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第17話 大金という一手

「……どんな奴がほしいんだ?」

「必要なのは王国内外を自由に出入りできる、荷馬車持ちの運搬役です」

「運搬役?」


エリシアは頷き、続ける。


測定器(サンドバッグ)の皆さんは、度重なる暴行で身体を痛めています。最初にお会いした頃のルーカス様のように自力歩行が難しい方がほとんどかと」


その言葉にレイの脳裏にはあのときのルーカスの姿が浮かんだ。

傷だらけの身体で、それでもかろうじて立っていたあの姿だ。


「なるほどな。俺たちで全員(負傷者)を運ばなきゃならないってことか」


エリシアが真剣な表情のまま頷く。


「その人物が確保できれば、門番への接触も必要最低限で済みます。荷馬車であれば複数人をまとめて移動させられます」


そこでミレアが監視していた情報を補足するように言った。


「昨日、王国内の動きを見ていましたが、昼夜問わず荷馬車の出入りは多くありました。物資の搬入や運搬は日常的に行われていますので、荷馬車での通過自体は特に不自然ではありません」

「つまり、荷馬車で動くやつが協力してくれれば、救出した後の移送が一気に現実的になるってわけか」

「その通りです」

「分かった。それなら俺に任せろ」


三人がレイを見る。


「実はさっきレベルが上がって、投資枠も三つ増えた。それに新スキル(ソーシング)を試すには、ちょうどいい」


話がまとまると、レイたちは一度王国側へ戻ることにした。


必要なのは、怪しまれずに人を運べる人物。

そして、こちらに協力してくれる人物。

その両方を満たす相手が果たして、居るのかどうか。


(……使うのが楽しみだな)


王都の外縁、荷馬車の往来が比較的多い通りまで戻ったところで、レイは足を止めた。


「ここでいいのですか?」

「ああ。ここなら”届く”」


レイは意識を集中させた。


求める条件は明確だ。

王国内外を自由に出入りできること。

荷馬車を持っていること。

人を運ぶことに慣れていること。


そして――こちらに引き込める余地があること。


(《ソーシング》――“荷馬車を持ち、王国内外を自由に出入りしている投資先”)


視界の奥がわずかに明るくなり、淡い光の粒が広がっていく。

初めて使う感覚に、レイは思わず息を詰めた。


だが、数秒待っても何も起こらない。


(……あれ?)


さらに意識を集中させる。

人の流れ、荷馬車の音、遠くの話し声。


それらが少しずつ遠のいていき、自分の感覚だけが研ぎ澄まされていくような妙な感覚に包まれた。


そのときだった。

ふっと、一点だけ光が引っかかる。


「……いた!」


思わず声が漏れる。

同時に、視界の中に新しい文字が浮かび上がった。


--------------------------------

ヤコウ(狐系)

28歳・男

職業:商人

投資必要金額:???

--------------------------------


「ヤコウ……?それに投資金額が不明……?まあいい」


レイは表示された名前を見つめたまま、隣にいたサーニャとミレアへ視線を向ける。


「なあ、ヤコウって知ってるか?」

「いや、聞いたことないね」


ミレアも静かに首を振る。


「私も存じません。少なくとも、目立つ商人ではないと思います」

「そうか」


だが、ソーシングが拾った反応は今のところこの一人だけだ。

候補が複数いるわけではない以上、当たってみるしかない。


「直接会いに行くか」


早速ミレアは”ヤコウ”なる人物を探しに向かった。


それからほどなくして、ミレアは目的の人物を特定した。


狐系の獣人。

年の頃は二十代後半。


人当たりのよさそうな柔らかな笑みを浮かべながら商人たちと短く会話を交わし、荷馬車の状態を確認している男だった。

派手さはないが、妙に目につく。


だが、どこがどう目立つのか説明しようとすると言葉にしづらい、そんな掴みどころのなさがあった。


報告を受けたレイは少人数で接触することを決めた。

同行はエリシアのみ。

サーニャには少し離れたところで様子を見てもらい、ミレアは周囲の警戒に回る。


余計な人数で近づけば、それだけ相手に警戒される可能性も高くなる。

最小限で話をつける。


しばらく尾行していると、男はふと人通りの少ない脇道へ入っていった。

レイはエリシアと目配せを交わし、そのまま後を追った。


脇道の先は、荷物置き場として使われているのか木箱がいくつか積まれているだけの薄暗く静かな場所だった。

そこで男はようやく足を止め、背を向けたままのんびりとした声で言った。


「……で、いつまで見とるん?」


驚きも警戒もない、拍子抜けするほど自然な声音だった。


(バレてる……?!)


レイは観念したように一歩前へ出る。


「あんた、ヤコウさんか?」


すると男はようやく振り返り、目を細めてレイとエリシアを見た。


「そうやけど、ワイになんの用や?」


その声には余裕があり、まるで最初からつけられているのが分かっていたようだった。


レイは相手の雰囲気を探るように一瞬だけ黙ったが、遠回しな言い方は無意味だと判断し、単刀直入に切り込んだ。


「俺たちに協力してくれ」


その瞬間、ヤコウは口元をわずかに吊り上げた。


「やっぱりそう来たか」


そして面白がるように続ける。


「今日一日中、誰かに見られとる気がしたからな。こっちから誘ってみたんや」


そこまで言うとヤコウはレイをまっすぐ見た。


「あんさん昨日、ガルムに宣戦布告しとった兄ちゃんやろ?」


レイは内心で舌打ちした。

思った以上に昨日の出来事は広まっているようだ。


「協力っちゅうんは……この国に喧嘩売るっちゅうことか?」


試すような鋭さがその裏にはあった。

レイは少しだけ言葉に詰まる。


下手なことを言えば足元を見られる。

しかし、嘘をついてもこの男にはたぶん通じない。


そう感じたとき、横から一歩前へ出たのはエリシアだった。


「私の直感ですが」


静かな声だった。


「ヤコウさん。あなたは、条件次第では私たちに協力してくださるのではありませんか?」


ヤコウは「ほう」と小さく声を漏らし、興味深そうに片眉を上げる。


「なんでそう思うんや?」

「あなたは、つけられていることに気づいていた。それにもかかわらず、あえて人気のない場所に一人で来た。しかも、私たちだと知っていながらです」


ヤコウは黙ったまま聞いている。


「もしあなたがこの国に忠義を持つ方なら、私たちの情報を王国側へ売るはず。昨日の騒ぎの中心にいた私たちの情報ならそれなりの報酬も期待できるでしょう」


エリシアはそこで一度区切り、相手の目をまっすぐ見据えた。


「ですが、あなたはそうしなかった。つまり、私たちに敵意はない。ただし王国よりもこちらの方が“条件がいい”のであれば、協力する余地がある」


少しだけ口元を和らげる。


「逆に条件が悪ければこのまま私たちの情報を流せばいい。どちらに転んでもあなたに損はない。だからこそ、こうして私たちを誘い込んだ……違いますか?」


一瞬の沈黙のあと、ヤコウは笑った。


「ははっ……!嬢ちゃん賢いなあ。その通りや」


そう言って彼はあっさりと認めた。


「ワイはこの国のことなんて正直どうでもええ。王国に恩も義理もない。せやから、よりおいしい方に乗るだけや」


そして、レイの方へ視線を戻す。


「つまり、さっきの兄ちゃんの問いに対する答えは一つ。条件次第や」


レイは小さく息を吐いた。


「……いくらだ」


そう告げるとヤコウは首を傾げながら探るような視線を向けてくる。


「そら、兄ちゃんがワイに見合った価値分でくれや」


軽い口調だが、値踏みされているのはこちらだとレイは感じた。


(……ここは、誤るとマズい)


少し思考したあと、レイは口を開いた。


「白金貨一枚だ」


ヤコウの細められていた目が、わずかに開いた。


「……それ、本気なん?」

「ああ」


即答だった。


次の瞬間、ヤコウは堪えきれないように吹き出し、そのまま大きく笑い始めた。


「はははっ!ほんまかいなそれ!」


完全に信じていない、というよりもあまりに現実離れした提示に半ば呆れているようだった。

それも無理はないと、レイ自身も思う。


(……まあ、そうだよな)


だが、ここで引くつもりはなかった。

レイは無言のまま懐から白金貨を取り出し、ヤコウの目の前へ差し出す。


その瞬間、ヤコウの動きがぴたりと止まった。


「……まじで……?」

「ああ。本物だ」


数秒の沈黙が流れる。

ヤコウは白金貨から目を離さないまま、ゆっくりと息を吐き出した。


「……はぁー……ほんまなんやな」


そして顔を上げると先ほどまでとは明らかに違う、どこか愉快そうな笑みを浮かべた。


「今日からワイ、あんたのこと兄貴って呼ばせてもらうわ。一生ついていくで」

「好きにしてくれ」


レイは淡々と返したが、内心では確信していた。


(……こいつは使える)


だからこそ、さらに一歩踏み込む。


「ただし、これはそのまま渡すわけじゃない。“投資”として渡す。それでもいいか?」

「ワイはもらえるんやったら、そんなんどっちでもええで」

「よし、決まりだ」


レイが白金貨を手渡した瞬間、淡い白い光がヤコウの全身をふわりと包み込んだ。

レイは確かな手応えとともに投資(スキル)を理解した。


ヤコウは細めた目をさらに細くして言った。


「それで、ワイの役目はなんや?」


わずかに首を傾けながら、楽しげに問いかける。

レイは静かに口元を上げる。


必要な駒は、また一つ揃った。

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