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月光  作者: 山口ぴぴ
3/6

Ⅲ章

何処なら戻れたか。

いつなら辞められたか、考える、考える。


1

「よお、真太」

 今日は期末試験で、期末試験の勉強の為に、早めに学校に来たら圭に会う事ができた。

「なぁ」

 昨日から気になっていた事を聞いてみた、

「あひるって圭にとってのなんだったんだ?」

 思いがけない質問だったのか、少し迷ってから答えを返してきた。

「知り合い以上、友達以下、かな」

「曖昧だな」

「俺よりも真太や沙智とよく話していたからな……」

 圭は過去を思い出す様に何もない所を見ていた。

「あひるは、」

 圭は思い返しながら言葉を紡いでいた。

「なんというか、人間らしさがあったな」

「人間らしさ?」

「なんか、こう、」

 圭が頭を捻っているが、答えは一向に出そうに無い。

 言葉に表すのが難しい様子だった。

 勉強の為にも時間を使い過ぎる事が出来ないので、それで会話は終了した。


 午後、同じ質問を沙智にする事にした。

「あひるってさ、沙智さんにとってなんだったの?」

「友達……かな」

 ほとんど迷わずに答えを返して来た。

「友達か」

「そう、友達、しょうもない雑談をしてくれたり、私がしたい事を一緒にやってくれたり、一緒にいると楽しい友達だったよ」

「そうなのか」

 ふと、昨日の記憶が蘇る。

 人間と区別のつかない見た目をしていたアンドロイド、あひる。

 過去の言動も人に近い。

 どうすれば、そのような物ができるのか分からなかった。


 その後、順調に期末試験を終え、春休みが始まった。


2

 今日から早めの春休みに入る。

 僕の学科では試験などが早く終わる関係上、他の大学の生徒よりも早く休める。

 休みだが特に予定も無く、家でゆっくりするつもりだったが、何故か今日は坂中駅に向かっていた。

 何故か行きたい気持ちになっていた。


「ここで合ってるよな?」

 最初、研究室に向かった時は、桜木さんに案内して貰ったから迷う事はなかった。

 しかし、今回は一人で向かっているため、道が合っているか心配になってきた。

「たしか、ここを曲がれば」

 角を曲がった瞬間に、視界が影に遮られ、足が止まった。

 前は意識してなかったが、研究所の全体像はかなり大きかった。

 その大きさに威圧されてしまったが、中に入る為に足を進めた。


「真太君で合ってるかい?」

 研究所の入り口の近くに、前に、桜木さんのサボりを注意していた若い男がいた。

「あひるの所まで案内するよ」

 何故来たのかなどは聞かずに、案内してくれた。

「あの、桜木さんは?」

「今日は上の人との会議で居ないんだよね、話したければ今日は無理だね」

 この男性は桜木について丁寧に教えてくれた。

「教えてくれてありがとうございます」

「どういたしまして。

さて、この部屋の中だよ、出る時は勝手に出て行っていいからね」

「案内してくれて助かりました」

 男性はそれを聞いてすぐに来た道に戻って行った。

 扉に手をかざすと音を立てずに横にスライドした。

 前に見た時と変わらない光景が広がっていた。

 前は気にしなかったが、冷たい雰囲気を持っている白い壁の部屋の中は、窓が一つも無く、光源は上に有る照明だけだった。

 そんな事を観察しながら部屋の真ん中に近づいた時に、遠くから何かの音楽が聞こえてきた。

 何処から聞こえているか調べようと周りを見渡しても、スピーカーなどは無く、何処から音が来ているのか分からなかった。

 聞き覚えがある音楽だった、しかし何処で聞いたかもわからなかった。

 良く音を聞いてみると、オルゴールのような金属音が聞こえてきた。

「なんなんだ?」

 何が起こっているのか分からなかった。

 視線を感じて振り返ると、そこには目を開き、こっちを見ているあひるがいた。

 少し明るい黄色の瞳がこっちを見つめていた。

「な、なに?」

 思わず聞いてしまった。

「案内の準備ができました、キーを使用してください」

「は?」

 何を言っているか分からないが、この機会を逃してはいけない感じがした。

「キーは、何?」

 そう質問しても目の前の少女は何も答えてくれなかった。

 気づけばあひるの目は閉じられていて、音楽も聞こえなくなっていた。

「なんだったんだ」

 まるで、夢から覚めたかのようだった。


…………


「真太、誕生日おめでとう」

 今日は十二月十日、僕の誕生日だった。

「子供の成長は早いと良く言うが、こんなに早いとは」

 しみじみとしながら父さんが言っていた。

「さて真太、プレゼントだ」

 そう言って大きなプレゼント箱を貰った。

 胸の前で両手で抱える。

 持つと、ずっしりとした重さがあった。

「何が入ってるの?」

「開けてごらん」

 プレゼント箱を開けると、装飾の入った大きな木の箱のような物が入っていた。

「これは何?」

「その箱の下のゼンマイを巻いてごらん」

 言われた通りに動かすと、音が鳴り始めた。

「オルゴールって言う楽器だね」

「オルゴール……」

 初めて見た物に心を躍らせながら、静かで、落ち着いていて、どこか悲しげな雰囲気のある曲を聴いていた。


…………


3

 オルゴール。

 今回の夢は良く覚えている。

 昨日の音楽は誕生日プレゼントで貰ったオルゴールの音楽だ。

 何かが繋がった気がした。

 今、あのオルゴールは実家にあったはずだ。

 実家までは少し時間が掛かるが、すぐに向かう事にした。


「思ったより時間が掛かったな」

 実家の最寄り駅に着いたときの最初の感想がそれだった。

 いつもは時間なんて気にしない為、今日は電車に乗っている時間が長く感じた。

 駅から出て、線路沿いを進んで、途中のトンネルで線路の下をくぐって、そのまま真っすぐに進むと実家に着くはずだ。

 実家と言っても父や母のいる家ではなく、祖父母が住んでいる家だ。

 一応母も住んではいるが、今日は仕事と聞いていた。

 少し古風な家構えが見えてきた。

 今風なマンションに引っ越すという話もあったが、本人達がこっちが良いと言ってそのままになった。

「おじいちゃーん、おばーちゃーん」

 日常的に畑仕事などをやっている二人だったが、今日は事前に連絡をしていたお陰か、二人は家でゆっくりしていた。

「いらっしゃい」

 おばあちゃんが先に出迎えてくれた。

「この前部屋片付けた時にね、棚に置いといたわよ、オルゴール」

「ありがとう、おばあちゃん」

 自分の部屋に入り、言われた通りの棚を調べたら、すぐに見つけられた。

 おばあちゃんが定期的に掃除をしてくれるからか、埃をそんなに被っていなかった。

 少しだけ手のひらから余る程度の大きさのオルゴールを持ち上げる。

「良かった」

 休みになったらたまに来てはいるが、オルゴールを最後に見たのはかなり前だった為、少し不安になっていた。

 だからか、つい言ってしまった。

「見つかったかい」

「見つかった、ありがとうおばあちゃん」

「それは良かった、じゃあ真太、後で倉庫の整理を手伝っておくれ」


 それからはかなり忙しかった。

 おじいちゃん、おばあちゃんは最近腰が曲がり始めて、力仕事ができなくなってしまった為、僕がたまに実家に来て手伝いをしている。

 冬が過ぎていらなくなったヒーターを一旦しまったり、薪をしまったり、掃除をしたり、かなりの大仕事をした。

 整理が終わった後に、おばあちゃんが肉じゃがを作って食べさせてくれた。

 帰りの電車では体が疲れて重かったが、何かに満たされた感じがした。


4

 次の日。

 この日も研究所に向かう事にした。

 向かっている道中、小さな公園のベンチで休んでいる桜木さんを見つけた。

「桜木さん」

 声をかけたら、こちらに顔を向けて手を上げてきた。

「やあ真太くん」

「こんにちは桜木さん、サボり中ですか?」

 少し桜木さんの表情が強張った。

「酷いな」

「事実じゃないですか」

「そうだけどな……」

 沈黙が二人の間に流れる。

 話をするタイミングを逃してしまった。

 そんなことを思っていると桜木さんがポケットからタバコの箱を取り出した。

「真太くんも吸うかい?」

 タバコの箱の口をこっちに向けてきた。

「いえ、まだ未成年ですので」

「真面目だな〜」

 そう言いながらライターでタバコに火をつけた。

「桜木さん、」

 このタイミングで話してみようと思った。

「二日前に研究所に行ったんですけど、あひるに近づいた時に音楽が聞こえてきたんです。

その時、聞こえたのが、」

 オルゴールをリュックから出し、直接桜木さんに見せた。

「このオルゴールの音だったんです」

 桜木さんは静かに話を聴いていた。

「その音楽が流れている間、あひるが目を開けていて、『案内の準備ができました。キーを使ってください』って言ってきて」

「それに君はなんて言ったんだ?」

 桜木さんが質問をしてきた。

「キーってなんですか?と聞きました」

「なんて答えを貰った?」

 桜木さんの顔にはこれといった感情が見えなかった。

 まるでこの話題に無関心かのようだった。

「質問をした時には音楽が止まっていて、あひるも目を閉じていました」

「そうか」

 少しの間の沈黙の後、

「それで、そのオルゴールがキーになると考えた訳だ」

「その通りです」

「それについて調べさせてくれないか?」

「わかりました」

 桜木さんにオルゴールを手渡す。

「でも、これは大切な物なので壊さない様にしてください」

「分かってるよ、大切に使わしてもらう」

 桜木さんはタバコの吸い殻を、横にあった空のペットボトルの中に捨てていた。

「後、今日もあひるに会って良いですか?」

「構わないよ、また新しいヒントが手に入るかもしれないし」

 そう言いながら桜木さんは立ち上がった。

「じゃあ行こうか」


 もう何回も通ったが、慣れる事ができない通路を通って行く。

 照明が無いのに明るい廊下の先を見ながら進んで行く。

「真太くんは」

 急に話を振って来た。

「あひるについてどう感じている?」

「あひるですか」

 考えた事が無かった。

 答えを返せないでいると、

「ごめん、変な事を聞いてしまったね」

 そんな話をしていたら、目的地に着いた。

「さ、早く入ろう」

 桜木さんはさっきの質問を誤魔化すかの様にさっさと部屋の中に入っていった。


「このオルゴールは手巻きのゼンマイ方式でいいんだよね」

「はい、ゼンマイを回せば動きます」

 静かな部屋の中にゼンマイを巻く金属音が少し響いたのち、音楽が鳴り始めた。

 一分、二分と静かな部屋に曲が鳴り響いていた。

 暗く、悲しい曲なのに、なぜか癒される。

 応援されてる様な感じもする不思議な曲だ。

 そして急に曲が止まった。

 その後に静かな時間がゆっくりと経っていった。

「何も起こらなかったか」

 桜木さんは安心しているのか、落胆しているのか、よく分からない顔をしていた。

「まあ、すぐに問題が片付いちゃうとつまらないからな」

 そう言いながら部屋を出ようとしながら、最後に、

「そうだ、これからもなにか分かった事があれば教えてくれ」

とだけ言って去って行った。

 その後も、あひるに異変は全く起きなかった。

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