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第15話 解放の解法

今回はいつもより少し、長めになっていますが最後までお読みいただけたら嬉しいです!

広場に残っていたのは、先ほどまでの喧騒が嘘のように消えたあとの静寂と地面に倒れ込んだ獣人の荒い呼吸だけだった。


ガルムの一言によって人々は散り、あれほど熱狂していた空間は、まるで何事もなかったかのように日常へと戻りつつある。


レイはゆっくりと歩み寄り、その場に倒れている獣人のそばにしゃがみ込むと声をかけた。


「……おい、大丈夫か」


しかし、返事はない。全身には殴打の跡が残り、呼吸は浅く不安定でこのまま放置すれば命に関わる状態なのは明らかだった。


レイは視線だけでミレアに合図を送る。


「エリシア、ミレア」

「はい」


ミレアは迷うことなく膝をつき、止血、骨の状態確認、応急固定と無駄のない手際で応急処置を進めていく。

エリシアも隣に座り、男の顔を覗き込みながら静かに声をかけ続けた。


「もう大丈夫です……すぐ楽になりますから……」


やがて、男の呼吸は徐々に落ち着きを取り戻し、先ほどまで不規則だった胸の上下も安定していった。

ミレアは一度手を止め、静かに言った。


「応急処置は終わりました。しばらくすれば会話も可能だと思います」


それを聞いたレイは小さく頷き、無理に問いただすことはせず、男の意識が戻るのを待った。


そして、しばらくしてから男の意識がゆっくりと浮上してくる。

かすかに開いた唇から、途切れ途切れの声が漏れた。


「……サーニャ……さん……?」


その一言にサーニャの体が反応した。

男はまだ焦点の合わない目でそれでも確かにサーニャの方を見ている。


「よかった……無事で……」


震える手が、ゆっくりと伸ばされる。

サーニャはその手を迷いなく握った。


そしてその顔を見つめた瞬間、記憶が鮮明に蘇る。


かつて四天王としてこの国にいた頃、自分のやり方を支持し、ついてきてくれていた民の中にこの男は確かにいた。


「……ルーカス……?」


名前を呼ばれた男は、かすかに笑みを浮かべた。


「覚えて……くれてたんですね……」


その一言に、サーニャの喉が詰まる。

それでも、絞り出すように問いかけた。


「……なんで、こんなことに……」


ルーカスは一度目を閉じ、ゆっくりと呼吸を整えたあとに少しずつ言葉を紡ぎ始める。


「サーニャさんが……いなくなってからのことです……」


その一言で、場の空気が変わる。


「あなたを支持していた者たちだけが……選ばれるように……なりました……」


エリシアが思わず声を上げる。


「選ばれる……?」


ルーカスは弱く頷いた。


「“測定器(サンドバッグ)”として……です……」


レイの目が細くなる。


「……どういう基準だ」


ルーカスは苦しそうに息を吐きながら答える。


「選ばれているのは過去にサーニャさんを支持していた者……です……」


その言葉が、静かにサーニャの胸に突き刺さる。

レイは眉をひそめた。


「なぜ、サーニャを支持していたらそうなるんだ」

「サーニャさんは…この国の武力こそが全て…という考えに疑問をもっていた…。その思想は国王と他の四天王には…邪魔なものだった…。」


ルーカスは続ける。


「そして、サーニャさんが居なくなった後も…その思想があることで…反乱が起きるのではないか…と懸念していた国王たちは弾圧を図ったんです…」


衝撃の事実にサーニャは落胆した。

そして、さらにルーカスは続ける。


「住民でも……兵でも関係ありません…支持していた者は……全員…です……」


サーニャの手が震える。


「……そんな……私が……いなくなったせいで……」


ルーカスは首を横に振る。


「違います……私たちが選んだことです…」


その一言に、サーニャは顔を上げる。

ルーカスの手を強く握る。


「ごめん……ごめん……!」


涙が溢れる。

何度も謝るサーニャにルーカスは静かに言った。


「後悔なんて……してません…あなたはこの国に……一番必要な人ですから……」


その言葉にサーニャの瞳が揺れる。


「奴隷落ちしたと聞いたときは……絶望しました……でも…きっと帰ってくると……信じてました……」


サーニャの頬を大粒の涙が伝う。


そしてゆっくりと顔を上げた。

その瞳には、もう迷いはなかった。


「……必ず助ける……みんな……」


ルーカスが嬉しそうな顔でサーニャを見る。


「みんなはどこにいる?わかるかい」

「普段は……それぞれの家に……います……ですが……」


苦しそうに続ける。


「使いたい者が押しかけてきて……無理やり連れ出される……」


サーニャの目に怒りが宿る。


「……ふざけるな……今すぐ行く」


だが、それをレイが止めた。


「今動いても意味がない。数も場所も分からない状態で突っ込めば、救えるもんも救えなくなる」

「止めないでっ!!今、この瞬間にも私のせいで痛めつけられている人たちがいるかもしれない。それなのに行くなって言うの!?」


怒りと焦りをあらわにしているサーニャにエリシアが落ち着いた声で言う。


「サーニャ、お気持ちは分かります。でも、ここは私たちにとって敵地。無作為に行動すれば私たちのせいでより酷い仕打ちを受けるかもしれません。落ち着いてください。」

「……でも」

「いいですか。全員を救うなら一人も取りこぼさずに安全な方法でいきましょう。私に任せてください」


その言葉にサーニャの力が抜け、その場に崩れ落ちた。


そして夜、レイたちはルーカスの家へと移動し、救出作戦会議を開いた。

さっそくエリシアは救出作戦について説明をした。


「今回の救出ですが、難しく考える必要はありません」


その言葉に全員が固唾を飲んだ。


「まず、この国において“測定器(サンドバッグ)”が使われるのは基本的に日中。(ルーカスさん)によると見せしめの意味もある以上、人目のある時間帯で行われるとのことです。つまり夜は比較的安全。対象者はほぼ確実に自宅にいると考えられます」


ミレアが小さく頷く。


「実際、夜間の使用は確認されていません」


エリシアはそのまま話を進める。


「過去に逃亡を試みた者は、門番に見つかり投獄されているようです」


サーニャは歯を食いしばった。


「そのため現在は誰も逃げようとせず、全員この国に留まっている状況です」


レイが小さく息を吐く。


「つまり逃げ場はないってことか」


エリシアは頷いた。


「その中には、いまだ地下牢に繋がれたままの者もいると聞いています」


サーニャの表情が強張る。


「……っ」

「本来であれば全員を同時に救出すべきですが、現状の戦力では分散行動は危険です」


エリシアは一呼吸おいてから続けた。


「まずは自宅にいる者たちの救出を優先し、その後に地下牢の者たちを救出します」


レイが口元を緩めた。


「つまり、今回は自宅組を迎えに行くだけでいいってことか」


エリシアは頷く。


「問題はその後です。人目につかずに回収し、なおかつ“まだ家にいる”と周囲に思わせる必要があります」


サーニャが低く呟く。


「……偽装」

「はい」


エリシアは静かに言った。


「各家には最低限の痕跡を残します。灯り、寝具、生活音——外から見れば在宅しているように見える状態を維持します」


レイが腕を組む。


「脱出までの時間稼ぎだな」

「ええ。夜のうちに全員を回収し、朝になる前にここから完全に消える。それが今回の作戦の肝になります」


そして、地図を指し示す。


「救出した方たちは、ガルドリア王国の外にある”ここ”に集めます」


ミレアが補足する。


「現在は使われていないこの国の兵糧庫です。人の出入りはありません」

「隠れるには最適です」


サーニャが短く言う。


「問題は門兵だね」


エリシアは頷いた。


「はい。城門の通過が最大の障害になります。ですのでそこはサーニャさん、ミレアさんにお願いします」


ミレアとサーニャが視線を交わす。


「任せてください」

「気絶させるだけ。殺しはしない」


エリシアは最後に全員を見渡した。


「まとめます」


一歩前に出る。


「ここにいる全員で夜間に各家を回り、対象者を回収。同時に在宅を装う偽装を行います。そして人目を避けて移動し、城門を突破。その後、兵糧庫に全員を集結させる」


静かに言い切る。


「これが今回の作戦です」


そしてサーニャがゆっくりと頷いた。


「……やろう」


その一言で全員の意志が揃った。

作戦の決行は明日の夜だ。

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