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第96話 神の御使いと

「やられたなぁ」


暗闇の中。

宙に浮く自分の胸を見るとポッカリと穴が開いている。


ユーリは神の御使いであるナビゲーターへと問いかける。


「あれからどれくらい経ったんだ?」


『人間の時間で1か月くらいです。正確に知りますか?』


「・・・いやいい。それで俺って生きてんの?それとも死んだか?」


『死にかけたというところでしょう。生物的には生存していますが魔法使いとしては生死の境というところです』


「何があったんだ?こんな風にコテンパンにされたのはお前にナビゲートされてから初めてだ。別に責めるとかじゃねえよ単に何があったか知りたいって話だ」


俺の魔力体が下半身と上半身をひっつかまれて無理やりに引きちぎられたと感じるほどの衝撃。

これほどのことが起こりそうなら先生から何か忠告がありそうなものだった。


『あなたの魔力体を二つに分断する形で亞空間が発生しました。ちぎられた半身はそのまま異次元に飲み込まれ消失しています。その際体中の魔力回路が粉砕されており現在も魔力巡回はできません。アナタが東と呼んでいる人間の祭壇式大規模魔術で数千分の一秒の偶然が生み出したものと推測されます』


「偶然?偶然・・・そうなのか?」


『少なくとも人間が狙って放てるタイミングではありません。ありうるのは神と呼ばれるレベルに達している者だけですが・・・』

少しだけ語尾を濁したがユーリは気に留めなかった。

自分の判断でやったことだ。悪いのは油断のあった自分だ。

それに相手にやられたワケではない。神さまのやることなんて自分ではどうしようもない。


「つまりは偶然って考えるしかないってことなんだろう?みんなはどうなってんだ?俺は?敵に捕まって転がされてるとか野ざらしで朽ち果てかけてるとか?」


『あなた以外は人間の男がカスリ傷程度で問題ありません。あなたはベッシリーニ邸のベットで治療中です』


キルリスが頑張ってくれたらしい。

あれでも世界レベルの魔導士だ、たかだか使い魔なんかにやられるわけはない。

キャサリンもマーサさんも無事ならそれでいい。

あとは俺だけか。


「俺ってどうなんの?このまま寝たきりか?それとも治るのか?」


『ある程度まで魔力回路が回復すればあとは自分で治癒可能です。いく体かの高位個体が協力して修復にあたっていますがこのままでは魔力を戻すことはできないでしょう。魔法を除けば人間として生きるには問題なくノーマルの状態に戻ります』


まわりは無事。俺も死にはしない。

魔法は使えなくてもそれはそれでいいのじゃないか?

俺は殺されずにナメられずに俺が思うように生きられればよかったはずだ。

原点に戻るだけだ。


「それならそれでいいのか。魔法がつかえないなら商人になるかそれとも剣術でも磨くか?そういうのは大丈夫なんだろう?」


『それは大丈夫ですが問題は発生しますよ?』


最近にしてはめずらしい。

ナビゲータ先生がツラリと教えてくれることは大抵が重要だ。


「大きな問題?やばいヤツか?」


『そうですね。あなたの言い方をするならかなりヤバイでしょう。簡単に言うとあなたのこれまでの人生が改編される可能性があります』


久しぶりだ。この感覚。


コイツが何を言ってるのかわかんねえ。


「またそういう難しい言い方するな。簡単に言えよ俺は死ぬのか?」


『死にません。あなたの人生のどこかへ巻き戻るだけです』


久しぶりにわけわかんねーな、巻いて戻るのか?なんじゃそりゃ。

人生が?巻いて?戻る?って。

はあ?

これ意味わかるヤツいるのかよ。


先生から教わる大抵のことは『後になったらわかる』けど。

最初に聞いてるときはコイツはバカなんじゃねえか?としか思えねえんだよなあ。

俺がそう思ってることなんてバレバレだからまたこいつがツンケンしやがるのがいつものことなんだけど。

今日はそのまま淡々と話しが続く。


『魔法力が回復しなければ現在のあなたが"魔導士としての全盛期"となります。現時点で"力の顕現"がない素のあなたが使えない魔法は今後も使えませんし過去でも使えません」


力の権限の条件のことを言っているのだと思う。

全盛期の俺の力を先に使えるようにすること。

子供の俺がくだらねえ大人に殺されないように。


だけど今のっておかしくなかったか?

過去でも使えません、ってもう使っちまった後じゃねえかよ。


『これまであなたが使用した魔法の中に現在使えない魔法が含まれていれば、その時点まで人生が巻き戻ります』


「・・・どこまで戻るんだ?ってかいい加減に戻るってなんなんだ」


そこが大事な感じなんだけど。

言っている意味がわかんねえ、もっとわかりやすく教えてくれ。


『あなたの現在のレベルは185、人族最高のレベルの2倍ありますから今の時点でも十分にオーバー・スペックです。そして最初に"力の顕現"を使用したのはあなたが教会でレベルを測った時。この際に使用したのは魔力操作のみで現在も可能ですから問題ありません』


「そうだったな。そんな前までの話になんのか?」


わからないってのはひとまず置いといて。

どうやらナビゲーター先生も本気で教えてくれるようだ。

理屈とかじゃなくて現実で教えてくれはじめた。

なにが問題ないのかはまだわからないけど。


『そうです。その次はこの場所で魔法使い親子との戦闘になった時。レーザー・ショットを放っていますが、これは現在は"力の顕現"を発動しなければ使用できません。その際に男を殴り飛ばした力は身体強化で今も可能です』


さっそくひっかかったようだ。

今の俺では力の権限なしではレーザー・ショットを撃つことはできない。

もう少しって感じなんだけど。

それが問題なのかよ?


「戻るっていい加減なんだよ。どうなるんだっての教えてくれよ」


『戻るとは限りません。今のあなたの魔法で代用して結果が変わらないのであれば、歴史の補正能力でそのまま経過します。結果が変わるようならその時点へ戻ります。戻るとは言葉通りその時点からあなたの人生が再び始まる。戻る時点から今現在までの期間に過ごしてきたあなたの人生はこの世界から消えてなくなります』


人生が消えて無くなる?


魔力回路が回復しなければ今が俺の最盛期だ。素の俺はレーザー・ショットを撃てない。

だからあのキルリスと初めて会った戦闘では、レーザー・ショットが撃てないことになる。

あの時の俺は、今の俺が使える魔法の中でヤリクリするしかない。

だからあの時まで戻ってやり直せということなのか?


「それはやり直しができるってことでいいのか?でもそうなったら俺は今の自分を憶えてるのか?」


『憶えていませんよ。そして魔法に関しての"力の顕現"は今のあなたが上限レベルになります』


言ってることはわかってきたけど。

消えて無くなるってのがどうもイヤな感じだ。


「やり直した方がうまくいって今みたいな目に合わないなんて。あり得るのか?」

イヤな感じの方へと話がズンズン進んでいくからわざと話を茶化してみる。


『あり得ます。この状況を知らないあなたが大人しくできるならば』


短い答え。

もちろん感情なんて先生は込めてない。

事実だけを教えてくれている。判断するのは俺なのだろう。


俺は俺だ。

同じことが起こったってやはり俺は同じように動くに違いない。

利用される気なんてない。殺されるなんてまっぴらだ。

だから俺は同じように動く。

前世から俺の魂に焼き付けられている呪いみたいなものだ。


「なんとなくはわかったよ。そうなったら俺はキャサリンと一緒にいられるかわからないだろうな」


キャサリンに何かあるくらいならその方がいい。

よぎったのはそのことだけだった。


『それもあなたの人生です。あなたは巻き戻った記憶がなく<力の権限>の魔法上限が下がっています。記憶がないので危険を回避するという意識があなたにはありません。力があっても失敗したあなたがレベルの下がった状態で対応することになります。うまく乗り越えられる可能性は下がります』


「さっさと死んじまうかもしれない、ってことか?」


『そうならないように私がいます。それでも人間関係やこれまでの縁といったものは全てが変わります。今のあなたの婚約者との関係も変わる可能性が高いといえるでしょう。縁というのは生ものでタイミングがズレると簡単にすれ違いますから』


キャサリンと一緒に過ごすはずの人生が無かったことになる?

知り合ってきた人たちと出会わなくなる?

そういうことなのか?


「ってことは?俺の中でのイメージではだけどよ?巻き戻されるたびに俺が劣化してロクでもない人生を送ることで合ってるか?」


『それは、"今のあなたからすれば"そう感じるでしょうが、巻き戻された時点で記憶はありませんから。何度も巻き返された最後に、今から比べられば指先程の力しかない。それでも普通の人間の何倍もの能力を神から与えられているあなたですから、周囲に頼りにされて一市民として一生懸命に幸せに生きていく。そんな未来もあるかもしれません』


その場所にはきっとキャサリンはいないんだ。



「でもなあ。俺は死ぬまで、いや死んでもキャサリンと一緒にいるって誓ったからなあ」


『知りませんよそんなこと。しかしそれが望みならばあなたはやるべきことがあるのでは?』



久しぶりのユーリさん登場です

あと少しで100話に届きそう。キリ番までに戻ってくれて安心したよホントにもう



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