融ける嘘
ボム――。
レーザー通信から短い爆音が聞こえ、映像も音声も唐突に途絶えた。
しばらくして、ポッド外壁をデブリ群が叩いたが、それも直に終わる。
そうか…………解錠コードは13桁、ヤツらに教えたのは9桁のコード。
おそらく由来は、『ヴェニスの商人』の詩句。
”AIYWUSWNR”――
“And if you wrong us, shall we not revenge(我らを傷つければ、復讐せぬとでも)?”
”アイリス・カーゴの復讐装置……副長の与太話じゃなく、本当にあったんだ……”
あまりに有名なシェイクスピアの喜劇を思い出して呆ける僕に、誰かが飛び込んできた。
二人して無重力を飛び、船室のアチコチにぶつかりながら、アシュリーが叫ぶ。
「私は貴方以外の男に抱かれるつもりなんて、ないんだから!」
叫ぶような泣き声と、むしゃぶりつくようなキス。
ああ、どれだけ怖かったんだろう。
ごめんよ、アシュリー。
裸のまま媚びを売り、銃を突きつけ、偽のコードを叫ぶ。全てが命懸けの芝居。
僕は改めて、命が繋がったことと、彼女の演技と覚悟を見抜けなかったことに気づいて、頭をクラクラさせる。
キスで息が持たず、アシュリーを引き離す。気の利いた台詞なんて浮かばない。漂う上着を羽織らせてみたが、つい溜め息と泣き言が漏れてしまった。
「……船主になんて言われるか……」
再び抱きついたアシュリーが、涙混じりに笑う。その涙は安堵か、失われた10人への哀悼からか。
「大丈夫よ。派手に吹き飛んだのは、ブリッジと格納庫だけ。貨物は無事なはず。それに命あっての人生じゃない?」
その言い草に、自然と口許が緩むのを自覚する。
「そうだね、まずは生き延びないと」
僕は、UHF帯の救難ビーコンを起動させ、マイクのPTTスイッチを力強く押し込んだ。
「Mayday, Mayday, Mayday(救助を求む)! こちら貨物船アイリス・カーゴ号所属、三等航法士ノア・パスファインダー。小型救命艇で漂流中、生存者二名」
終劇。




