第14話 宣戦布告
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ガルドリア王国に到着したのは、昼を少し回った頃だった。
高くそびえる城壁は遠目に見ても圧迫感があり、灰色の石を積み上げただけの無骨な造りであるにもかかわらず、そこに漂う威圧感はアルヴェリア領や王都のそれとは明らかに異なっていた。
門前には多くの獣人たちが集まり、何かを囲むように人垣を作っている。
その中心から聞こえてくるのは、祝祭のような歓声ではなく、どこか歪んだ熱狂だった。
「……着いたな」
レイが目を細める。
エリシアも頷きながら、自然と人垣の方へ視線を向けた瞬間、思わず息を呑んだ。
「……なんですか、あれは…」
広場の中央で一人の獣人が地面に倒れている。
傷だらけの体を丸めるようにして頭を庇っているが、その上から別の獣人が容赦なく拳を振り下ろしており、鈍い衝撃音が響くたびに周囲から歓声が上がるという、明らかに異常な光景が広がっていた。
「いいぞ! やれやれ!」
「立てよ雑魚が!」
「もっとやれ!!」
殴られている男は、すでに反撃する力すら残っていない。
それでも殴る側は楽しげで、周囲の観衆もまた、それを当然の見世物として受け入れている。
「なんで……誰も止めないの……」
エリシアの震える声に、横から鼻で笑うような声が返ってきた。
「当たり前だろ」
門番の獣人が、槍を肩に担いだまま、つまらなそうにこちらを見ている。
「あいつはこの国の”測定器”さ。個人の実力を測るためのな」
まるで常識を語るかのような口調だった。
エリシアが言葉を失う中、レイは何も言わずにその光景を見続けている。
倒れている男はほとんど動かず、それでも拳だけは止まらない。
笑い声が広場を満たす。
そのときだった。
「……やめろ」
低く、抑えた声が落ちた。
フードを深くかぶったサーニャが、一歩前に出る。
「……はぁ?」
殴っていた獣人が振り向き、露骨に苛立った表情を浮かべる。
「なんだテメェ。黙って見物してろよ」
周囲からも嘲笑が漏れる。
「正義気取りか?」
サーニャはゆっくりと歩き出す。
その動きは静かだが、一歩ごとに空気が重くなっていくのが分かる。
「やめろと言ってる」
その声にわずかな圧が乗る。
「弱え奴が悪いんだろ?」
その言葉にサーニャの足が止まった。
ほんの一瞬、俯く。
「……ああ、ここはそういうところだったね」
小さく呟く。
次の瞬間、その姿が消えた。
殴っていた獣人の体が宙に浮き、そのまま地面に叩きつけられる。
何が起きたのか理解する前に決着がつき、広場は一瞬で静まり返った。
サーニャは男の前に立つ。
「弱い奴が悪い?」
淡々とした声。
だが、その奥に滲む怒りは隠しきれない。
「じゃあさ、今倒れてるお前より私の方が強いけど」
男の喉元を軽く掴み上げる。
「この場合、お前はどうなるの?」
その瞬間、掴み上げた衝撃でフードが外れ、銀の髪が露わになる。
空気が凍る。
「……おい…あれ元四天王のサーニャじゃないか……?」
「嘘だろ!?奴隷落ちしたはずじゃ……」
ざわめきが一気に広がる。
サーニャは男を手放し、冷たく言い放つ。
「弱い奴を殴ることしかできないくせに調子に乗るな。私は今ここでお前を殺すこともできるけど…?」
広場は完全な沈黙に包まれた。
そのとき——
「——面白いな」
人垣が割れ、一人の獣人が姿を現す。
その存在感は明らかに異質で、ただ立っているだけで場の空気を支配していた。
「久しいな、サーニャ。生きていたのか」
短い言葉だが、その一言だけで過去が滲む。
サーニャが目を細める。
「……ガルム」
周囲がざわめく。
「四天王最強の牙王ガルムだ……」
先ほどの男が笑い、踏み出そうとした瞬間——
「——そこまでだ」
ガルムが静かに告げる。
「門前での私闘は禁止だ。やるなら正式な場でやれ」
逆らえない圧。男は舌打ちしながら引き下がる。
空気がわずかに緩む。
そのとき、レイが前に出た。
周囲を見渡し、小さく息を吐く。
「聞いてた通りだな。力、力、力……バカの一つ覚えみたいな連中しかいないんだな、この国は」
ざわめきが起きるが、レイは止まらない。
「お前らみたいな奴らしかいない国なら武力のない俺でも簡単に乗っ取っとれるな」
怒声が上がる。
だが、レイは視線を逸らさない。
「いいか。この国のくそみてぇな価値観を俺たちがひっくり返してやるよ」
広場は静寂しており、レイの言葉に誰も笑わない。
ただ、その意味だけが重く残る。
次の瞬間——
「……馬鹿なのか」
低く吐き捨てるような声だった。
視線を向けたのは、ガルム。
その眼には、明確な軽蔑が宿っている。
「この国の価値を変えるだと?」
鼻で笑う。
「できるわけがないだろう」
ガルムは一歩、踏み出す。
「ここはガルドリアだ」
その声は静かだが、確信に満ちていた。
「強い者が上に立ち、弱い者が踏み潰される——それが秩序だ」
一拍、間を置く。
「それを否定するなど……」
わずかに目を細める。
「お前こそが、この国を何も理解していない証拠だ」
空気が張り詰める。
「武力も持たぬ貴様が、この国を変える?よそ者のお前が何のために?」
吐き捨てるように言う。
その言葉をレイは真正面から受け止め、一歩も引かなかった。
「——決まってるだろ」
短く、言い返す。
「気に入らねぇからだよ」
ざわめきが走る。
「こんなクソみてぇな国、見て見ぬふりできるほど俺は出来た人間じゃないんでな」
レイは静かに言い切る。
「だから変える」
その声には、迷いがなかった。
サーニャは、そんなレイを見て、小さく息を吐く。
「……相変わらず、すごいこと言うね」
レイは肩をすくめる。
「そうか?」
サーニャは前を向く。
その瞳には、迷いはなかった。
「いいね。やってやろうじゃん」
そんな二人をガルムは嘲笑した。
「ハハハハハ……そうか。やってみろ」
そう言うとゆっくりと二人を見下ろす。
「この国にいる間、貴様らがどこまで持つか見物だな」
ガルドリア王国。
ここは強さだけが絶対的正義とする国。
だが、その価値は今、確かに揺らぎ始めていた。
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