第18話 救出開始
夜が落ちる前、兵糧庫近くの廃屋にてレイたちは最後の確認を行っていた。
壁にもたれながら腕を組むヤコウがにやりと笑う。
「よろしゅう頼むで。べっぴんな姐さん方」
「嬉しいこと言ってくれるね~。よろしくね~」
サーニャが少し照れながら挨拶した。
そのやり取りを横目にエリシアは真剣な表情で全体を見渡す。
「では、最終確認に入ります」
その場の空気が引き締まる。
今回の作戦は一度きり。失敗は許されない。
ルーカスもまた、その場に立っていた。
自分と同じ境遇の者たちを救い出すため、彼は同行を選んだのだ。
顔を見せることで、少しでも安心させるために。
それぞれが役割を再確認する中、レイは一度、全員のステータスを改めて確認した。
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名前:エリシア・フォン・アルヴェリア Lv.5
年齢:17歳 公爵令嬢
才能:
財務管理 C
人心掌握 A
領地運営 C
戦略家 A
統治適性 C
投資額:金貨45枚
評価額:金貨47枚
前日比:±0
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(……上がってるな。前日比に変動はないか……)
レイはわずかに目を細めた。
人心掌握と戦略家。どちらもAランクへ到達している。
(やっぱり、経験と環境で伸びるタイプか)
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名前:サーニャ・フェルグレイン(狼系) Lv.3
年齢:20歳 元ガルドリア王国四天王
才能:
剣 術 B+
体 術 B
カリスマ性 C
戦闘指揮 B
闘争本能 B
投資額:金貨60枚
評価額:金貨60枚
前日比:±0
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(……やっぱり前線タイプだな)
純粋な戦闘力に加え、指揮能力もある。
“半分以下”とはいえ、十分すぎる戦力だ。
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名前:ミレア・ヴァルティス(猫系) Lv.3
年齢:22歳 元ガルドリア王国諜報員
才能:
隠 密 B
情報収集 B+
状況判断 A
潜入工作 B
投資額:金貨40枚
評価額:金貨40枚
前日比:±0
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(こいつは……便利すぎるな)
戦闘よりも“盤面を支配する側”。
今回の作戦の要だ。
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名前:ヤコウ=ドーラン(狐) Lv.1
年齢:28歳 万国交易商人
才能:
交 渉 S
読 心 A
心理誘導 A
目利き A
投資額:白金貨1枚
評価額:白金貨1枚
前日比:±0
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(……さすが全才能がすごいな……Sランクもあるのか)
これまで見た中で初めてのS。
しかも“交渉”。敵に回したくないタイプだ。
だが、だからこそ、こっち側に引き込んだ価値がある。
そのとき、ヤコウがレイの隣に歩み寄ってきた。
「いよいよやな、兄貴」
軽く笑いながら、いつもの調子で続ける。
「ワイはこれから作戦通り、荷馬車引っ張って街を周回してくるで。ミレア姐さんからGOサイン来たら、その都度迎えに行く」
「ああ、頼む」
そう言い残し、ヤコウは手をひらひらと振りながらその場を去っていった。
そして――夜。
作戦は静かに始まった。
今回の救出対象は二十名。
回収地点は十四か所。
時間との勝負だった。
まず最初に動いたのは、エリシアとルーカス。
大人数で動けば目立つため、最小単位での接触を選んだ。
ミレアは周囲の警戒とヤコウへの合図。
レイとサーニャは少し離れた位置から全体を見守る。
やがて、一件目の家へとたどり着く。
古びた扉の前で、エリシアが軽く頷いた。
ルーカスがノックする。
コン、コン。
「……はい」
中から聞こえたのは、怯えたような声だった。
「俺だ。ルーカスだ」
その言葉にわずかな間を置いて鍵が外れる音がした。
扉が開き、現れたのは、熊の獣人だった。
だが、その体は本来の力強さを感じさせないほどに痩せ細り、傷だらけで、立つことすらやっとの状態だった。
ルーカスは一歩前へ出る。
「助けに来た」
短い言葉だったが、彼にはそれだけで十分だった。
エリシアが状況を説明する。
ここを離れること。安全な場所へ移すこと。もう二度と、こんな扱いは受けさせないこと。
すべてを聞き終えたその男は、ぽろぽろと涙をこぼしながら言った。
「……お願いします」
それで、決まりだった。
ミレアの合図が送られる。
ほどなくして、静かに荷馬車が到着した。
ヤコウが手綱を引きながら、軽く笑う。
「一人目、やな」
男は荷台へと乗せられる。
そこからは、驚くほど順調だった。
一人、また一人と救い出され、荷台へ運ばれていく。
やがて荷台がいっぱいになり、一度兵糧庫へ戻ることになった。
サーニャを護衛として残し、再び王都へ向かう。
二度目の回収もここまでは問題なく進んでいた。
そして――最後の一人。
その人物を荷台へ乗せ、門へと向かう。
一度目と同じ流れ。さっきも問題なく通過できた。
ヤコウの顔は知られている。何も起きないはず。
だが。
「――ちょっと待ってくれ」
門番の声が響いた。
空気が一瞬で張り詰める。
「すまないが、荷台を確認してもいいか?」
荷台の中でその一言を聞いた、レイたちは、思わず唾を飲み込む。
冷や汗が、背中を伝う。
見つかれば、終わる。
全員が固唾を飲んで祈っていた。
――ただ一人を除いて。




