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第97話 あぶりだしと襲撃

「国王殿下の御成り、皆の者頭を垂れよ!」


玉座にかける国王。貴族たちは一斉に膝をついてひれ伏した。

顔を上げることは不敬であり皆の視線は床の大理石へと向けられる。


玉座の遥か後ろ。


豪奢などん帳の裏側から居並ぶ貴族たちを視ているのは、幕間の暗闇と同じく黒づくめの男女。

輝く瞳を悟られぬようにサングラスを着用しており、顔にも黒い布がかけられている。

黒子のようなその存在。

キルリスとキャサリンである。

警護要員としての立場であるが、その実は怪しい潜入者を内偵している。


ガイゼル総司令官から状況を報告された国王が一計を案じたのだ。

敵をあぶりだすために。

味方を確認するために。


日付をまたがせず国王は一斉に政令を発布する。


魔導師団に全権を与えた査察を実施する。

一切の拒否や妨害は国王の名によって禁止する。

全ての機関には全面的な協力を義務づけ、反するものは王命により排除される。


これは全ての機関において魔導士団を顔パスにする勅命を発布したのだ。

対象は王宮のあらゆる省庁だけではない。

文官だけにとどまらず軍部、つまりは王国軍さらに魔導士団自身も含まれる。



国王の演説が行われている今この瞬間にも二人は居並ぶ王宮貴族たちの全てのステイタスを記録しているのだ。その後は別室に控えている従者から付き添いのメイド、馬車の行者までチェックが続く。


「東で使うようなスキルを持つものは何人かいたが・・・常識的なレベルだ。念のため身元の確認はさせる。目立つ位置に立つ貴族や役人ではなく、その側近や腹心といった存在があやしいのだろう」


キルリスとガイゼルの打ち合わせにキャサリンも同席する。

さすが潜入に特化した東の帝国だ。

尻尾は簡単に見せないらしい。

「一休みしたら王国軍も確認させてもらう。キャサリンの方でも異常はなかったか?」


キャサリンにチェックさせた魔導士団は自分の部下達だがキルリスは感傷を顔に出しはない。


東の帝国がまっさきに潜入したいのは魔法師団だろうと検討がついている。

西の王国が他国を圧倒している魔法戦術の運用機関であり、危険をおかしてまで使い魔を送り込むほど注目しているベッシリーニ親子が師団長と研究所長だ。

そしてどうやら予想は当たったようだ。

自分の娘が取り繕うよう平気な表情を顔に張り付けたのだから。


キャサリンの脳裏に浮かぶのは秘書ガルシアと研究主任のバスク。

異常と呼べるのはあの二人だけだった。


一瞬の逡巡のあと・・・


「キルリス師団長。報告させていただきます」


自分がなにか間違ったに違いない。

父が確認して問題なければそれまでのことで笑い話ですむ。



側近二人に問題がある可能性を伝え二人を含めた魔導士団のステイタスを渡す。

キャサリンの測定が間違っていなければ、二人のステイタスは大教会の宝玉で確認しても結果には出ないだろう。


魔眼の深度を高めれば誰であれ偽ることはできない。

その代りに至近距離から時間をかけて探ることになるため、相手にはあからさまに『何かある』と受け取られてしまう。

キャサリンにはそこまで求められていない。悟られない範囲内までなのはキルリスの指示だ。

師団長であればポーカー・フェイスでなんとでも調査してしまうが、若いキャサリンが情にほだされて突然襲われたら対処できるのか危ぶんだのだ。


「わかった。師団は私の方でも念入りに調査するからキャサリンはこれ以上は深入りしなくてよい。結果が出るまで要注意の二人との業務は必ず第三者も含めること」


今日やるべきチェックを親子が終えるとすでに夕方になっていた。

キルリスはキャサリンには先に帰るよう指示を出して研究所に向かっていく。

娘にせまる危険を一刻も放置する気はないらしい。


ひとりで馬車に乗りいつもの帰路を通る。

王宮の壁沿いが長く続く道を抜けて、川沿いに水門の傍を抜けて。


{あぶないわよ}

囁くように聞こえる精霊の声。

予想していたかのように胸元の魔石に触れると魔力を巡回させる。


<魔力障壁>

<物理結界>


とっさに馬車の周囲に対魔法と対物理の障壁をはった瞬間に


ガインッ!ガインッ!


強い衝撃が馬車の全面に張った防壁へとたたきつけられた。


王都の王宮から貴族街へと進む幹線路だ。

人通りがあっても容赦なしなのだから敵に焦りがみえた。


「きゃああああああ!!」


道行くご婦人たちが大きな衝撃音に気付いて悲鳴が響いた。


キャサリンは止まった馬車の扉を半開きで盾にして次の襲撃にそなえる。

扉の前方に異常がないことを確認すると、身を低くしたままスルリと馬車から抜けだした。

胸元から愛用のロットを取り出し敵の急襲に備えながら周囲をさぐる。


馬車から少し離れたところに魔法障壁が弾いた矢が2本。

拾い上げると随分と重みがあり頑丈なものだ。

本格的な弓兵部隊が使う戦闘向けのもの。


念のため手袋をしてから矢を拾い上げ布で包んで保管する。

遠くから警らの兵士が走って来ているので渡してしまおう。


「ご無事ですか!?」

二人の若い兵士は汗だくになりながらキャサリンに敬礼する。


「ボクなんか狙ってどうするんだろうね?研究しか能がないのに」

「そんなことはありません!研究所の魔道具にはわれわれも日々恩恵を賜っています!!」


上司の謙遜にまじめに返すところがまだ若い。

キャサリンからすると面倒をみたくなるめんこいタイプだ。


「そういってくれると嬉しいよ。この矢の出自を確認するよう鑑識にお願いしておいて」


二人に手を上げて周囲を見渡すともう薄暗い。

敵も闇にまぎれこんだろう。


「ついにボクも狙われる立場になっちゃったかあ。しょうがないよね旦那が旦那だし」


肩をすくめて馬車に乗り込むキャサリンに動揺はみえない。


ずっと前から覚悟はできている。

ユーリと一緒になると決めたときから。


こんなことは何でもないことだ。


100話に向けて猪突猛進!

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