第11話 余波
レイたちが王都へ到着したその日の夜。
アルヴェリア領にあるレグナード侯爵家の屋敷には、王都から派遣された憲兵団が到着していた。
重い扉が乱暴に開かれる。
「何事だ!」
広間へ現れたレグナード侯爵は、憲兵たちの姿を見て眉をひそめた。
鎧を着た兵士たちがずらりと並び、その中央に立つ隊長が静かに告げる。
「レグナード侯爵。国王陛下の命により、貴様を横領および国家反逆の疑いで拘束する」
その言葉に、レグナードの顔色が変わった。
「な、何を言っている……!」
「抵抗は無駄だ」
憲兵たちが一斉に動く。
レグナードの腕はすぐに押さえつけられ、床に膝をつかされた。
「待て!」
叫び声が屋敷に響く。
「なぜばれた……!」
レグナードの顔が歪む。
「レオニスか……!?あのバカ王子が私を売ったのか!?」
だが誰も答えない。
憲兵たちは無言のまま彼を縛り上げる。
「連行しろ」
レグナードはなおも叫んだ。
「違うんだ!俺はレオニスのやつにー」
その言葉は最後まで続かなかった。
口を押さえられ、そのまま馬車へと押し込まれる。
こうしてレグナード侯爵は王都へと連行された。
後日行われた尋問で、レグナードはすべてを白状することになる。
そして国王より裁定が下され、相応の罰を受けることとなった。
◇
時は現在に戻る。王都。
アルフレッドは兵士から袋を受け取っていた。
中には金貨が詰まっている。
今回の税収と同額だった。
兵士が言う。
「陛下よりお返しするよう命を受けております」
アルフレッドはその袋をレイへ差し出した。
「レイ殿。これはあなたのおかげで戻ってきたものだ。どうか受け取ってくれ」
だがレイは手を上げて制した。
「いらん」
あっさりと言った。
アルフレッドが驚く。
「だが……」
レイは肩をすくめた。
「それはこれからお前たちに必要な金だろ」
「俺は別に困ってない」
エリシアが小さく笑う。
「本当に変わりませんね、レイ様」
アルフレッドはしばらく言葉を失っていたが、やがて深く頭を下げた。
「……ありがとう」
レイは軽く手を振るだけだった。
その夜。アルヴェリア公爵家とレイは、国王の計らいで王城に一泊することになった。
晩餐の席には国王ヴェルフェウスも同席している。
食事が一段落した頃、レイが口を開いた。
「一つ聞いていいか?」
国王が視線を向ける。
「なんだ」
レイは少し考えるようにして言った。
「このアルディオン王国は、何か抱えてる問題はないのか?」
エリシアたちが驚いた顔をする。
国王は目を細めた。
「なぜそう思う」
レイはとぼけたように言う。
「神のお告げかな」
場が静まる。
国王はレイをじっと見つめた。
何かを隠している。
それはすぐに分かった。
だが国王はそれ以上追及しなかった。
「……そうか」
静かに頷く。
「お前の言う通りだ」
国王はゆっくり言った。
「この王国は問題を抱えている」
食堂の空気が少し重くなる。
「今回のレグナードの件だけではない。近年、貴族の中に私利私欲のために事件を起こす者が増えている。領民を搾取する者、税を横領する者、領地を奪おうとする者……」
そして――
「中には他国と手を組み、国家を揺るがすことを企む者までいる」
エリシアが息を呑む。
「そんな……」
レイは頭をかいた。
「そりゃ厄介だな」
「余も同感だ」
国王は静かに笑った。
そのときエリシアがレイを見て言った。
「レイ様はこれからどうされるのですか?」
「とりあえず他の国でも見て回るかな」
「他の国……」
エリシアは少し考えてから言った。
「それでしたら、ここから近い国があります。獣人の国、ガルドリア王国です」
「獣人の国?」
「はい」
エリシアは続けた。
「今回のことで痛感しました。私は公爵家の者として知識・経験ともに不足していると」
アルフレッドが娘を見る。
「エリシア……」
エリシアは父に向き直った。
「世界を自分の目で見て、知見を広げてアルヴェリア領の繁栄に尽力したいです」
そしてレイを見る。
「もしよろしければ、その旅に同行させていただけませんか?」
アルフレッドは一瞬言葉を失った。
だがやがて静かに言う。
「成長しようとしている者を止めるのもまた愚かだな。それにレイ殿が一緒なら安心だ」
「まあ、俺としても助かる」
こうしてエリシアはレイの旅に同行することになり、夕食はお開きとなった。
そして、深夜ベッドに横になったとき、レイの前に通知が現れた。
――――――――――――――
投資先:エリシア
投資額:金貨45枚
評価額:金貨47枚
前日比:+金貨1枚
――――――――――――――
レイは小さく笑った。
(やっぱり来たか)
これでまた一つ。
自分の能力の仕組みに確信が深まった。
◇
翌朝。
エリシアの旅支度するため、レイもアルヴェリア領へ行くことにした。
国王の命令で数名の兵士が護衛として同行する。
馬車は王都を出て、ゆっくりと街道を進んでいった。
途中、反対側から一台の護送車がやって来る。
重い鉄格子のついた馬車だった。
中には鎖につながれた男が座っている。
だがレイたちは、それが誰なのか気づかなかった。
その男がレグナード侯爵だったことを。
◇
その頃。レスティア村。
宿屋の裏手に居た女は報告を受けていた。
「レグナード侯爵が……王国に捕まったそうです」
彼女はしばらく黙っていた。
やがて、小さく息を吐く。
「……そう、終わったんだね」
静かな声だった。
報告した女が戸惑いながらつ呟く。
「サーニャさん……これからどうします?」
サーニャは答えなかった。
少しだけ空を見上げる。
心地よい風が静かに吹いていた。
主人は捕まり、ここでの任務は消えた。
自分はこれからどうすればいいのか。
サーニャは小さくつぶやいた。
「……さあ」
それが本音だった。
どうすればいいのか。
まだ分からない。
サーニャはもう一度、静かにため息をついた。




