表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君は武王  作者: いふじ
6/6

第1章:その名はリゼル3

「リゼルくん。君はこんな時間にどうしてここにいるんだい?」

 

柔和な顔つきのやせ細った男はそう言った。


 「退学になっちゃいました」


 リゼルは赤い絨毯が敷かれた先の、古い木で作られた豪奢な椅子に座る男を見て、淡々と答えた。


 「それは・・・どうしてだい?」


 赤いローブに身を包んだ男は少し驚いた表情で言う。


 「分かりません。ただ・・・」


 「ただ?」


 「僕が何か気に触るようなことをしてしまったんだと思います。相手は貴族のご子息でしたから」


 リゼルがそう言うと、赤ローブの男は軽いため息を漏らした。


赤ローブの男はそっと椅子から立ち上がると、リゼルの下へと近づいてくる。

 

「いいかい、リゼルくん。学園で何があったかは私には分からないが、これだけは分かる。今すぐ学園に戻りなさい」


 リゼルの肩に手を置いて赤ローブの男は言った。


 「しかし・・・」


 「あのね、本当に何があったかは分からないけど、普通はそんな簡単に退学になるもんじゃない。それにね、君にもしものことがあれば、君をサーラちゃんとナプンから預かっている私が二人に怒られちゃうんだよ。それに私も君には学園に戻って欲しいと思っている。君には学園でたくさんのことを学んでもらいたいんだよ。私の『魔道』を極めるには知識と心の力が必要だ。知識は勉強をたくさんすることで得られるかもしれないけど、心の力は多くの人と触れ合い、様々な人の心を感じなければいけないんだよ。学園でならこの二つを学生生活の中で学ぶことが出来る。君がこの国へ来てから一ヶ月の間、私は君の人となりを見させてもらった。その結論から言わせてもらうと、君はすごくいい子だ。恐らく君のような子は他にはいないだろう。ま、私の娘たちは別だがね。そんな君に私は是非とも我が『魔道』を教えたい。だけど、それにはさっきも言った知識と心の力が必要になるんだよ。だから―」


 一呼吸置いてリゼルを見ようとした赤ローブの男の前には、リゼルの姿はなかった。


 「はあ・・・全く。どこに行ったのやら」


 リゼルがどこへ行ったのか、おおよその見当はついているとはいえ、大切な友人たちから預かったリゼルの身を心配せずにはいられなかった。


 『魔王』であり、クロノア王国第十五代国王であるロレンス・マーカーは、本日二度目となるため息を吐いた。

 

今度のため息は、深いものだった。





 男子生徒がいなくなったクロノア騎士育成学園騎士学科一年、ラファエルクラスは、重たい空気を保ったまま、一日の授業を全て終えた。


 「あら、リゼルくんはどうしました?」


 逆三角形のメガネを掛けた妙齢の女性教師は、終業のホームルームで点呼を取っているときにそう言った。


クラス中から「彼はリゼルという名前だったのか」といった声が聞こえてきた。


不信な空気を感じ取った女性教師が再度同じ内容を訊ねたが、女性教師の言葉には誰も答えず、クラス中の全員が黙って一人の生徒に視線を向けていた。

 

ラットル。ハート。


 リゼルを追い出した張本人。


 彼は自分の取った行動を思い返して激しく後悔しているところだった。


本来の彼は、階級差など気にしない、気さくな男性として知られていた。

 

貴族は弱き民を守ってこその貴族。


民が貴族に税を払うのは、貴族が自分の領地に住まう民を命を掛けて守るからこそ、民も税を払うのだ。


それを、ラットルは誰に指摘されるでもなく理解していたし、自分の領地で何か問題が起きれば、率先してその問題の矢面に立った。


それなのに、自分はどうして彼にあんなことを言ってしまったんだろう・・・。


頭を抱えてどうしてこんなことになったのかと、問題解決に臨んでいた。


しかし、どう考えてみても答えが思い浮かばない。

 

そんなときだった。


 「おう! 坊主! 元気か!!」


 太陽の日差しを全身で浴びたかのような、褐色の肌の大男がドアを勢いよく開けて教室へと入ってきた。


 いや、開けたのではなく、ぶち破ったと表現した方が正しいかもしれない。


 大男が開けたドアは、原形を留めていなかった。


 クラス中の視線が大男に向けられた。


 そのどれもが、驚きによるものだったが、ただ一人、逆三角形のメガネを掛けた妙齢の女性教師だけは動じた様子なく、淡々としていた。


 「うーん? おい婆さん! 坊主がいねーがどこだ!?」


 「わかりかねます。それと、教室では静かに願います。トゥルナ・ハザード様」


 「そうか、坊主はいねーの。んだよ、久々に稽古でもつけてやろうと思ってたのによ! あーつまんねー。坊主がいねーんじゃ仕方がねーな、また来るわ!」


 そう豪快に言って、男、トゥルナ・ハザードは帰っていった。


 まるで嵐のようである。


 また、ハザードが去ったすぐ後に教室は混乱していた。


 武王を支えし世界の英雄。


 『剣王、トゥルナ・ハザード』

 

世界中にその名を知らぬ者はいぬ程の英雄であり、自分たちが普段使っている教本にも何度も出てくるほどの人物。


そして、傭兵の国、プルヘ国の第七代国王であり、クロノア王国国王ロレンス・マーカーとは無二の親友。

 

 そんな大人物が、リゼルという転校生を訪ねてきたのだ。


 クラス中はこう思った。


 リゼルとは一体何者なのだ・・・と。


ご意見・ご感想などがありましたら是非に!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ