第23話 勝利の先へ
時は、少し遡る。
レイたちは、ミレアとともに脱出してきた第一陣と合流していた。
周囲には、疲労の色を隠しきれない人々の姿が広がっているものの、その表情には確かな安堵が浮かんでおり、命からがら逃れてきた現実が、ようやく実感として染み込み始めているようだった。
「……報告します。第一陣、予定通りの経路で脱出完了。敵の追撃も現時点では確認されていません」
ミレアの報告を受け、レイは息をゆっくりと吐き出した。
「そうか……どうやら、うまくいったみたいだな」
「はい。このまま順調に進めば……」
ミレアの言葉にレイは静かに頷いた。
「よし……なんとか全員救出できそうだな」
その後、次々と合流し、最後の組みを待っていた
ーーそのときだった。
これまでよりもわずかに遅れて、最後の組がこちらへと姿を現す。
そして、その先頭にいた人物の様子を見た瞬間、レイの表情が強張った。
「兄貴!!」
ヤコウだった。
だが、その顔には普段の軽口や余裕は一切なく、明らかに焦燥に駆られた表情のまま、息を荒げてこちらへと駆け寄ってくる。
「どうした!?」
レイが聞くとヤコウは一瞬言葉を詰まらせながらも、必死に声を絞り出した。
「サーニャ姐さんが……四天王ガルムと交戦中や!!」
その場の空気が、一瞬で凍りつく。
「ワイの目から見ても……正直、少々部が悪そうやったで……!」
その言葉を聞いた瞬間、ミレアは何も言わず、そのまま迷いなく城の中へと駆け出していった。
「ミレア!!」
レイの呼びかけも届かない。
同時に、レイとエリシアも動こうとする。
「助けに行かないと――」
だが、レイの足はその場で止まった。
策もなく飛び込んだところで、何ができるのか。
相手は四天王。無策の突入はサーニャの足を引っ張る。
その理性が、踏み出そうとする感情を強引に押し留めた。
周囲では、救出された人々がざわめき始める。
「俺たちも行く!!」
「サーニャ様を助けなきゃ……!」
だが、その声をエリシアが遮った。
「……行って、どうするんですか」
その一言は、感情ではなく現実を突きつけるものだった。
「あなたたちが行って、何ができるんですか」
返す言葉は、誰にもなかった。
自分たちが足手纏いになることくらい、誰もが理解している。
それでもなお、何もしないという選択を受け入れられないだけなのだ。
そんな感情が場に渦巻く中、突然レイの視界にステータス画面が浮かび上がった。
【サーニャ】
前日比:−金貨2枚
「……!」
思わず息を呑む。
たった今、日付が変わったのだ。
これまでに考えたことがなかったわけではない。
投資対象の価値が下がる――それはすなわち、何らかの損失が発生したことを意味している。
そして、これはレイにとって明確な“異常”として認識される。
(……何かあったな)
冷静に状況を組み立てる思考の裏で、確実に焦りが広がっていく。
だが、考え込んでいる時間はない。
「……考えてる場合じゃねえな」
レイは迷いを断ち切るようにエリシアへと視線を向けた。
「エリシア、ここはお前に任せる」
一瞬だけ揺れたその瞳も、すぐに強い意志を宿す。
「日が上り始めるまでに俺たちが戻らなかったら、その時は全員を連れてここから離れろ」
一瞬、エリシアは戸惑ったがすぐに頭を切り替えた。
「……わかりました」
続けてレイはヤコウへと目を向ける。
「ヤコウ、お前はここに残ってエリシアのサポートを頼む。今はここにいるが奴らが優先だ」
「……っ、兄貴……!」
悔しさを滲ませながらも、ヤコウは歯を食いしばり、やがて小さく頷いた。
「……了解や」
その返答を確認すると、レイは振り返ることなく、一直線に城の中へと駆け出していった。
一方その頃、すでに城へ戻っていたミレアは、サーニャのもとへと急いでいた。
長い廊下を駆け抜けながら、胸の奥で不安と焦燥が激しくぶつかり合う。
(サーニャさん……どうか、無事で……!)
足がもつれるのも構わず走り続ける中で突然、前方から声が聞こえてきた。
「――今の私は自由だ。何にも縛られない――《狼牙絶閃》」
「……っ!!」
サーニャの声だと確信した瞬間、ミレアは残された力を振り絞るように走り抜け、ついにその場へと辿り着いた。
そして目にしたのは、真っ二つに断たれたガルムの身体とその正面に立つサーニャの姿だった。
だが、サーニャはすでに限界を迎えており、今にもその場に倒れ込んでしまいそうだった。
「サーニャさん!!」
ミレアは駆け寄り、その身体を受け止める。
「サーニャさん……本当に……お疲れ様です……」
震える声でそう告げると、サーニャはかすかに目を開き、か細い声で問いかける。
「……みんなは……」
「無事です。全員、脱出できています」
その答えを聞いた瞬間、サーニャの表情から力が抜け、張り詰めていたものが一気にほどけていく。
そして、そのまま静かに意識が途切れた。
「サーニャさん!!」
その叫びとほぼ同時に、レイがその場へと駆け込んできた。
「サーニャ!!無事か!?」
焦りを隠さず駆け寄るレイに対し、ミレアは落ち着いた声で告げる。
「大丈夫です。気を失っているだけです」
「……そうか」
その一言に、ようやく緊張がほどける。
だが、レイの視線はすぐに横へと移り、真っ二つになったガルムの死体を捉えた。
「……勝ったんだな」
ほっと息を吐いたその直後、遠くから複数の足音と怒号が響いてくる。
「こっちだ!!」
「この先で何者かが交戦している!!」
明らかにこちらへ向かってきている。
「……まずいな、このままだと捕まる」
レイは、くサーニャを背負い上げる。
「ミレア、行くぞ。ここに長居はできない」
「はい!」
二人は戦いの痕跡が残るその場から離れ、エリシアたちの元へ向かった。
お付き合いいただきありがとうございます。
面白いと感じていただけたら、ぜひ評価・ブックマークで応援していただけると嬉しいです!




