第9話 譲らない
『それで?昨日の続きを始めてもいいですか?』
ナビゲーターの声が頭の中に聞こえると目の前にガラスのようなボードが現れる。
初めて見たときはビックリしたけども、もうすっかりいつもの風景になった。
俺の能力がいろいろと書いてある白銀に輝く幻影。
ステイタス・ボードが表示れされる。
「ぼちぼち作戦決めないとな」
ステータスボードは自分の能力が書いてある情報の束だ。
体力や魔力の基本的な能力と、自分の使える魔法属性レベル、使える魔法。
俺のステイタスは属性では火、風、土、水、の基本の4属性のほかに、雷、氷、光、闇まであって、オールレベル3になっている。
人間としての最高レベルは99らしいから、まだ全然お話にならないレベル。
指先にライターのような火をつけて、そよ風が流れる。土ボコが盛り上がり、コップに水を少しためる。
それができるから何だという哀しくなってくるささやかな力。
俺を本気で殺そうとしてきた大人に対してなら、殺される直前にちょっとイヤがらせしてやれる程度。
『そうではないと何度言えばわかりますか?バカなんですか?』
頭の中で響く無機質な声が、ここに生まれる前に遭ったジイサンが言っていた案内役「ナビゲーター」
困りごと相談相手であってるはずだ。俺は勝手にそう思っている。
この世界の常識も、自然の摂理も、前の世界で俺が死ななければ知ったハズのこと。なんでも知っているし教えてくれる。ナビゲーターってなんだ?って思ってたけどそういうものらしい。
最初はこいつが言っていることがチンプンカンプンだったけれど、少しづつわかるようになってきた。
ナビゲータの声に最初に気付いた頃は5年前。物心ついたころだ。
コイツから声をかけられた瞬間。
前に生きていた記憶と、公園でじいさんと話したことを思い出した。
それ以前の記憶はボンヤリとしてよく憶えてないから、コイツは俺が「もの心ついた瞬間」を待っていてくれたんだと思う。
いきなり何でも聞いてくれと頼まれたけど、俺はフラッシュバックした前世の死んだ瞬間に頭を支配されて混乱していて、死なずに済むにはどうしたらいいか聞いたんだ。
貴族の息子だからすぐ死ぬような危ない目にあうわけじゃない。腹が減って死にそうだったわけでもない。
それでも俺の口をついて出た言葉だし今でも心の奥底にある。
俺の体も心も、もう誰にも殺させない。
それから5年くらい経って、いつの間にか口の悪い教育係みたいなコイツが俺の日々にアレコレ口を出すようになって現在にいたる。
『この世界の常識ではレベル1であっても属性アリとみなされます。すべての魔法属性を持つ子供は通常に存在しません』
「でもレベル3なんて何もできねーじゃん」
今できる魔法を考えると何ともお粗末極まりない。
もっとこう、相手を火の玉で攻撃したり、水刃が相手を切り裂いたり、雷を打ち込んだり、そんな感じかと思っていたのにダマされた。
言い返した瞬間に、はあっと疲れたため息のような擬音が聞こえたような。
コイツ、このナビゲーターと話すとよくあることだ。
呆れた感情が俺に直接伝わってくる。
自動音声みたいなしゃべり方のくせに「あなたにはほとほと呆れた」ガッカリ感だけはハッキリ伝えてくる厭味ったらしい。こいつは俺が小さい頃はもっと丁寧にしゃべっていたはずなのにいつの間にか口が悪くなった。
『特殊元素は適性のある基本元素レベルを超一流魔法使いになるレベルで修行したうえで初めて使えるようになります。なんの修行もしていない子供に存在するはずがありません』
聞けばきくほど、なんでこうなっているか不明なんだが?
あのじいさんの言っていた「転生ボーナス」ってやつか?
今の俺は他人から見るとものすごく魔法適性がある子供らしい。
そのくせ今の俺に使える魔法はショボくて自分の身を守ることさえできない。
「まだ目立ちたくない。だけど何もできない使えないヤツみたいにナメられるのはダメだ。どうすりゃいいんだ?」
今の俺は力のある奴らにとって絶好のカモだ。
まだ小さくて世間知らずでダマしやすい将来性の塊。
この魔法全盛の世界で、間違いなく世界トップクラスらしい適性付き。
細かいことはわかんねえ、何をどうされるかもわかってない。でもクズなヤツラが考えそうなことはわかる。
確実に金のなる木。囲わないバカはいない。
下らない奴らにダマされてしゃぶりつくされる自分が見える。
悪どいヤツラはいつもキョロキョロと目端が利く。
善人に擬態して微笑みながらターゲットの急所を握ってシャブリつくす。
使えなくなるまで用済みになるまで。
残るのは空っぽのガラクタだけだ。
『それでは魔力検査で目立ち過ぎないくらいのよい結果を出すというのはいかがですか?そして魔法学院へ入学するのです』
え?学校?
ポカンだ。何言ってるんだコイツ。
無理だろ俺には。
前世でも学校という場所には行っていたけど。
くだんねえ奴らしかいないメシ場なだけ。
間違っても自分から行く場所じゃない。
『少しづつ段階を踏んで。年齢と評価に合わせて着実に実績を積み重ねることで周囲に認めさせてしまえばいい。時間をかけて将来の方向性を自分でコントロールできるよう力と実績を周りに認めさせてみては?』
俺が「こういう力を持っている」ことを小出しにしながら認めさせるってことか。
利用されないように周りに気を配りながら、目立ち過ぎないように力をつけながら。
悪人が気付いたころには誰も俺を利用できない存在になってみせるわけだ。
「いい考えに聞こえるけど一つ忘れてる。魔力検査はどうすんだよ」
魔力検査は教会の水晶に手をつくことで機械的に判断される。
自分で結果を換えられるものじゃない。
そして今の能力がバレたら。カモがネギしょってるのがバレたら。
どうなるんだ?
『そこは自分でどうにかしましょう』
何を簡単なことを。と言いたげにため息をつかれた。
今作のアップと同時更新「異世界ロボット珍道中」にユーリさんとナビゲーターさんが(第13話 戦いはすでに始まっている)
随分と先の時間の彼ですが、仲間を守るために闘っています。立派になってもう