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異世界転生した俺は資産50億円を使い切りたいのに、リターンのせいで全然0にならない  作者: 鏡まやたか
第2章 ガルドリア王国編

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第22話 サーニャvsガルム

暗い廊下に、剣と剣が激しく噛み合う音が何度も響いていた。


火花が散るたび、サーニャの体はわずかに押し込まれる。

押し返したいが、右肩から腕にかけて古傷が鈍く軋み、その一瞬の遅れがどうしても生まれる。


かつてなら受ける前に捌けた一撃が今はまともに腕へ重さを残していった。


対するガルムは、ほとんど乱れていない。


無駄のない構え。ぶれない重心。

剣を振るうたびに今のこの国で最強と呼ばれるに足る圧が伝わってくる。


「どうした、サーニャ」


ガルムは嘲るように言いながら、横薙ぎの一閃を放つ。


サーニャは咄嗟に剣を合わせて受け止めたが、衝撃を殺しきれず、足が床を滑った。

靴底が石床を擦る音が細く伸びる。


「昔はもう少し骨があったはずだがな。まさか、ここまで弱くなっているとは思わなかった」


すぐさま追撃が来る。


上段から振り下ろされた一撃を今度は半歩退きながら受け流す。


だが、受け流しただけで終わりではない。

その次の突きがすでに迫っていた。


サーニャは肩をひねって軌道を逸らすが、切っ先が鎧の隙間を浅く裂き、熱い痛みが走る。


(速い……っ)


いや、速さだけじゃない。迷いがない。


相手を殺すためだけに研ぎ澄まされた剣。

躊躇なく間合いを詰め、躊躇なく振り切ってくる。


「悲しいものだな」


ガルムが剣を構え直す。


「かつては四天王最強と言われていたお前が、今じゃこの程度か。それとも古傷でも痛むのか?」


サーニャは答えられなかった。


痛むに決まっている。踏み込むたびに違和感がある。斬り返すたびに力の乗りが甘い。


何より目の前の男は昔のままじゃない。

ガルムもまた、戦い続け、強くなってきたのだ。


過去、一度も負けたことがない。

だが、今も勝てるほど甘くはない。


「何も言い返さないのか」


ガルムは鼻で笑った。


「まあいい。代わりにひとつ面白いことを教えてやろう」


その言葉にサーニャの眉がわずかに動く。


「お前にその傷を負わせるきっかけとなった攻撃……誰がやったか知っているか?」


次の瞬間、サーニャの呼吸が止まった。


「……なに?」


低く漏れた声は、自分でも驚くほど掠れていた。

ガルムはその反応を楽しむように口元を歪める。


「ゼルドだよ」


その名が耳に届いた瞬間、目の前の景色が一瞬だけ遠のいた。


ゼルド。

四天王の一人。


「……嘘だ」

「嘘じゃない」


ガルムは淡々と続ける。


「お前はずっと勘違いしていた。魔獣との戦いの混乱で、不意の一撃を食らったとでも思っていたんだろうが、あれは偶然じゃない。ゼルドが、お前を崩すために入れた一撃だ」


サーニャの手にぶるりと震えが走る。


「なぜ……今さらそんなこと…それになんのために…」


ガルムの目が冷たく細まった。


「そんなもの決まっている。お前が目障りだったからだ」


その一言は、剣より鋭く胸を裂いた。


「お前はこの国の在り方を否定した。武力で統べ、力で黙らせ、弱いものを道具としながら強者が上に立つその仕組みにお前だけが最後まで噛みついていた」


一歩、ガルムが前に出る。


「国王にとっても我ら四天王にとっても、お前は煩わしかった。邪魔で仕方なかったんだよ」


サーニャの喉がひくりと鳴る。


「だから消した」


ガルムの声は、残酷なほど静かだった。


「戦場で崩し、再起不能にして、最後は奴隷落ちという形で追放した。見事な計画だったろう?」


息が乱れる。視界が揺れる。

足元が心許なくなる。


頭ではまだ立っているはずなのに、体がついてこない。

握っていた剣先が、わずかに下がる。


その変化を、ガルムは見逃さない。


「どうした。真実を知って、もう立てないか?」


振り下ろされた一撃に反応が遅れた。

咄嗟に受けたものの間に合わず、剣の軌道が肩口を深く裂く。


鮮血が飛ぶ。

サーニャの体がよろめき、そのまま片膝をついた。


「そうだ、それでいい」


ガルムが剣を下ろし、見下ろしてくる。


「もう未練もないだろう。お前が信じていたものはすべて茶番だった。仲間も、誇りも、立場も、全部な」


呼吸が浅く速くなる。

胸の奥が締まり、視界の端が暗くにじんでいく。


「終わりだ、サーニャ」


ガルムが両手で剣を握り直した。


「死んでくれ」


放たれる一撃は、これまでより明らかに重かった。

渾身の、止めの一撃。


戦意を失いかけたサーニャは受けようとしなかった。


だが、その瞬間だった。


『サーニャ姐さん、死ぬんやないで』


耳の奥で、ヤコウの声が蘇った。


死ぬな。その短い一言が、暗く沈みかけた意識の底に引っかかった。


「……っ!」


咄嗟に剣を持ち上げる。


ガギィンッ!! と耳を裂くような音が廊下に響いた。


両腕が痺れ、足が沈む。


それでも、受けきった。


「死に損ないが……何を抗っている」


ガルムの顔に苛立ちが浮かぶ。

本当にそうだ、とサーニャは思った。


本当に何をしているんだろう。


守ってきた立場もすでに失った。

なら、ここで終わってしまえば、もう楽になれるのかもしれない。


そう考えたその時、別の顔が浮かんだ。


救い出した者たちの泣き顔。

自分を見て希望を取り戻した目。

外へ向かって走っていった背中。


そして――

レイの顔が、はっきりと浮かぶ。


『お前はこれから自由だ』


あの言葉が、静かに、けれど確かに響いた。


自由。


そうだ。


奴隷じゃない。


四天王でもない。


裏切られた過去に縛られるだけの存在でもない。

今の自分は、自分の意思で立っていい。


自分の意思で、守りたいものを守っていい。


「ああ……そうか」


自然と口から言葉が漏れた。

ガルムが怪訝そうに眉をひそめる。


「何がおかしい」


サーニャは、ゆっくりと立ち上がる。

肩から血を流しながら、それでも剣を握り直した。


「私は、自由なんだ」


その声はもう震えていなかった。


一歩、前に出る。

右肩の痛みは消えていない。


けれど、その痛みさえ今は、自分がここに立っている証のように思えた。


「今の私は自由だ。何にも縛られない」


床を蹴る。

先ほどまでとは比べものにならない踏み込みだった。


ガルムの目が見開かれる。


「その動き……!」


全身の力を、呼吸を、意志を、ただ一撃に込める。

かつて全盛期において、幾度も敵を斬り伏せてきた一撃必殺。


「――《狼牙絶閃》」


振り下ろされたその一閃は、まるで一直線に世界を断ち切るようだった。


ガルムも反応する。

咄嗟に剣を合わせ、真正面から受け止めに入った。


「…っ!!今のお前にその技が――」


だが、受け切れない。

剣と剣が噛み合った瞬間、ガルムの表情が変わる。


「な……っ、なぜだ!?」


押し返すどころか、逆に押し込まれていく。


体勢が崩れる。

両腕が沈む。


耐えきれないと悟った時には、もう遅かった。


次の瞬間、サーニャの斬撃はそのままガルムを両断した。


鮮血が弧を描き、真っ二つになった体が左右へ崩れ落ちる。

重い音が、遅れて廊下に響いた。


サーニャはしばらくその場に立ったまま動かなかった。


自分が本当に勝ったのか、終わったのか、すぐには実感できなかった。


やがて、握っていた剣がわずかに下がる。


「……終わった……」


その瞬間、全身から力が抜けた。

倒れかけた体を後ろからミレアが慌てて受け止めた。


「サーニャさん……!」


その声は涙で震えていた。


「お疲れ様です……本当に……!」


サーニャはぼんやりとした視界の中で、ミレアの顔を見た。


泣いている。


そのことが、少しだけおかしくて、少しだけ嬉しかった。


「……みんな無事かい…?」

「はい……!」


それを聞いて、サーニャはふっと笑った。

安堵したまま、その意識は静かに途切れていった。

ここまで読んでいただき本当にありがとうございます。

今後の展開も気になると思っていただけたら、評価やブックマークで応援していただけると励みになります!

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