慰め
「ねぇ、サード君! あの時、私が脱出ポッドに押し込んだこと……恨んでない?」
唐突な問いと真摯な眼差しに――ステーキチューブを握る手が止まる。
「……恨む意味が分からないし、アシュリーを責める理由が無いですよ。僕はあのとき当直中でブリッジにいて幸運だった。それだけです」
アシュリーは息を吐き、指先のアイスクリームキューブに視線を落とす。
”やっぱ姿勢良いし、上背あるよな”
彼女の旋毛を見つめて待つが、やはり話は終わりではなかった。
「居住区と機関部が制圧されたの、3分もかかってない。誰かが騒ぎ出して、機関銃の連射音が響いて……」
「私も応戦したんだけど、拳銃程度じゃね」
腰から吊したホルスターを拳で小突くアシュリー。
「他の船員は?」
意を決した僕は、ずっと訊けずにいた疑問を口にした。
「保安員のサキ氏に無線で『避難誘導を最優先しろ』って言われて……でも、君以外には、誰も出会えてない」
アシュリーの震え声だけが、円錐形の船室に反響する。
「せめてカレン先生だけでも連れて逃げられたら……でも、どうにもならなかった」
スペシャリストで構成される商船船員は大なり小なりプロフェッショナルとしての矜持を抱えているものだ。一介の三等航法士に過ぎない僕でも、保安員としての後悔は容易に想像できる。
隣り合ったシートに座った状態で、何度も頷いてみせたが、沈黙が落ちた。
”うわぁ……どうしたら……”
重い空気に耐えられず、僕は高速で論点を纏め、早口で言葉を並べる。
「商船学校で学んだ知識なんだけど、話してもいいかな?」
アシュリーは顔を伏せたままだが、ここで話を止めたが最後、気まずさが臨界突破してしまう。
「統計上、スペースジャックで殺人が起きる確率は2割程度。近年では更に下がる傾向にある。何故だか分かるかい? 奪った貨物を捌く以外に身代金ビジネスが存在するからさ。死んでしまっては船主から身代金も取れない。負傷した場合も治療を受けられるケースが殆どらしい。おまけにアイリス・カーゴが積んでいるのは辺境向けの精製水と合成タンパク質、正直ブラックマーケットで売っても大金にならない。だからさ……」
そこまで一気に喋って、ペースを落とす。
「楽観的なのは論外だけど、そこまで悲観的にならなくてもいいかも。多分、また皆に会えるよ」
ようやくアシュリーが顔を上げ、力なく笑みを浮かべる。
「ありがとう、慰めてくれて」
そしてすぐ、いつもの調子に戻る。
「やっぱり疲れてるね……どうしても、悪い方ばっか考えちゃう。思い切って仮眠しようか? 寝られるかどうかは分からないけど」
「了解しました」
敬礼ついでに非常食をダストシュートに放り込み、就寝準備。
「照明落とすよ、サード君」
こうして僕らは、中央コンソールを挟むように耐G座席を展開し、それぞれのベッドで眠りについたハズだった。




