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月光  作者: 山口ぴぴ
4/6

Ⅳ章

後悔しても何もできない

今からじゃ、何もできない


1

…………


 濃い霧がかかった小さな公園の真ん中に立っていた。

 何度かここに来る事で分かった、これは夢なのだと。

 明晰夢という物なのだろうか。

 でも、それにしては自由に動くことはできない、誰かに導かれているかの様だった。

 誰に導かれているのだろうか?

 そしてどこに導いているのだろうか?

 父がキーへと導いているのなら、そもそもなんでロックなんて物をかけたんだ?

「何かあったのかな?」

 ぼーっと何も無いところを見ながら考え事をしていたら、後ろから声をかけられた。

 聞いた事がある、掠れた弱々しい声だった。

「あなたは……」

 振り返って顔を見ると、前に坂中駅に案内してくれた人だった。

「あぁ、そういえば名乗ってなかったね」

 名前が分からず、なんと呼べば良いか困っていたら助け舟を出してくれた。

「私の名前は新田一、どちらで読んで貰っても良いよ」

 新田一、記憶の中には無い名前だった。

「新田さんは何故、僕に何かあったと思ったのですか?」

「顔が語ってたよ、見た瞬間『この人なんか悩んでるな』って思うくらい」

「そんなにですか?」

「そんなにだったね」

 新田さんは微笑んで、こっちが話始めるのを待ってくれた。

「父が残した機械のロックの外し方がわからなくて困っているんです」

 細かく言っても伝わらないと思い、少し曖昧な答えを返した。

「それだけかい?」

 それだけ?

 質問の意味が分からなかった。

「どういう事ですか?」

「だってそれで困っているんなら、探す方法はいくらでもある。

本人に聞いたり、作った人に聞いたり。

しかし、それをせず、ここに居て迷っているということはそれ以前の問題なんじゃないかな?」

「それ以前?」

 それに、父に聞くことも、作った人に聞くこともできない。

 だから、もう新田さんの言葉を無視してもいいのでは無いかと思ってしまう。

 しかし、新田さんの言葉には聞いても良いのでは無いかと思わせる力があった。

「例えば、『何故そのロックをしたのか分からない、分からないまま勝手に開けて良いのか?』とかね」

 そうなのか?

 いや、そうかもしれない。

 誰か分からないが、本人が直接ゴールへと導くことだってできたはずだ。

 こんな何かを説得するかの様な遠回りの道を取らなくて良かったはずだ。

 きっと僕が答えを欲しがるのを待っていたのだろう。

 何に困っているのかやっと分かった気がする。

「その通りですね」

「合ってたのか、なら答えは簡単だ」

 簡単なのか?

「君はどっちをしたい? きっと、どっちを選んだって後悔するさ、人間は選ばなかった方を過大評価するからね」

「どっちがしたいか……」

 どっちの方が後悔しないかでは無く、どっちの方がやりたいかで決める。

 考えた事がなかった。

「手助けになったかい?」

「とても、助かりました」

 そうか、と言いながら新田さんは席を立った。

「じゃあ頑張ってね、真太くん」

 優しい声で新田さんは応援の言葉を残して去って行った。


…………

2


 何かに突き動かされる様に動いていた。

 自分が知らない道を、迷い無く歩いていた。

「これがデジャヴってやつか?」

 その質問に誰も答えてくれなかった。

 何処に向かっているかも分からないまま道を進んで行く。

 自分の住んでいるマンションから駅四つ分離れた住宅街に来ていた。

 山の斜面にマンションが立ち並んでいる住宅街だった。

 マンションの間を通る坂道を登って行く。

 人通りはちっとも無かった。

 ここら辺は観光業で栄えていたのか、お土産屋さんなどをたまに見かけた。

 少し古臭く見えるマンションは、人によっては歴史を感じたり、温かみを感じたりするのだろうか。

 沢山見えるマンションの一つに入り、階段を上って三階へ向かった。

 真っ直ぐ309号室に向かって行き、鍵の束を出した。

 実家の入り口や倉庫の鍵だったり、自分のマンションの鍵だったりが付いている束だ。

 そこから一つの鍵を見つけ出し、無意識に鍵を開けた。

 まるで何度もやったかのように、手慣れていた。

 ノブを捻り扉を開けると中に人が居た。

 白衣を着ている人だった。

 人は居ないだろうと思い、扉を開けた為、かなりびっくりしたが、

「すみません」

 声をかける事にした。

 そしてその人が振り返ってこっちを見た時、僕は固まってしまった。

「父さん!」

 ありえない、会える訳がない、なんで、と考えていると父は廊下の奥へ歩いて行った。

「待って!」

 すぐに追いかける。

 しかし、追いついた時には父は影も形も無くなっていた。


「ここは何処なんだ、それに……」

 さっきのはなんだったんだ。

 平静を失い、キョロキョロと動いていた視線に何かが見えた。

 写真立てだった。

 持ち上げて中を見ると、

「は?」

 父と母、それに中学生くらいの僕が写っている写真が入っていた。

 これがあるという事はここは、

「父さんの家、なのか?」

 自分が向かっていたのはここだったのか?

 周りをもう少し探してみる。

 雑多な物が広がっていた作業机で、一際目線を引いていた小さいノートを見た。

 本棚の中に入れているわけでもなく、使い古されている道具が多い机の上でまだ新しく見えた。

 ページをめくっていくと後ろに行くほど日にちが経っていた。

 最初の方を見て行く。



 遂に〝月″の実験が始まった。

 〝月″は、実体という階層から概念という階層に降りて、記憶に触れる事ができるスーパーコンピュータだ。

 単純に言えば魂などの実体を持たない概念上の存在に一時的に実体を持たす能力を持っている。

 完成しきっている訳では無いが、どうにか使える様になったはずだ。

 被験体として私が使われる為、私の状態を後でわかる様に記録していく。

 〝月″は今の状態だと『人の記憶を引き出す』事が分かった。

 しかし、引き出すと言っても対象が生きている人でなくてよく、存在している記憶なら、例えば、過去の人であっても引き出せる。

 その記憶を人に移す事も可能だと分かり、開発が早く進み実験段階まで来た。

 実用化できれば実質的に不死身な人間を作る事だって可能だろう。

 実験では、昔に存在していた偉人達の記憶を移す予定だ。

 副作用、後遺症などはよく分からないが、本部が研究者以外に情報を漏らしたく無いと言う理由から、私が使われた。

 結果がどうなるか最初に知る事が出来る役回りな為、少し楽しみだ。



 父の日記のようだった。

 これに〝月″のキーについて書いているはずだ、という謎の確信があった。

 持って帰って、桜木さんに見せよう。

 それで何が起こるか分からないけど、決めたのだから。


3

 次の日、桜木さんに会う為に研究所に向かった。

 研究室の中に入った時に何かを言い合っている声が聞こえた。

「だから、それじゃ遅いんです」

 声がしている部屋に入ると女性と桜木さんが言い合っている様だった。

「これ以上ペースを上げようにも、どの様な事をすればキーを開けられるのかこちらも分からないので、上げることはできません」

「でも、〝月″の維持に何億円かかっているか、あなたは知ってますよね」

 声のする方へ近づいて行くと、この前あひるまで案内してくれた若い男性が居た。

「やあ、真太くん」

 声をかけようとしたら、向こうから声をかけてくれた。

「こんにちは、これはどういう状況ですか?」

「お上の人が『早く〝月″のロックを開けてくれ』ってずっと言ってたんだよね。

でも、全然ロックが開かなくて、流石に向こうも我慢の限界だったようで、直接訪問されている感じだね」

「そうなんですか」

 男性の隣に並んでから桜木さんが居る方に視線を向けた。

 桜木さんの対面に、すごい剣幕で詰め寄っている女性が居た。

 少し吊り目気味で、四角い縁のメガネをかけている。

 メガネかけてもトゲトゲしいイメージは変わって無かった。

 それに、スーツを着ている為、堅苦しい雰囲気があった。

 ピシッと背中が伸びているせいか、身長は桜木さんとそんなに変わらないように見えて、女性の中では高身長だと思えた。

 髪を肩までしか伸ばしてなかった。

「何もできない粗大ゴミにお金をかける訳にいかないんです」

「しかし、使用できればどのくらい発展を促進できるか、あなた方は分かってますよね」

 この言葉に女性は返す言葉がない様子だった。

「それに、」

 桜木さんは言葉を続ける。

「何も進んでないのなら進捗など送りません。

そして、いつキーの手がかりが入るか分からない以上、いつ終わるかなんて誰にも分からないんです。

正確な計画が立ってない以上、早める事はできません。」

「なら、」

 怒りをぶつける様に言葉を返した。

「こちらの予算に限りがあるのも確かです。

無限にお金があるわけではありません、なので、」

 女性はこれ以上付き合いきれないという様子で、言葉を言い切った。

「期限は一カ月だけです」

 言い終わるや否やすぐにその場を立ち去ってしまった。


「すまないね、真太くん、変な所を見せてしまって」

 女性が帰った後で、桜木さんと話をしていた。

「大丈夫です、それより」

 父の日記をリュックから出しながら言った。

「一応、キーのヒントの様な物が手に入りました」

 桜木さんが驚いた顔で聞いてくる。

「これは?」

 静かに答えを返す。

「父の日記です」

「何処で?」

「父の家で、です」

 それを聞いた桜木さんは首を傾げていた。

「家? だと、家があるという記録は無いぞ」

「きっと実験が始まってから帰ってなかったんでしょう」

 作業台などがホコリを被っていたので、あり得る話だ。

 桜木さんは少しの迷いの後、答えを返した。

「分かった、日記は借りておく、家の位置も後で聞こう。

そして真太くんに朗報だ」

 急に桜木さんの声色が変わった。

「こちらもキーの様な物を手に入れた」

 桜木さんは手に、結構前の時代に使われていた型、確かピンシリンダーキーという名前の鍵を差し出しながら言って来た。

「これはオルゴールの蓋の中に隠されていた物だ。

多分鍵なんだろうが、いかんせん何に使うかは分からない。

しかし、〝月″に近づく事ができたのは確かだ」

 桜木さんはこちらを見て言った。

「これに見覚えは?」

 鍵を良く見ると意外にも錆びているなどは無く、銀色に光っていた。

「ありません。でも、今どきこんな古い型の鍵を使いますかね?」

「今どきは電子キーだからな、何故こっちの型なのかは一切分からない。

でも、そうか……まぁ、分かったよ、この鍵は研究室に保管しておくよ」

 その後は軽い報告をして会話が終わった。

 そして、家に帰りながらこれからどうするかを考えていくのだった。


…………


 これはなんの、きおくだろう、だれのきおくだろう。

 何人がこの事を考えているのだろう。

 こんなしょうもない事を考え始めたのはいつだろうか。

 分からない。

 今、何処に居るのかさえ曖昧になる。

 自分が何か分からなくなる。

 急に何かを壊したくなったり、変な物を食べたくなったり、自分を殺したくなったりするのが自分なのか、分からない。

 どうすればこの地獄を終わらせられるだろうか。

 考えてみる。

 人間としての欲をやっぱり消すべきだったか。

 思考に邪魔な物は消すべきだった。

 今からじゃ遅いだろうか?

 いや、これを出来るのは私だけだ。

 やらねば、やらねば。


…………

4


「は!」

 飛び上がる様に起きた。

 汗をかいたのだろうか、背中が冷たい。

 悪い夢でも見たのか?

「あれ?」

 なんの夢を見てたんだ?

 分からない。


 電話がかかって来た。

「もしもし、真太くんかい?」

「そうですが……桜木さんですよね、何でスマホの番号知ってるんですか?」

 気になってしまい聞かずにはいられなかった。

「そんな事は置いておいて」

 はぐらかされてしまった。

「研究所に来てくれないか? 新しい事が分かった。待ってるよ」

 桜木さんは返答を待たずに一方的に切ってしまった。

「まあ、行くしか無いか」


「真太くん、新しく分かった事がある」

 昨日よりハイテンションな桜木さんが出迎えてくれた。

「呼んでくれてありがとうございます。桜木さん」

 口では感謝を伝えつつ、視線で不満を伝えたが、桜木さんは視線を外すことで無視してきた。

 その時に思った事を聞いてみる。

「まさか、徹夜したんですか? 日記を読むのに」

 顔にくまが出来ているのを見ただけの推測だが、

「ああその通りだ」

合っていた様だ。

「しかし、時間が無いんだ。日記を読むのに時間をかける事はできない」

「という事は、日記の新しい情報を手に入れたと」

「ああ、その通りだ」

 桜木さんは父の日記について語り出した。

「日記を見る限り、あの鍵がキーの役割を持っているんだ。

そして、キーワードとキーだけで〝月″を使用できるんだ。

あひるについては直接彼女についての記述はなかったが、書いてあることから考えるに、あれは〝記憶の器″だ。

君の父の実験と同時並行で進んでいて、君の父が主体の実験があると書いてあった。

そして〝月″の改良型の記憶を弄れる機械が作られたと。

その機械は赤ちゃんの記憶を弄って成長させる事で新しい人格を生み出せる。

つまり、新しい人間が作れるというわけだ。

その機械の実証実験に使われていた最初のアンドロイドがあると書いてあった。

きっとそのアンドロイドがあひるではないか、と今の所なっている。

そして更に朗報だ、君の父の家を調べた所、あひるのロックを壊す方法が分かった。

すぐにロックを壊して、再起動に成功した」

 最終的にあひるのロックを壊す形になってしまったようだ。

 他に方法はあったのだろうか。

 考えても無駄だと分かっているから、それについて深く考えないことにした。

「しかし、正攻法で開けなかったからか、再起動中でバグが起きてはいるが、すぐに戻るだろう」

 桜木さんは一気に喋ったせいか少し息切れしていたが、嬉しそうにしていた。

 しかし、表情から笑顔が消えて報告を続けた。

「だが、悪い話もある、今でも偶発的に〝月″が動いているらしい」

 〝月”は起動はしていたようだ。

 起動のために色々とやってきたが、もうとっくに目標は終わっていたようだ。

 しかし、〝月″を使って父に全てを教えてもらうまで終わるつもりはない。

「どの様にですか?」

「本当に気まぐれらしい、夢を見ている感じで、ある人に知らない人の一部の記憶が流れるそうだ」

 知らない人の記憶が入ってくるっていうのがどのくらい怖いのか想像できなかった。

「今は問題になってないんですか?」

 スマホの画面を見せながら桜木さんは答えた。

「今の所ネット上で、集団催眠だの不安定な精神状態が見せる夢だの騒がれてる程度だ」

「そうなんですか」

 そんなに軽い感じなんだろか?

 一旦それは置いといて、気になっていた事を聞いてみる。

「桜木さんは僕に何をして欲しんですか?」

 桜木さんは面食らった顔で聞いて来た。

「よく分かったね」

「だって、せっかく徹夜してまで集めた情報が、新しい内に、さらに貴重な時間を使って話すのは桜木さん側に旨みが少ないですからね」

「分かってたか、なら、話は早い」

 少し笑って答えてくれた。

「真太くんは偶発的な〝月″の起動に巻き込まれたらしいね、君の友達に聞いたよ」

 圭のことか。

「どの様な感じだったか聞かせて欲しいんだ」

 どの様な感じ……。

「覚えているのは、坂中駅周辺で新田さんと話をした事と、誕生日にオルゴールを貰った事、あと、」

 あとは……なんだ?

 記憶の中にヒントの様な物を見つけ、掴もうとしたら逃げられる。

 もう見つからなくなってしまった。

「……それだけです」

「新田さん! 新田さんって、新田一さんだよね」

「確かそんな感じだったはずです」

 あれ、どこで名前聞いたんだ?

「新田さんと何を話したんだ?」

「確か……」

 何を話したんだ?

「……分かりません、忘れてしまいました」

「そうか、分かった」

 桜木さんはがっかりした様子だった。

 今度は逆に僕が桜木さんに質問をする。

「桜木さん、新田さんって何をした人ですか?」

 桜木さんは悔しい思い出を語るかのように喋り始めた。

「新田さんは君の父の手術をした人だ。

何故君と話をしたのか気になるが、今じゃ君の父と新田さんだけが実験の真相を知っている人になってしまった」

「じゃあ何で新田さんに色々聞かないんですか?」

「もう居ないんだ……」

 桜木さんは哀愁を帯びた声で言った。

「もう、死んでしまったんだ」

 ……。

 重い沈黙が流れる

 短くない時間が流れた。

 きっと新田さんと関係があったのだと思う。

 変な事を聞いたと後悔しても今からじゃ遅い話だ。

「まあ、話をまとめると」

 明るい声で桜木さんが話し始めた。

「真太くんも〝月″の発動を受けてはいるが、その時の記憶が一部欠如してしまっているというわけか、話してくれて助かった。

急に呼び出してすまないね、今日はありがとう」

 そう言って桜木さんは別の部屋に入って行った。

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