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オフウオッチ

 積層海図を両手で縮尺変更(ピンチアウト)すれば、少しずつ離れていく赤と青の輝点。


「まさかスペースジャック犯も、脱出ポッドが軌道修正しているとは思わないはず」


「お疲れ様、サード君。やっと一息つけるね」

 僕の肩口を掴み天地逆さのまま、海図を覗き込んでいるアシュリー。


「それでも油断は禁物。助けに来るのが奴らじゃ洒落にならない」


 ”速度差から逃げ切れる保証は無いけど……貨物船を奪った今、わざわざポッドを追ってくるだろうか?”



***********************



 無重力に手間取ったが、船内備品の確認は全て済ませた。こうなると、やるべき事は数時間置きに恒星観測で海図との差異(ズレ)を確認する位。

 アシュリーが活動服を再格納し終えたので、二人して休息(オフウォッチ)に入ることにした。


 本来、定員12名が座れる円形に並んだ対G座席。そのうち二つを倒し、収納された非常食をそれぞれ引っ張り出す。流石にバナナ味のモノは皆無。給養員のヤンセンさんは分かってらっしゃる。


 せめて景気づけにと選んだのは、備蓄数の少ない合成ステーキチューブ、飲み物はビタミン飲料のストローパック。

 だが、味つけも食感も悪くないのに、なかなか喉を通っていかない。


 ふと隣に目をやれば、アシュリーがフリーズドライのアイスクリームと格闘していた。


 白状してしまえば――

 彼女とは一夜を共にした事が何度かある。貞操観念が多少緩いらしく他の船員クルーとも関係を持っているという噂……とは言え、正直、嫉妬するほどの仲じゃない。

 気安い同僚で、上陸時の呑み友達。船を渡り歩く傾向が強い保安員ながらアイリス・カーゴ号への乗船歴は長く、僕の希薄な交友関係の中でも、さらに希少な『異性の友人』と呼ぶべき存在だ。


「食事中だけど、話してもいいかい?」


 口の周りだけ粉末で白くなった顔がコチラを向く。駄目だ、つい笑ってしまう。


「いや、なんて事ない話なんだけど……目の前にいるのがアシュリーで助かったと思っている。カレン先生みたいな完璧美人や渋面の船長と二人きりなら、とっくに息が詰まっているよ」


「私じゃドキドキしないって事? ちょっとデリカシー足りないんじゃない」


 アシュリーが口の周りを手の甲でゴシゴシと拭う。眉根も寄せているが、いつもの戯れ合いの延長線。すぐさま苦笑いに変わるハズ。

 そう油断していた僕を不意討ちする様に、彼女は思い詰めた表情を浮かべ、こちらに向き合った。


「ねぇ、サード君!」


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