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第94話 東の戦略と諜報員の葛藤

「おまえらはベッシリーニ邸の敷地内に入ることは禁止だ。任務は邸宅の周囲の警備と警戒のみ、うかつに入ると首が飛ぶぞ」

ジンは一緒にきた軍人たちの前で首にトントンと手を当て指示を出す。


「軍人としての立場ではなく物理的に胴体と首がお別れすることになるから肝に銘じてくれ」

「はっ!!」


ガイゼル総司令官からの緊急指令は速やかに実行に移された。

小隊が編成され現地に向かう。

隊長は副総司令官のジン、隊員も各部隊からの選りすぐった精鋭たち。

警護においてはトップクラスの要人の護衛だ。


その隊員のひとりがうっそりと顔をあげる。



さて、どうしたものか。


もう10年もの間まじめな兵士として西の王国で軍人を演じてきた。

ガイゼル総司令官にも何度かお目通りできたし、ジン副指令とは一緒に酒を飲みにいく仲にまでなった。


すべては東の帝国のために。


鍛え抜かれて統率のとれた軍事力で東を威圧する北の大国。


ひとりひとりが体格や身体能力に優れ、大柄で戦闘意欲の高く各個人が高い戦闘力を持つ南の大国。


東から最も遠く、近代的な軍事戦略と高度な魔法戦術を組み合わせて世界最強国家と呼び声高い西の王国。


そんな他の3大国からは軍事力で最弱の後進国家と扱われるわが祖国。


技術面では西の王国に劣り、軍事戦略や統率力では北の大国に劣り、個々人の持つ武力では南はおろか北にも西にも劣る。


古くから東の帝国はその天然の地形に守られてきた歴史がある。

北の大国との国境線には天まで届く山脈が横たわり、南の大陸との間には巨大な砂漠がゆくものを遮る。西の帝国からは距離がある上に魑魅魍魎が巣食う大森林が縦断している。

東の帝国は閉鎖された領土で独自の発展を遂げたため他国から関心を寄せられることもなく、不気味な蛮族の住む場所だと蔑まれた。

それが幸いしたのだ。


50年ほど昔に賢帝と呼ばれた東の皇帝が国中に出したお触れ。

今しかない。

誰にも侵されない力を付けて国を強くしなければならない。

他の大国は領土争いが落ち着けば必ず東へと目を向けるのだから。


軍事に国力を浪費しなかったからこそ発展してきた国家。

軍事に力をいれた歴史ある大国たちに正面からぶつかれば、数日と経たず占領され属国にされてしまうだろう。

他国はすぐに東の肥沃な大地と豊富な天然資源に気付き、他国よりずいぶんとレベルの高い独自の技術目を付ける。そして侵略を開始するに違いない。



油断をするな、たえず敵を観察し見据えろ!

敵の情報を見過ごすな、相手の出方を絶えず探れ!敵の喉元を己の牙で捉えよ!!

正面から敵わぬなら、後ろから、闇の中からでもその刃を敵に突き刺せばよい!

技を磨け、技術を、魔法を、我らが持つ技術を世界中から恐れられ手出しができなくなる域まで高めるのだ!


全ての臣民から賢帝とたたえられた皇帝は対外路線の基礎をきずいた。

諸外国からは暗黒帝、闇帝と恐れられた人物。


闇魔法の研究と育成に力を入れ、剣と攻撃魔法で闘う軍隊では想像もしない戦い方を徹底的に戦略へと組みこんだ。

暗殺技術を磨く暗殺技術、暗器とそれにまつわる器具の研究、使用法、密偵や隠密等の魔法技術との組み合わせ。他国が表立って手をつけないことを堂々と国家プロジェクトに組み込んだ。

他の大国が正面からのぶつかり合いで戦を行う間に敵国に間者が潜入し国家秩序を混乱させる。まるで敵国の大貴族か高級官僚なみの情報を手に入れ、敵を内部から壊滅させる戦略に組み込んだ。


今となっては各国の王宮、軍部、貴族たちにも諜報員達が潜んでいる。古いものでは10年以上の潜入。

まるでその国の国民として、貴族につながる商人として、軍人として。いつか起こる祖国の危機を救うために今も続いている。敵国の情報を定期的に諜報部へと流し、いざという際の作戦行動に備える。



今回ジンと同行を許されベッシリーニ家の警護の一人も、そんな「東の隠れエージェント」だ。


暗号通信で受けた最優先調査事項はキルリス・ベッシリーニとユーリ・エストラント二名に関する噂の真相調査、能力や行動の把握。

ユーリ・エストラントは王国軍最強のガイゼル総司令官と御前試合で闘った西のホープ。自分もその試合を観察することができた。


ガイゼル総司令官はバケモノだ、部下として見てきた自分は十分にわかっている。剣技も作戦司令官としての能力もこの世界では飛びぬけている。

その戦闘を自分で確認できたからわかる。個人戦闘においてはユーリ・エストラントも十分にバケモノだ。たとえガイゼルが手を抜いてワザと敗北したように見せたとしても、それだけ迫真に迫った戦闘ができる力があるということだ。

普段の練兵でガイゼルに10秒でも打ち合えたのなら、世界のトップ・ランカーに間違いないのだから。


末恐ろしい少年だ。

この王国の貴族すら理解できているものが少ない。わかっているのは西の王族とその取巻き連中、そして『他国の英雄達と比較できるだけの情報を持つ』東の帝国だけだ。



「副司令官、われらの警護対象を教えていただいても?」


上官であるジンに部下として当然の情報を要求する。

別に警護する側が対象の確認をすることはおかしいことではない。

誰を、何を、対象とするかで危険度もことなれば警備する方法も変わるのだから。


「邸宅内にいる人物の警護だ。想定されるのはこの邸宅を襲うあらゆる手段になる。魔法、使い魔、暗殺者及び武力闘争もだ。情報を探られる可能性があるから注意してくれ」



日も高くなってきたというのに、キルリス邸の各部屋には厚いカーテンがかかっており中は伺いしれない。敵に狙われている場合の籠城戦では内部を極力知られないようにするのが当然だが。

しかしそこでふとした疑問が生じる。


これは籠城戦なのか?


なぜそこまでしなければならない。

この家族をS級2名A級2名のパーティと考える。その後ろ盾に王国軍の小隊もついている。


なにを隠している?


エージェントの勘がうずく。

何かがおかしい。


普通に考えればあり得なくない状況だ。

二人を戦闘に慣れていない女性と子供と捉えるならば。怯えて震えて泣いているかもしれない。

だが軍事作戦に何度も同行している魔導研究所長と、ガイゼル総司令官と手合わせできる魔導士だぞ?


思考をめぐらせる彼の前で重々しく閉じられたカーテンが偶然開く可能性は低い。


それから1週間が過ぎた。


ベッシリーニ邸に大きな動きはない。

日々ベッシリーニ夫妻が入れ替わり立ち代わり外出しては戻るの繰返し。

本来キルリス・ベッシリーニは魔導士団と魔法学院の掛け持ちであり、夜も帰ってこれない激務だろう。しかし偵察をはじめてこれまでは外出しても数時間で戻って来る。最近はキャサリン嬢を連れ立っての外出もするようになった。


奥方も同じ。こまめに外出するが師団長キルリスとは入れ違いで動いている模様。

時折庭に出てきて従魔と話をしている。

ユーリ・エストラントの姿は一向に見ることはない。



今日も俺は状況を東の帝国の諜報部へと報告をいれる。

彼らに個人的なうらみつらみはないが関係ない。


これが潜入者である俺の役割だからだ。



説明回をはずしたり圧縮したりで最低限になるよう縮めながらすすめてます。

もう少しで抜けます。

第二部は大まかに『東の帝国』編なので出だし手間取ってしまいました。サッサカ進めたいので久しぶりに土曜更新です。


明日は定期更新日ですのでもちろん更新です。

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