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第11話 余波

レイたちが王都へ到着したその日の夜。

アルヴェリア領にあるレグナード侯爵家の屋敷には、王都から派遣された憲兵団が到着していた。


重い扉が乱暴に開かれる。


「何事だ!」


広間へ現れたレグナード侯爵は、憲兵たちの姿を見て眉をひそめた。

鎧を着た兵士たちがずらりと並び、その中央に立つ隊長が静かに告げる。


「レグナード侯爵。国王陛下の命により、貴様を横領および国家反逆の疑いで拘束する」


その言葉に、レグナードの顔色が変わった。


「な、何を言っている……!」

「抵抗は無駄だ」


憲兵たちが一斉に動く。

レグナードの腕はすぐに押さえつけられ、床に膝をつかされた。


「待て!」


叫び声が屋敷に響く。


「なぜばれた……!」


レグナードの顔が歪む。


「レオニスか……!?あのバカ王子が私を売ったのか!?」


だが誰も答えない。

憲兵たちは無言のまま彼を縛り上げる。


「連行しろ」


レグナードはなおも叫んだ。


「違うんだ!俺はレオニスのやつにー」


その言葉は最後まで続かなかった。

口を押さえられ、そのまま馬車へと押し込まれる。

こうしてレグナード侯爵は王都へと連行された。


後日行われた尋問で、レグナードはすべてを白状することになる。

そして国王より裁定が下され、相応の罰を受けることとなった。



時は現在に戻る。王都。

アルフレッドは兵士から袋を受け取っていた。

中には金貨が詰まっている。

今回の税収と同額だった。


兵士が言う。


「陛下よりお返しするよう命を受けております」


アルフレッドはその袋をレイへ差し出した。


「レイ殿。これはあなたのおかげで戻ってきたものだ。どうか受け取ってくれ」


だがレイは手を上げて制した。


「いらん」


あっさりと言った。

アルフレッドが驚く。


「だが……」


レイは肩をすくめた。


「それはこれからお前たちに必要な金だろ」

「俺は別に困ってない」


エリシアが小さく笑う。


「本当に変わりませんね、レイ様」


アルフレッドはしばらく言葉を失っていたが、やがて深く頭を下げた。


「……ありがとう」


レイは軽く手を振るだけだった。


その夜。アルヴェリア公爵家とレイは、国王の計らいで王城に一泊することになった。

晩餐の席には国王ヴェルフェウスも同席している。


食事が一段落した頃、レイが口を開いた。


「一つ聞いていいか?」


国王が視線を向ける。


「なんだ」


レイは少し考えるようにして言った。


「このアルディオン王国は、何か抱えてる問題はないのか?」


エリシアたちが驚いた顔をする。

国王は目を細めた。


「なぜそう思う」


レイはとぼけたように言う。


「神のお告げかな」


場が静まる。


国王はレイをじっと見つめた。

何かを隠している。

それはすぐに分かった。

だが国王はそれ以上追及しなかった。


「……そうか」


静かに頷く。


「お前の言う通りだ」


国王はゆっくり言った。


「この王国は問題を抱えている」


食堂の空気が少し重くなる。


「今回のレグナードの件だけではない。近年、貴族の中に私利私欲のために事件を起こす者が増えている。領民を搾取する者、税を横領する者、領地を奪おうとする者……」


そして――


「中には他国と手を組み、国家を揺るがすことを企む者までいる」


エリシアが息を呑む。


「そんな……」


レイは頭をかいた。


「そりゃ厄介だな」

「余も同感だ」


国王は静かに笑った。


そのときエリシアがレイを見て言った。


「レイ様はこれからどうされるのですか?」

「とりあえず他の国でも見て回るかな」

「他の国……」


エリシアは少し考えてから言った。


「それでしたら、ここから近い国があります。獣人の国、ガルドリア王国です」

「獣人の国?」

「はい」


エリシアは続けた。


「今回のことで痛感しました。私は公爵家の者として知識・経験ともに不足していると」


アルフレッドが娘を見る。


「エリシア……」


エリシアは父に向き直った。


「世界を自分の目で見て、知見を広げてアルヴェリア領の繁栄に尽力したいです」


そしてレイを見る。


「もしよろしければ、その旅に同行させていただけませんか?」


アルフレッドは一瞬言葉を失った。

だがやがて静かに言う。


「成長しようとしている者を止めるのもまた愚かだな。それにレイ殿が一緒なら安心だ」

「まあ、俺としても助かる」


こうしてエリシアはレイの旅に同行することになり、夕食はお開きとなった。


そして、深夜ベッドに横になったとき、レイの前に通知が現れた。


――――――――――――――

投資先:エリシア

投資額:金貨45枚

評価額:金貨47枚

前日比:+金貨1枚

――――――――――――――


レイは小さく笑った。


(やっぱり来たか)


これでまた一つ。

自分の能力の仕組みに確信が深まった。



翌朝。


エリシアの旅支度するため、レイもアルヴェリア領へ行くことにした。

国王の命令で数名の兵士が護衛として同行する。


馬車は王都を出て、ゆっくりと街道を進んでいった。

途中、反対側から一台の護送車がやって来る。

重い鉄格子のついた馬車だった。


中には鎖につながれた男が座っている。

だがレイたちは、それが誰なのか気づかなかった。


その男がレグナード侯爵だったことを。



その頃。レスティア村。

宿屋の裏手に居た女は報告を受けていた。


「レグナード侯爵が……王国に捕まったそうです」


彼女はしばらく黙っていた。

やがて、小さく息を吐く。


「……そう、終わったんだね」


静かな声だった。

報告した女が戸惑いながらつ呟く。


「サーニャさん……これからどうします?」


サーニャは答えなかった。

少しだけ空を見上げる。

心地よい風が静かに吹いていた。


主人(レグナード)は捕まり、ここでの任務は消えた。

自分はこれからどうすればいいのか。


サーニャは小さくつぶやいた。


「……さあ」


それが本音だった。

どうすればいいのか。

まだ分からない。


サーニャはもう一度、静かにため息をついた。

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