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持ち主の機嫌で色の変わる花を、婚約者にプレゼントされたら。

作者: 有梨束
掲載日:2026/06/13

最近、持ち主の機嫌で色が変わる花が流行っているらしい。


「あら」

「おっと…」


リボンがかかった噂の花の一輪を、婚約者のカーターから手渡された途端、ぱっきりとした黄色から寂しげな青色に変わった。




「本当に変わるのですね、色が」

私は花びらを観察するように見ていたが、カーターはなんとも言えない顔で私を見ていた。


「どうされましたか?」

カーターを見上げると、花と同じ色の目が微かに揺れていた。


その瞳の色を吸収したみたいな花の色は、私の機嫌を表しているらしい。


「あっ、いや…、その」

「あなたの瞳の色で綺麗ですね」

「…そうくるか」

カーターはうーんと悩ましげに表情を変えた。


「僕は期待していたらしい」

「と言いますと?」

「赤やピンクに変わったら嬉しいなとどこかで思っていたみたいだ」

そう言って見つめてくる瞳が、切なそうに私を見ていた。


「青ではお気に召しませんでしたか?」

「いや、とても綺麗だと思う。…だが、この花の色が変わる理由は知っているかい?」

「持ち主の機嫌で変わるのでしたよね?」

「そう。…だから、僕と一緒にいるのは、つまらないのかなって」

そこまで言って頭を掻いたカーターを見て、私はフフッと笑ってしまった。


「あら、ごめんなさい。違うのですよ」

私は空いている方の手で、カーターの右手の指先を握った。


「あなたが悪いのではないのですよ。ちょっと悲しいことがあって、それを引きずっていたみたい」

私が素直にそう言うと、カーターは目を見開いた。


たしかに、持ち主の気持ちを反映しているらしい。

よくできた商品だなぁ、と感心してしまう。


「そうなのかい?いつもと変わらない笑顔だから、気づかなかったよ…」

「では、取り繕えていたのですね。よかった」

私が微笑むと、触れ合っていた手をぎゅっと握り締められた。


カーターの目が、さっきよりもずっと悲しげに揺れていた。


「そんな笑わないでくれ…。僕では、何もできないかい?」

「ああ、そんなあなたまで悲しい顔をしないでください。大丈夫ですよ」

「でも…っ」

「私の乳母がですね、もう歳だからと田舎に帰ってしまうことになったのです。今までずっと一緒にいてくれたから、離れるのが寂しいだけなのです」

「そうか…」

「ええ、でも仕方のないことではあるでしょう?だから、気にしないでくださいね」

そこまで言うと、なぜかカーターはもっと苦しげに表情を歪めた。


「そんなことがあったのなら、笑わないでもよかったのに…」

「え?」

「僕の前でも取り繕うってことは、その、僕は頼りないかな…?」

カーターのまっすぐな気持ちが届いて、嬉しくて、やっぱり笑ってしまいそうになる。


「だって、私が悲しんでいたら、あなたまで悲しんでしまうでしょう?」

「そりゃあそうだよ」

「だから、心配させたくなかったのですよ」


この花には気持ちまでは暴かれてしまったが、気遣いまでは現れなかったみたいだ。


「あなたには、笑っていてほしいですもの」

「僕は、君と気持ちを共有したいよ」

青色の目が、私をずっと見つめていた。


こういうところが、彼のいいところだと思う。

私に手渡すまで、真っ黄色だった花を思い出す。


「では、お茶しながら、乳母との思い出話を聞いてくださいませんか?楽しい思い出を話していたら、気分も変わるかもしれません」

「もちろんだよ」

カーターは優しげに笑うと、私をエスコートしてくれた。


庭に風が吹いて、手にしている淡い青にほんのり変わった花も揺れた。


「そういえば、さっきまで黄色でしたが、カーターは私に会うのを楽しみにしていてくれたのですね」

「それは、そうだよ…」

歯切れ悪く返ってくるので、不思議に思って顔を見ると、カーターは顔を赤らめていた。


ううう、と呻きまで聞こえた。


今度こそ、私は笑ってしまうのだった。


自分でプレゼントとして用意してきたのに、気持ちを色で示されても気にしていなかったところが、彼らしくて微笑ましい。



花びらの先が、少しだけピンクになったみたいだった。







お読みくださりありがとうございました!!

毎日投稿164日目。

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― 新着の感想 ―
なんか、ホッとする。
価値観が違っても話し合って歩み寄れる、可愛くて素敵なお話をありがとうございます。
最近破棄ものばっかりだったから大変嬉しい…!!涙
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