オフウオッチ
積層海図を両手で縮尺変更すれば、少しずつ離れていく赤と青の輝点。
「まさかスペースジャック犯も、脱出ポッドが軌道修正しているとは思わないはず」
「お疲れ様、サード君。やっと一息つけるね」
僕の肩口を掴み天地逆さのまま、海図を覗き込んでいるアシュリー。
「それでも油断は禁物。助けに来るのが奴らじゃ洒落にならない」
”速度差から逃げ切れる保証は無いけど……貨物船を奪った今、わざわざポッドを追ってくるだろうか?”
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無重力に手間取ったが、船内備品の確認は全て済ませた。こうなると、やるべき事は数時間置きに恒星観測で海図との差異を確認する位。
アシュリーが活動服を再格納し終えたので、二人して休息に入ることにした。
本来、定員12名が座れる円形に並んだ対G座席。そのうち二つを倒し、収納された非常食をそれぞれ引っ張り出す。流石にバナナ味のモノは皆無。給養員のヤンセンさんは分かってらっしゃる。
せめて景気づけにと選んだのは、備蓄数の少ない合成ステーキチューブ、飲み物はビタミン飲料のストローパック。
だが、味つけも食感も悪くないのに、なかなか喉を通っていかない。
ふと隣に目をやれば、アシュリーがフリーズドライのアイスクリームと格闘していた。
白状してしまえば――
彼女とは一夜を共にした事が何度かある。貞操観念が多少緩いらしく他の船員とも関係を持っているという噂……とは言え、正直、嫉妬するほどの仲じゃない。
気安い同僚で、上陸時の呑み友達。船を渡り歩く傾向が強い保安員ながらアイリス・カーゴ号への乗船歴は長く、僕の希薄な交友関係の中でも、さらに希少な『異性の友人』と呼ぶべき存在だ。
「食事中だけど、話してもいいかい?」
口の周りだけ粉末で白くなった顔がコチラを向く。駄目だ、つい笑ってしまう。
「いや、なんて事ない話なんだけど……目の前にいるのがアシュリーで助かったと思っている。カレン先生みたいな完璧美人や渋面の船長と二人きりなら、とっくに息が詰まっているよ」
「私じゃドキドキしないって事? ちょっとデリカシー足りないんじゃない」
アシュリーが口の周りを手の甲でゴシゴシと拭う。眉根も寄せているが、いつもの戯れ合いの延長線。すぐさま苦笑いに変わるハズ。
そう油断していた僕を不意討ちする様に、彼女は思い詰めた表情を浮かべ、こちらに向き合った。
「ねぇ、サード君!」




