、笑わないでもよかったのに…」
「え?」
「僕の前でも取り繕うってことは、その、僕は頼りないかな…?」
カーターのまっすぐな気持ちが届いて、嬉しくて、やっぱり笑ってしまいそうになる。
「だって、私が悲しんでいたら、あなたまで悲しんでしまうでしょう?」
「そりゃあそうだよ」
「だから、心配させたくなかったのですよ」
この花には気持ちまでは暴かれてしまったが、気遣いまでは現れなかったみたいだ。
「あなたには、笑っていてほしいですもの」
「僕は、君と気持ちを共有したいよ」
青色の目が、私をずっと見つめていた。
こういうところが、彼のいいところだと思う。
私に手渡すまで、真っ黄色だった花を思い出す。
「では、お茶しながら、乳母との思い出話を聞いてくださいませんか?楽しい思い出を話していたら、気分も変わるかもしれません」
「もちろんだよ」
カーターは優しげに笑うと、私をエスコートしてくれた。
庭に風が吹いて、手にしている淡い青にほんのり変わった花も揺れた。
「そういえば、さっきまで黄色でしたが、カーターは私に会うのを楽しみにしていてくれたのですね」
「それは、そうだよ…」
歯切れ悪く返ってくるので、不思議に思って顔を見ると、カーターは顔を赤らめていた。
ううう、と呻きまで聞こえた。
今度こそ、私は笑ってしまうのだった。
自分でプレゼントとして用意してきたのに、気持ちを色で示されても気にしていなかったところが、彼らしくて微笑ましい。
花びらの先が、少しだけピンクになったみたいだった。
了
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