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第83話 フローラ会長に報告

「しかしキミは誰に頼んでもココに来てくれないな。そこまで嫌われることをした記憶はないつもりだけど」


魔法学院の生徒会室。

当然のように他の生徒たちは授業中だ。


学院で各学年にたったひとりの首席に対して与えられる特権を持つ二人。

生徒会長フローラ・タペストリーと副生徒会長ユーリ・エストラントが久しぶりに顔を合わせて雑談を交わしている。


「ハハハいろいろとありまして」

説明できないことばかりの俺は乾いた笑いでごまかすしかない。

もちろん尊敬するフローラ会長が俺なんかにごまかされるハズがないというのも重々承知してる。

これは負け戦ってヤツだな、ハハハ・・・


「噂だけはいろいろと聞いているさ。王国軍の御前試合でガイゼル総司令官に勝って王国最強の魔導士になったとか」


「え?そういうこともありましたね、俺なんかが王国最強の魔導士かどうかは別ですけど。総司令官も調子の悪い日とかあるんじゃないかな?ラッキー?みたいな?」


「ほう。10年間無敗の総司令に土をつけておいてそう言うのであればそれもいいだろう。他にも王族を東の暗殺者の魔の手から救って王家秘蔵のエルフの短剣を下賜されたとか」


「王族?暗殺者?そんなの本当だったら口外できないですよきっと。どこかの怪しい吟遊詩人が創作したサーガに違いありませんねそれ。たまたま短剣を下賜していただいたことはあったような?」

相手が東かどうかはハッキリしていないから。秘蔵?ジャジャ馬で貰い先がなかったからずっと宝物庫で怖がられていたとかじゃないですか?


「王国への大きな貢献がなければ下賜なんてあり得ないということはわかっているか?あとは神の御業と呼ばれる新魔法を開発して世界中の魔法機関がキミを引き抜こうと狙っているとか」


「神の御業は神様にしか使えませんよ、俺のことなんだと思ってるんですか?引き抜きなんてめっそうもない」


新魔法を開発とは反呪の魔法のことだろうな。この世界の人間から見たら新しく作ったのと同じに見えるかも。でも力の顕現と反則ロットを使って初めて成立する魔法だから作ったというよりは力技?ゴリ押し?

そして反呪の魔法のせいで、確かに一部から大人気で狙われてるけどな、主に暗殺者たちにね!


「王妃立ち合いの元でベッシリーニ教授と婚約の儀を大聖堂で行ったら神が祝福に舞い降りたとか」

「それは事実で間違いないヤツです。キャサリンの美しさでその場にいた人全員の心が浄化されましたから」

あの時のキャサリンの美しさは神の祝福と呼ぶしかない。キラキラと輝いて美しくて。もうこんな人と婚約していいのか自分のホホを何度もひねったものだ。


「キミが開発した軽食が全国の祭りで大ヒットしてガリクソン社と大儲けしているとか。他にも噂はあるようだけれど、ある程度真実味がある話だけでもこんなにあったよ」

「俺も意見を出した軽食は絶賛売り出し中ですけど儲けはガリクソン行きですよ。相談役として契約してるのでお給料という名目のお駄賃はもらってますけど」


あー多い。


どれも大げさになってるけどチョッピリ真実がひっついてるのがやっかいだ。


軽食は以前にサブローさんと話したヤツを進化させた食べ物のこと。いまはガリクソン社で絶賛売り出し中。

柔らかいパンズにサラダ菜と輪切りにしたトマト、ミンチにしたお肉を丸く焼いたものと、おれとサブローさんで開発した「ケチャップ」や「マヨネーズ」をたっぴり入れて挟んで・・・つまりは前世でいうところの「ハンバーガー」を売り出したら若い人にヒットしたという話だ。

世界は違っても美味いものはうまい。


ガリクソン商会の調理人と営業マンが王国中の祭りへ屋台を引いていきPRしまくった。おれも他人事にはしたくなかったからこの近郊の祭りに参加したしキャサリンも一緒に手伝ってくれた。

自分が口を出したことが商売になっていくのが楽しくてうれしくて。

俺は大金持ちになってないし大儲けもしてないんだけど、それならということでマッシュ教授の饒舌にコロリと騙されて「相談役」の契約書にサインしてしまったのだ。


「話は勝手に大きくなるものですからね。『真実のようなもの』を少しでも含んでいればあとは尾ひれはひれついて話しが大きくなるものなんじゃないですか?俺にはわかりませんけど」

貴族の情報網は油断するとロクなことにならないようだ。

あっという間に広まるしなぜだか話が大きくなる。


「ところでベッシリーニ教授との婚約の話は本当のことでいいのだろう?私にもお祝いをさせてもらえるか?」


「ええ事実です。でもなんだか恥ずかしいですね、尊敬する会長からそんな風に言われると」

「何を言ってるんだ。二人しかいない生徒会の仲間が婚約したんだ。何かお祝いを考えなければな。期待しておいてくれ」

「ええ?いいですよそういうの。気を使われると恐縮しちゃいますから」


俺が恐縮しているとなぜだかポンッと肩に会長の手がおかれた。


「何を言っている?私からの誘いをあっさりふった男へとふられた女からどんな贈り物をするか見てみたくないか?タペストリー家の総力を結集した贈り物をさせてもらうから楽しみにしてくれたまえよ?」


フハハハハハハッ、と笑う会長は若干悪役の顔してる気がする。

「い、いえ・・・お気遣いなく・・・・」


「ところで。婚約者ができて落ち着いたキミがおイタをするとも思えないが約束は有効だ」


約束?

学院をやめることになったら会長の領地で雇ってくれる話かな。


「この街がイヤになったらぜひ私の領地に来てくれ。もちろんベッシリーニ教授と一緒に。優秀な人間は何人でも大歓迎だ、様々な自然や生態系の宝庫だから教授にも興味を持ってもらえるはずだ。それに若い夫婦にとって辺境の人間は子供に寛容だから子育ての環境もいい。田舎では子供は皆の共有財産だからね。なんなら私だって保育施設の手伝いをやっていたから、おむつも何千・・いや何万回変えただろうか?」

「ええ?いや子供ってだいたい俺が子供なんで・・・」

「ナニ言ってるんだ?まだ営みがないってわけじゃないのだろう?」


あ、姉御?さすがに恥ずかしいのですけど。


「俺達健全な男女ですそれ以上は言えません!まったく何言わせてんですか!」


「アッハッハッハッハ悪い悪い。ひとりで幸せになったキミにイジワルしたくなったのさ。言葉は悪いけど田舎はその辺りアケスケでね。兵士の猥談くらい付き合えないととても辺境の侯爵令嬢なんてやってられないのさ」


「俺はいいのですけど。今の話はキャサリンには内緒ですからね?彼女も立場とかいろいろあるんですからね?」

「わかったキミと私の秘密だ、必ず守ると約束するよ。その代わり王都がイヤになったら絶対に声をかけてくれよ?これも約束だ。どうもマッシュ教授のガリクソン社とキミが仲よしなのを見せられるとね。パートナーとしてのキミはベッシリーニ教授に取られて、アイデアマンとしてのキミをマッシュ教授に取られてしまってるのだからこの学院の教授達に文句のひとつも言ってやりたくなる。そういえばベッシリーニ教授は学院長の娘だったね」


「もう勘弁してくださいよ俺なんかそんな大したもんじゃないですよ。って何かすみません怒らないでもらっていいですか?」

会長の顔に怒りマークが込み上げてます。

淑女が拳を握りしめるのも違うと思います。


「変わらないなキミは?でも気を付けた方がいい。キミに価値を見出して期待する側からすると、そんな風に言われるのは侮辱されているような気がするのだよ。私が見初めたユーリを甘く見るなよ、私の審美眼を甘く見るなよとね。それはキミと縁をもった人は皆思うはずだ。だから」


ありがたいフローラ会長の言葉。

俺なんかに期待してくれる言葉。


「だからそんなことを言うのは今日でヤメにした方がいい。キミは単に謙遜しているだけかもしれないし、キミの理想が高すぎるのかもしれないけど、そういうのは胸のうちにしまっておけばいい。自惚れたり威張ったりする輩は最低だがキミはそういうタイプじゃないのだから。自分に力があることを自覚したうえで余裕をもって対応する方がいい。それがこれからのキミの新しい魅力になっていくハズだよ。この私が保証するんだから間違いない」


あ、姉御。

姉御に保証されたら間違いないです。


「魅力なりますかね」

「下手な謙遜をするわけではなく、バカなヤツのように自惚れたりもしない。キミはそんな大人の余裕で受け答えができる人たちを何人も見ているだろう?」


そうだよな。

みんなそうだ。


「ところでいつ頃に結婚するつもりなんだ?新婚旅行は北の辺境の侯爵領なんてお勧めなのだが。もちろん私の案内付きだ」


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