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赤田家と周囲の方々

赤田家の日常サイドストーリー2~田村さんにもいろいろあるけど美味しいパン屋さんを守るんだZ~

作者: あかたさな

※本作は正真正銘のフィクションです。

 出てくるお店や人物、動物、スーパーサラリーマンはすべて架空のもので、どこにもありません。

 やる気と熱意だけで仕事を完璧にこなすなんてほぼ無理です。

 どこかのなにかで「あれ?なんか似てるな〜」と感じたら、

 きっとあなたの思い出の中か、もしくは前世かなんかの遠い日の記憶です。


オレンジベーカリー朝焼けの取締役をしております、田村と申します。


第一和、あの当時は総務部の部長として、財務・経理・人事・広報など多くの業務に携わっていました。

オレンジベーカリー朝焼けを長く守ってきた一人です。

あの男に言わせると、後方支援のスペシャリストだそうです。


いよいよ商大を卒業となる前、イマイチ就職、というのに踏み切れずにいた当時。

とりあえずは地元の会社に就職しようか、と焦りながらいろんな求人に悩んでいたとき、当時、修行の身の小中と同級生で仲の良かった、現代表取締役社長に「うちにこい。仲いいやつがいれば頑張れる」と言われ、決断。

そのままオレンジベーカリー朝焼け一筋で駆け抜けてきた。


時には現社長や現会長の厳しい要求に心が折れかけたこともあった。

不景気で客足が遠のき、思うように売上が伸びず悩み、あがいたこともあった。

そんな長いオレンジベーカリー朝焼けで過ごした月日の中で特に印象に残っていることが2つある。

1つ目だが、今は独立し、小さなパン屋を開き、販売するだけでなくおいしいパンの焼き方教室を営んでいる青井くんの異動時だった。

珍しく語気を強くし語る現社長の姿と、なんとも言い難い、強いて言えばマイペースと言えばいいのか、不思議な物言いをする青井くんの言葉。


「今、何か新しいことに挑戦しないと、後退の道を辿るかもしれない。ここ数年、確かに安定した業績を残してはいる。だが、そもそも景気がいいだけだ。これでまた個人の消費が落ちた時、我々には成すすべが少ない。

新商品の開発を行い、既存ユーザー以外に新しい客層を掴まなければいけない、私はそう考えている」

その言葉に続いたのが「4号店の青井を中心に商品開発の新チームを作る」だった。


しかし指名された青井くんの方はというと「いや、妖精や天使の聖域からは出れないので」やら「別の指名がずっと入ってるので」と全くと言っていいほど、乗り気ではなかった。

どうにかこうにか本人には納得してもらったが、頑なに「親商品はメロンパンでないと」長い事その話で揉めていた。

職人という技術を持つ人はやはりクセ、というよりも確固たる信念、個人の意思を持っているのだろう、とそんなことを思った。


結果的に青井くんの開発部異動は大正解だった。

異動して最初の数週間で作った「いや、カレーも好きなんで」というなんともシンプルな理由のカレーパンが大ヒット。今でもメロンパン、食パンにも次ぐ人気商品だ。

ほかにも「小麦粉だしウドン作りたい、否!!U丼!」と、あの時ばかりは本当に意味がわからなかった。

本当に不安になった。正直、当時はこんなので大丈夫なのか、と転職?と頭にちらついた。

しかし、こだわりのサラダをふんだんに使ったそのU丼も女性に大ヒット。

新たな客層を見事に発掘させた。


そして、印象に強く残っていることの2つ目。

メロンパンへの思いが異常な天使の存在。

社長が「青井くんが採用してくれ、開発部にくれ、ってうるさいからこの子採用でね。一応、いつもの共通の学力の確認と面接はお願いね。最悪、つかえなきゃ、ね。わかるでしょ?」と言うから行った面接。

終始、メロンパンの話。口を開けばメロンパンの話。ほっこりエピソードなのに結局メロンパンの話。

正直、当時はこんな子雇って大丈夫なのか、と心配をした。


入社後は各店舗への体験を行い、本社でのパンや機器についての教育。

それが終わり開発部と配属された後、黙々とメロンパンだけを作り続ける彼女に、私はずっと心配していた。

あの社長はやるときはやる。長い付き合いだからこそ分かる。

当時は、せっかくの縁で入社してくれた彼女に「解雇」を通告するのも私の役目でもあった。

素直で可愛い子、空気がなんだか綺麗になったと錯覚する、と社内でも、どの店舗でも人気のある彼女を「解雇」、当時は考えるだけで恐ろしかった。


が、それも杞憂に終わった。

彼女は作り上げた「究極のメロンパン」を。

今では呼び名は「魔法のメロンパン」に。


なぜ、こんなことを急に思い出したかというと、目の前の男性が原因だと言える。

「赤田 沙奈」が入社して10年にもなり、社会は大きく変革した。

社会的にはパン屋のパンなどわざわざ買う消費者が激変してきている。

なぜならば、各メーカーが販売するAIによる全自動のホームベーカリーが本格的に広まったのだ。

美味しいパン、好みのパンを学習させるとレシピが作られ、必要な材料が通知される。

その材料を入れて、ボタンを押すだけ。ただ、それだけで終わり。ユーザー好みのパンの出来上がり。


パンという食品のあり方は大きく変わった。

同時に社会も大きく変わった。

「AIを使う」という立場から、「AIに使われる」という立場に変わったように思う。

我々の会社が試行錯誤の末、完成させた素晴らしい一品も「AI」からすれば、もはや学習材料なのだ。

しかしそんな現代でもオレンジベーカリー朝焼けは昔と変わらず、人気を維持している。


「では、阪賀ばんか れいさん。好きなパンを教えて下さい」

あの時、彼女を面接し、採用してからは、この質問を必ずしてきた。

好きなパンがある芯の強い者しか辿り着けない「何か」があるようだから。


「はい。昔は御社のカレーパンでした。当時はスパイスが効いた辛めの初代カレーパンでしたが、これを美味しく食べている、というのがなんだか大人ぶった、そんな風に思っていました。

ですが、今は『究極のメロンパン』です。一口で虜になりました。ほかのメロンパンではもう何も感じられない、と言いますとかなり過ぎた表現ですが、それくらい好きです」


これが正に究極のメロンパンによる、魔法。

わたしもそう思います、と面接相手の彼に伝えた。


たまにクセは少々、真面目を適量、そんな調味料の使い方したくもなる。そう語るのは「あかたさ」赤田家の作者である。

田村さんはオレンジベーカリー朝焼けの生き証人です。彼がいたから今がある。同級生の仲良しに二代目がいたから人生の厚みが増した。

青井がいたから白髪が増えた。沙奈がいたから体重が増えた。


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