第12話 満枠
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王都からアルヴェリア領へ戻る途中、一行はレスティア村へ立ち寄った。
休憩も兼ねていたが、それだけではない。
エリシアを助けた時から世話になってきた宿屋の者たちに、一言礼を言っておきたかったのだ。
村に入ったレイは、そのまま宿へ向かった。
だが入口には、見慣れぬ札が掛かっていた。
本日休業
「……休み?」
エリシアが首を傾げる。
昨日まで普通に営業していた宿だ。
妙だと思いながらも、レイは扉に手をかけた。
「悪いけど、少し見てくる」
「レイ様?」
「すぐ戻る」
扉は鍵がかかっていなかった。
中へ入ると、昼間だというのに食堂は薄暗く、人気もない。
いつもなら客の話し声や食器の音が聞こえてくるはずなのに、妙に静まり返っていた。
そして奥の席で、一人の女が机に突っ伏すように座っていた。
サーニャだった。
レイは少しだけ間を置いて声をかける。
「……勝手に入って悪いな」
サーニャはゆっくりと顔を上げた。
普段の軽い笑みはない。どこか疲れたような目をしている。
「これから俺たち、アルヴェリア領に戻ることになったんだ。今まで世話になったな」
サーニャは重い腰を上げるように体を起こした。
そして、どこか意味ありげに言う。
「そうらしいね。おめでとう」
レイは眉をひそめた。
「……今回の件について、なにか知ってるのか?」
サーニャは答えない。
レイは一歩近づく。
「“おめでとう”ってなんだ」
その視線を受けても、サーニャの表情はほとんど動かなかった。
ただ小さく、ぼそりと呟く。
「あー……失言だったか。でも、もういいか」
沈黙が落ちる。
やがてサーニャは、諦めたように口を開いた。
「……実はね」
その声音は、いつもの彼女よりずっと低かった。
「私とここで働いてるミレアは、レグナードの奴隷だったんだ」
レイの目が細くなる。
「…はっ?奴隷だと?」
サーニャは頷き、淡々と続けた。
「だから、君たちがここに滞在していたことも王都へ向かったことも随時レグナードに流してた」
その言葉に、レイは思わず息を止めた。
まさか、と思った。
サーニャたちが今回の件に関わっていたなど、一度も考えたことがなかった。
サーニャは自嘲気味に笑う。
「驚いたでしょ」
「……ああ」
「でも、もう主人はいない」
その声は、どこか空っぽだった。
「だから今さら宿屋を続ける意味もなくてね。これからどうしようかって考えてたとこ」
レイはしばらく黙っていたが、やがて聞いた。
「お前たちは、なんでレグナードの奴隷なんかやってた」
サーニャは少しだけ目を伏せた。
「私は獣人なんだ」
その一言に、今度はレイが驚く。
「獣人……?」
「うん。ガルドリア王国の出身」
そう言って、自分の耳のあたりに軽く触れる。
普段はバンダナに隠れていたそこには、人より少し長く尖った耳が覗いていた。
「私は昔、あの国の騎士団で剣士をやってたんだ。そこそこ強くてね、最終的には騎士団長まで任された」
レイは黙って聞く。
「ミレアは私の部下で諜報員だった。だから、こういう情報伝達はあの子の役目だったんだよ」
サーニャは遠くを見るような目をした。
「でも私は、もっと強くなりたかった。強さだけがすべての国だから。あそこで価値を持つのは、武力だけだった」
その声が少しだけ苦くなる。
「鍛錬もしたし、危ない任務にも何度も出た。……その結果、大怪我をして、前みたいには戦えなくなった」
レイは黙ったままだった。
「強さだけが必要とされる国で、戦えなくなった騎士団長なんていらない。私は不要とされて奴隷商に売られた。ミレアも一緒にね。諜報員なんて、あの国じゃ最初から軽く見られてた。私がいたから残っていただけだったのに、その私が落ちたら、あの子も一緒に…」
サーニャはそこで初めて、レイを真っすぐ見た。
「……君たちにも迷惑をかけたね。ごめんよ」
レイは少しの間だけ黙り込んだ。
サーニャが獣人だったことにも驚いたが、それ以上にその事情が想像以上に重かった。
だが同時に思う。
彼女たちは命じられたことをしただけだ。
実際にアルヴェリア家へ害を加えたのはレグナードであって、彼女たちではない。
レイはふっと息を吐いた。
「なあ」
「なんだい?」
「ちょうど俺たち、次は獣人の国に行く予定なんだ」
サーニャの目が揺れる。
「……ガルドリアに?」
「ああ」
レイは肩をすくめた。
「お前を奴隷落ちさせた連中に、一矢報いたくはないか?」
サーニャはすぐに首を振った。
「無駄だよ」
「戦力差が違う。あの国はそういう場所だ」
「そっちの“力”の話だろ」
レイはあっさり言った。
「武力だけが力じゃないことを、俺が教えてやる」
サーニャは言葉を失ったように黙った。
レイは扉へ向かって歩き出す。
「まあいいや」
振り返らずに言う。
「獣人の国に行く前に、明日もう一度ここに寄る。その時までに決めといてくれ」
そしてそのまま宿を出た。
外ではエリシアが待っていた。
「誰かいましたか?」
「……いや、誰もいなかった」
レイはそう答えた。
エリシアは少し残念そうに微笑む。
「そうですか、ご挨拶くらいしたかったのですが…」
休憩を終えた一行は、再びアルヴェリア領へ向かった。
◇
夕方頃、一行は無事にアルヴェリア領へ到着した。
アルヴェリア家の馬車が戻ってきたことを知り、領民たちが屋敷前に集まってくる。
その中には、あの日レスティア村で領民たちを率いていた男の姿もあった。
男はアルフレッドたちを見るなり言った。
「どうやら真実が分かったみたいだな」
エリシアが前へ出る。
「ええ」
そして彼女は、王都で明らかになったことを領民たちに説明した。
横領は濡れ衣だったこと。
レグナードとレオニスが共謀していたこと。
そしてレグナードがすでに拘束されたこと。
話を聞いた領民たちの間に怒りが広がる。
「あの野郎……!」
「全部レグナードの仕業だったのか!」
だがエリシアは静かに手を上げた。
「もうレグナード家はいません」
その声で、ざわめきが少し落ち着く。
「だからこそ、ここからは私たちで、この領をもう一度繁栄させましょう」
領民たちはしばらく沈黙していたが、やがて誰かが頷いた。
その頷きは、少しずつ周囲へ広がっていった。
◇
その夜。
エリシアは明日の旅立ちに備え、荷物をまとめ、改めて家族へ挨拶をしていた。
レイもまた、出発前に必要な物を買い揃えていた。
すべてを終えた後、屋敷の廊下でアルフレッドがレイを呼び止める。
「レイ殿」
「なんだ?」
アルフレッドは深く頭を下げた。
「今回の件、本当に感謝してもしきれん。ありがとう」
レイは軽く手を振る。
「もういいって」
だがアルフレッドは顔を上げ、真剣な声で言った。
「娘をよろしく頼む」
レイは少しだけ目を細めた。
「ああ」
それだけで十分だった。
◇
翌朝、レイとエリシアは、獣人の国ガルドリア王国を目指して旅立った。
アルヴェリア家の面々と領民たちに見送られながら二人は街道を進んでいく。
しばらく歩いた後、レイは昨日のことをエリシアに話した。
レスティア村でサーニャと会ったこと。
彼女たちがレグナードの奴隷であり、情報を流していたこと。
そして、獣人の国へ行く前にもう一度迎えに行くつもりであること。
話を聞いたエリシアは、わずかに動揺していた。
「……そうだったのですね」
「怒るか?」
「いいえ」
エリシアはゆっくり首を振った。
「彼女たちの経緯を聞いてしまうと、責めきれません」
少しだけ目を伏せる。
「だからこそ、私も会って話したいです」
レイは頷いた。
「じゃあ寄るか」
そうして二人は再びレスティア村へ向かった。
宿屋には、今日は札は掛かっていなかった。
中へ入ると、サーニャとミレアが待っていた。
レイは単刀直入に聞く。
「昨日の答え、決まったか」
サーニャは少しだけ笑った。
「決まったよ」
その目には、昨日よりわずかに力が戻っていた。
「武力だけが力じゃない……その言葉に、ちょっと期待してみたくなった」
隣に立つミレアも静かに頭を下げる。
「私も、ご一緒します」
エリシアが一歩前へ出た。
「私は、あなたたちのことを恨んでいません」
サーニャとミレアが顔を上げる。
「むしろ、ここで倒れていた私に宿と食事を与えてくださったこと、感謝しています」
エリシアは微笑んだ。
「一緒に行きましょう。そして、一矢報いましょう」
その言葉に、サーニャの目から涙が零れた。
ミレアも目元を押さえる。
「……ありがとう」
レイはそんな二人に、ふと思い出したように聞く。
「そういや、お前ら元奴隷なんだよな。主人がいなくなったら解放されるのか?」
サーニャは自分の首元に手をやった。
そこには薄く、奴隷紋が刻まれている。
「主人がいなくなれば、基本的には自由だよ。ほかに買い手がつかなければね」
少し暗い声だった。
「でも、この紋章がある限り、誰かがお金を払えば、また私たちは誰かの奴隷になるね」
レイは少し考え、それからあっさり言った。
「じゃあ俺が払う」
サーニャが目を見開く。
「……は?」
「奴隷としてじゃない。投資先としてだ」
レイはいつもの調子で続ける。
「どういう形であれ、俺がお前たちに金を払えば、買ったことと変わらないだろ。ちなみにいくらだ?」
サーニャはまだ戸惑いながら答える。
「私は金貨二十枚。ミレアは五枚でレグナードに買われたよ」
「安いな」
「……え?」
「いや、なんでもない」
レイは懐から金貨を取り出した。
「安心しろ。お前たちは奴隷じゃない。投資先だ。自由であることは保証する」
そう言って、サーニャとミレアそれぞれに金貨四十枚ずつ手渡した。
次の瞬間。
二人の体が、エリシアの時と同じように一瞬だけ白く光る。
レイの前にステータス画面が現れた。
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サーニャ
投資完了
ミレア
投資完了
投資枠
0 / 3
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レイはそれを見て、小さく笑った。
これで三枠すべてが埋まったてことになるのか。
「これで、次の旅仲間が揃ったってことだな」
こうしてレイは、新たな仲間を連れ、次の舞台「獣人の国ガルドリア王国」へ向かうことになった。
これにて第1章【アルヴェリア領奪還編】完結となります。
ここまで読んでくださった方、ありがとうございましたm(__)m
第2章【ガルドリア王国編】については、できるだけ早く書いていきたいと思っています。
ブックマークしていただいてお待ちいただけたら大変うれしいです!
◆お知らせです◆
明日の3月16日20:30から新作一挙3話を投稿いたしますのでぜひご覧いただけたら嬉しいです!
事前にどんな作品かお話しすると、今回も異世界転生ものになります。
そして、内容は【福祉】になります。
おそらく「異世界×福祉」は新しい組み合わせだと自負しています。
なろうでたくさんの異世界ものを読まれている皆さんにも楽しんでいただけるよう頑張りますので次回作もぜひよろしくお願いいたします!!
それでは第2章、そして次回作でまたお会いできるのを楽しみにしております\(^o^)/




