第1章:その名はリゼル
いやー、やっとネットが繋がりましたよ!!
ここまで長かった・・・。
本当に長かった・・・。
それでは、本編をどうぞ!!
この世に神様なんて存在しない。
そんなことは小さな頃からわかっていた。
世界には宗教がいくつもあり、その中にも宗派は多々存在する。
人々は己の力だけでは解決できない大きな出来事に見舞われると、決まって神にすがる。神は人々が思い描く数だけ人々の中に無限に存在する。
だが、神という具体的かつ、個人の危機に対して何か特別な力を行使して救ってくれるという、都合のいいものはこの世の中のどこを探してみても存在しない。
ただ、神という存在は実在しないが、限りなくそれに近い存在はこの世にいた。
その名は『武王』。
彼の存在は文字通りあらゆる、武器・武術を極めた者として知られている。
顔すら知らぬどこかの誰かを救うために武王は世界を転々と移動していく。
人々の中には『武王』の存在を崇めるものと恐れるものが存在した。
前者は、日々を平穏に過ごそうとする善良な者。
後者は人を貶め、人に害をなそうとする者。
『武王』という存在は世界に対し、あまりにも強大な影響力と抑止力を持っていた。
それは世界の歴史を見れば火を見るより明らかであり、『武王』という存在がいるだけで、世界は平穏を保っていたのだ。
小さな諍いは何度も起きていたが、国家間による睨み合いや、会戦といった大きな諍いには発展しなかった。
しかし、神と同等、あるいは、人によっては神以上に神聖視されている彼の存在ですら、万能ではなかった。
『武王』がどこかの誰かを助けているまさにそのとき、違う土地に住まうどこかの誰かが死に絶えている。
これが、この世界、アヴァロンの実情である。
そして、その『武王』ですら、絶対に勝てないものがこの世には存在した。
寿命。
生を全うするために、生きとし生ける者全てが等しく持っているもの。
『武王』もやがて来る、自らの寿命には勝てなかった。
『武王』は自らの寿命が尽きる前に、『武王』が持つ七道を継承することの出来る人物を探す旅に出た。
七道とは『武王』が極めたとされる武術と異能力のことである。
剣道。
弓道。
槍道。
盗道。
魔道。
竜道。
獣道。
これら七つの『道』を総称して 七道と呼ぶ。
『武王』は自らが死んだときが、この世界の動乱の始まりであると確信していた。
しかし、『武王』が旅に出て一年が経った頃、世界各地で『武王』が死んだという噂が流れ出すことになった。
噂は、尾ひれを付けてどこまでも拡大し続け、やがて世界各国が戦争を始めたのである。
その中でも、世界で最初に戦争を始めたのは、当時のゲンドール王率いる、ネビリム帝国であった。
ゲンドール王が真っ先に目を付けたのは、ネビリム帝国近辺にあった小さな集落であった。
その集落の名はナカタカ。
少なく名も無き民族ながらも、比較的大きく、豊富な農業を行える豊かな土地をゲンドール王は見逃さなかった。
他の国々も遅れながらも、ナカタカの有用性に気づき、我先にと争うようにナカタカを襲撃した。
ネビリム帝国は魔術を使った爆発物の投下を主にした戦法を行使してナカタカの大地を日ごとに荒廃させていった。
ゲンドール王は奪うべき土地の荒廃ぶりを見て、声高に笑ったという。
だが、ここでゲンドール王を始めとする多くの国々にとって全く予想もしていなかった出来事が起きた。
所詮は少数民族と侮っていた彼らだったが、ナカタカに住む民族の強さに圧倒されたのだ。
長い時間を平和に過ごしていたことも多少は関係しているだろうが、それを差し引いても、ナカタカに住む民族の強さは、一人一人が一騎当千の強さであった。
老若男女問わず、全ての者が武器を持ち、自らの住まう土地を蹂躙する侵略者に立ち向かったのであった。
ゲンドール王は彼らの強さに慄いたが、なにより一番畏怖したのは『戦人』と呼ばれていた当時十歳である一人の少年の存在だった。
自身の背丈を軽く越えたあらゆる武器を使いこなしたその少年は、仲間たちを指揮して多くの犠牲を払いながらも、見事戦争に勝利したのであった。
五百万の大軍を相手に、たった百人という絶望的な戦力差でもって勝利したのである。
だが、撤退を余儀なくされたゲンドール王たちは、ただ引き下がることはしなかった。
戦う力の無い、赤ん坊、幼い子供、身籠った女性たちが隠れていた集落に火矢を放ち、全
てを燃やし尽くしたのである。
ナカタカに住む名も無き民族は、強大な相手に勝利と引き換えに守るべき人々を失ったのであった。
一方、ナカタカから手を引いたゲンドール王は、敗戦後すぐに、他の国へと侵攻を開始する。
ナカタカに負けたにも関わらず、ネビリム帝国の兵力は他を軽く凌駕していた。
至る所で戦争が勃発した。
戦争が始まり、一年が経つ頃には、世界は七つの勢力に分かたれていた。
圧倒的な兵力差で他国を吸収していった、ネビリム帝国。
騒乱の騒ぎに乗じて多大な資金を集めることに成功した、エマナ国。
多数の優秀な兵を輩出することで有名になった、傭兵国と名高いプルヘ国。
多くが闇に包まれた謎多き魔道国家、ラツエ魔国。
戦争を止めようと奔走する遥か古より続く、クロノア王国。
獣の血を引いていると言われている獣人国、トルシフ共和国。
伝説上の存在であるドラゴンが建国したという、パティドア竜国。
どの国が戦争に勝利するか分からず、人々は日々を怯えて過ごしていた。
だが、人々に希望を持たせる出来事が起きた。
ナカタカで敗戦以来、破竹の勢いで勝利し続けてきたネビリム帝国がたった一日で消滅したのだ。
それも、たった一人の存在の手によって。
その人物は自らのことをこう言った。
『槍王』サーラ・バルノード。
『武王』を支える七王の一人であると。
ここに来てまさか『武王』の名を聞くことになろうとは誰も思っていなかった。
そして、これまで怯える日々が続いていた人々は『武王』の名を聞き、涙を流すのだった。
『武王』の名を耳にした各国の王たちの反応も様々で、武力を持って抵抗の意思を示す国と、安堵の表情で全てを受け入れる国に分かれた。
『魔王』ロレンス・マーカーはクロノア王国を訪れ、国王から降伏と共に感謝の言葉を送られた。
『剣王』トゥルナ・ハザードは傭兵の国、プルヘ国で襲い来る兵たちをまるで稽古をつけているかのように軽くいなして国を落とした。
『弓王』ナプン・フィールは魔道国家ラツエに攻め入り、魔導師たちに詠唱を唱える暇も無く国を射た。
『盗王』ヤジル・ミネロートはエマナ国にある全てを奪い、ただの一人も死者を出すことなく国を盗んだ。
『獣王』ミーヤ・レルドは獣の血を引いていると伝承されたトルシア共和国を、本物の獣たちを率いて蹂躙した。
『竜王』フレルド・モルドは、パティドア竜国に一匹の巨大な黒竜を従えて国に赴いた。伝説上でしか存在し得ない生き物をその目で見た国王を含む全ての民が、フレルドにひれ伏した。
いつまでも続くと思われた世界間戦争は『武王』を支えるという、七王の出現により終結した。
そして、それぞれの『王』たちは、それぞれが攻め入った国をそれぞれが国王として君臨することで再び起こるであろう争いにフタを閉めた。
だが、『弓王』と『槍王』だけは王にはならず、戦争終結を見届けると姿を消したのだった。