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第8話 それぞれの思惑

レスティア村へ向かう夜道を歩きながら、レイは先ほど深夜に表示されたステータス画面について考えていた。


日付が変わった瞬間、何の前触れもなく目の前に現れたあの画面。

そこにはエリシアの名前とともに前日比として金貨が増えていることが表示されていた。


投資した時点では、資産は変化していなかったはずだ。

それなのに日付が変わった途端、前日比として金貨が増えている。


レイはもう一度エリシアのステータス画面を見て、内容を改めて確認する。


名前、投資額、才能…


ひとつひとつ眺めていると、ある一点に違和感を覚えた。


「……これは」


エリシアの才能として表示されている項目。


【戦略家B+】


レイはわずかに眉をひそめた。確か今まで、この表示はただの「戦略家B」だったはずだ。

しかし今は、その横に小さく「+」の記号が付いている。

レイはしばらく黙ったまま歩き続けながら、頭の中で状況を整理していく。


「戦略…」


とつぶやいたとき、レイはハッとした。

今回の侵入の策はエリシアが考えたものだ。


つまり、彼女の才能である「戦略家」が実際に発揮されたということになる。


そして結果として、作戦は成功した。

その成功によって経験のようなものが積み重なり、彼女の能力がわずかに成長したのではないかと推測した。


もしその推測が正しいのだとすれば、この投資能力の仕組みもある程度説明がつく。

投資した相手が成果を出したり、能力を伸ばしたりすれば、その人物の価値が上昇する。

それから日付が変わった時点で、その上昇分が資産の変動として反映される。


完全に理解したわけではないが、少なくともこの能力がどういう性質のものなのか、その輪郭は少しずつ見えてきた気がした。


レイは小さく息を吐く。


「……なるほどな」


そして思考を切り替えた。


今回の件について、まだ整理しておくべきことは多い。

特にこの一連の流れにおそらく関与しているであろう人物について。

レイは隣を歩くエリシアへ視線を向けた。


「今回の横領の件だが…」


そう切り出すと、エリシアはすぐに頷いた。

どうやら彼女も同じことを考えていたらしい。


「ええ、今回の件、誰かが裏で糸を引いているのは間違いないと思います」


エリシアは静かに言う。


アルヴェリア家が横領をする理由はない。

それなのに証文は消され、領地はすぐに奪われた。

そして新しい領主として現れたのが、レグナード侯爵だ。


偶然とは到底思えない。


「レグナード……だろうな」


レイが言うと、エリシアも小さく頷いた。


「はい。ただ、なぜこんなことを企てたのかがわかりません」


「十中八九、アルヴェリアの領主になるためだろう」


エリシアは青ざめた顔で、言葉を失っていた。


さらに今回の件では、国王ヴェルフェウスは詳しい事情を知らされていなかった。

実際に動いていたのは王太子レオニスだった。


つまり――


「レグナードとレオニスが繋がっている可能性が高い」


レイが言うと、エリシアは小さく息を吐いた。


「そんな…、ですが、仮にそうだったしても証拠がありませんし、あの二人が手を組む理由が分かりません」


それが最大の問題だった。

いくら推理ができても、証拠がなければ意味がない。


レイはハンカチに包んだ紙片の感触を思い出す。

だが、今はまだ表に出せない。


「とにかく、なんでもいいから証拠を集めるぞ。まずは税の受け取り記録が本当にあるのか。それを確かめる必要がある」


エリシアも少し落ち着いたのか静かに頷いた。


やがて空は白み始め、二人はレスティア村へ到着した。

宿へ戻ると、アルフレッドたちが待っていた。


レイは昨夜の出来事を簡潔に説明した。


屋敷へは無事侵入できたが、証文がなくなっていたこと。

そして、手に入った手掛かり(紙の破片)はあるが、他に確かな証拠はつかめなかったこと。

それから、レグナード侯爵と王太子レオニスが共謀しているのではないかということ。


話を聞き終えたアルフレッドは、しばらく黙って考え込んでいたが、やがてゆっくりと口を開いた。


「……王都へ行こう」


エリシアが驚いた顔をする。


「父上?」


その言葉に、レイも眉をひそめた。


「だが昨日は、王都へ行くのは難しいと言っていただろう」


レイがそう言うと、アルフレッドは静かに首を振った。


「横領の件で行くのではない」


レイは少しだけ目を細める。

アルフレッドは静かに言った。


「領主交代の件だ」


その言葉に、部屋の空気がわずかに変わる。


「今回の件、レグナード侯爵があまりにも早くアルヴェリア領を継いでいる。先日話した通り、本来、領主の交代というものはそう簡単に進むものではない。王の裁定、貴族会議、書類の確認――様々な手続きを経て、ようやく正式に決まるものだ」


それなのに今回、その過程はあまりにも早く進みすぎていた。


「その経緯を確認するためであれば、王都へ向かう理由としても不自然ではない」


そしてアルフレッドは続ける。


「もしそれが何かの切り口になるのであれば、税の受け取り記録の確認もできるやもしれん」


レイは小さく息を吐いた。


「……なるほどな」


確かに、それなら自然だ。

横領の証拠を探すためではなく、領主交代の経緯を確認するために王都へ向かう。

その過程で税の記録を調べることができれば、今回の件の証拠を掴める可能性もある。


次に向かう場所は決まった。

明日一日は休息日とし、その翌日に全員で王都へ向かうこととした。



その日の夜、アルヴェリア領では、レグナードが書斎の椅子に深く腰掛けながら、昨夜の出来事を思い返していた。


エリシアとレイは確かに屋敷へ侵入した。

だが、なぜ逃げられたのかが分からない。


屋敷は包囲していたし、出口も押さえていた。

それなのに、奴らは消えた。


しばらく考え込んでいたレグナードだったが、やがて小さく息を吐く。


「……まあいい」


分からないことをいつまでも考えていても仕方がない。

幸い、奴らが欲していた証文はすでに処分してある。

あれさえ無ければ、横領の疑いは覆らない。


そう思ったその時だった。

レグナードの表情がわずかに変わる。


「……待て」


税は実際、アルフレッドが王都に納めている。

ということは、受け取り記録が残ってれば厄介だ。


レグナードはすぐに立ち上がった。


「紙を持て」


側近が慌てて机に紙を置くとすぐさま、レグナードは素早く筆を走らせた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

先日のお話、誠に申し訳ございません。


今回の件で至急確認願いたいことがございます。


アルヴェリア領の税に関する受け取り記録について、

現状のままでは不都合が生じる恐れがあります。


先日の取り決めに影響が出ぬよう、速やかにご整理願います。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


文を書き終えると、レグナードはそれを折り畳み封をした。


「これを大至急、レオニス様へ届けろ」


使者はすぐに屋敷を飛び出した。

レグナードは腕を組みながら、部屋の中をゆっくりと歩き回る。

しばらく落ち着かない様子で考え込んでいた――


その時、窓がコンコンと叩かれた。

振り向くと、書斎の露台に誰かが立っていた。

その姿を確認したレグナードはその人物を部屋に入れた。


そして、その人物は一通の手紙を渡してきた。


「こちらを至急、あなた様にお渡しするようにとのことでした。では私はこれで…」


そう言ってその人物は去っていった。


レグナードは封を切る。

内容を読んだ瞬間、彼の口元がわずかに歪んだ。


「……なるほど」


手紙を読んだ彼の頭の中に一つの策が浮かんだのだ。


「これなら、次こそは…」


彼は静かに笑った。

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