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水上の言葉を受け、志乃はテーブルを囲む三人の男たち、とりわけ父と岸馬に向かって、一度深く頭を下げた。
「女の身で差し出口を挟みまして、申し訳ありませんでした。父の不安や憤りは、私を心配しての事。少しでも安心できるような対策を講じたかったのです」
その丁寧な口調と、歳に似合わぬ落ち着き払った態度に、宗一郎も岸馬も返す言葉が見つからない。
志乃は、次に岸馬へと視線を移した。
「そして岸馬さん、改めてこのような事件に巻き込んでしまったことを謝罪させてください。私たち親子を心配してくださったこと、とても感謝しております。ですが、玄洋会に関わらぬよう忠告してくださったその一方で、記者として調べていらっしゃったのではないでしょうか? そのように察したこともあって、このお話に岸馬さんをお誘いする決心がついたのです」
志乃の言葉に、岸馬は口に運びかけていた珈琲茶碗を思わず止めた。
彼の顔から、いつもの皮肉めいた表情が消え、素の驚きが浮かび上がる。隣で聞いていた水上は、面白いものを見るように、興味深げに口の端を上げた。
岸馬はしばらく志乃の顔をまじまじと見つめていたが、やがて観念したように、ふっと息を吐いて煙草の煙を天井に逃がした。
「……まいったな。お嬢ちゃん、あんた一体いくつだ? とんだ観察眼の持ち主だ」
彼は苦笑いを浮かべ、自嘲気味に言った。
それは、志乃の推測が事実であることを認めた何よりの証拠だった。
「あんたの言う通りだ。玄洋会……奴らの名前は、ここ数年、帝都で起こるきな臭い事件の裏で、必ずと言っていいほど囁かれてきた。政界の醜聞、軍の暴走……とてもじゃないが、記事にはできんような話ばかりだ。奴らは、この国の根に巣食う癌だよ。だから、親友のあんたたちを巻き込みたくなかった。だが、記者として、このまま奴らを放置することもできん。ずっと、一人で奴らの尻尾を探ってたのさ」
岸馬の告白によって、最後のピースがはまった。
ここにいる四人は、それぞれの理由と目的は違えど、「玄洋会」という共通の敵を持つ、運命共同体となったのだ。
「では、状況は整理できましたね」と水上が言った。「敵は玄洋会。彼らは既に『鎮めの石』を手にしている。そして、石を鎮める力を持つ志乃さんの存在にも気づいてしまった。彼らにとって、残る目的は二つ。一つは、儀式を執り行うための『力の場所』を特定すること。そしてもう一つは、石を制御するための鍵である、志乃さん自身を確保することです。我々が対抗するには、彼らの目的を阻むしかありません。さて、どう動くべきか」
水上の言葉が、改めて事の重大さを四人に突きつけた。
志乃は、自分がその中心にいるという事実を、不思議なほどの落ち着きで受け止めながら、静かに考えを巡らせ始めた。




