第8話 始まり
「いよいよ来月は魔力検査だな」
この世界に転生してもうすぐ12年。
もの心ついてからならもう5年以上が過ぎた。
それはつまり、前世のことを思い出してから5年たったということ。
それより以前の幼いころのことは薄ぼんやりとした暗がりのような記憶しかない。
随分荒いモノクロームの映像のようなもので何がなんだかよくわからない。
俺も侯爵家の子供として世に出ていかなければならない年。
貴族の義務として、子弟は12歳の誕生月に自分の魔力を検査してお国に報告する義務がある。
自分達の人材という資源を把握して有効活用するための能力評価だ。
使えそうなものをコキ使いダメなものを間引くための制度。
広いダイニングでひとりだけ夕食をとり、自分の部屋でふかふかのベットに寝転んで考える。
俺はこの世界でどう生きてやろうか。
今生きている新しい世界は、なんとなく古いヨーロッパのような街中に石が多い世界。
道も家も石で出来ていて電気もガスもない。ランプと薪。
剣士がいて魔法がある世界。
貴族が偉そうにいばり王様がいる世界。
そんな世界で俺は侯爵家の長男として生まれてくることができた。
貴族では公爵家につぐ爵位で由緒正しい家柄になる。
代々続く家柄は名家の証。
殆ど話をしたことのない両親から、エストラント家の先祖が活躍して爵位を賜った話や数々の栄誉、国王様と王国への忠誠だけは叩き込まれた。
貴族社会をうまく渡ってそれなりの文官になるのが俺に期待される将来像。
侯爵という爵位、家柄の歴史、宰相という父親の役職。この世界の父親は国王からも信頼されている。
俺も必死にペコペコしていれば家門に傷をつけずに生きていける道がある。
この世界の子供としてはすごく恵まれているのはわかっているけど。
そんな生き方は俺にはできない。
俺の胸の中にある感情の塊がそれを許してくれない。
知っている。
ペコペコしようが泣こうが懇願しようが、力のあるヤツは最後に願いを聞いてくれることはない。
駒として便利に使っているだけだ。偉ぶって代わりはいくらでもいると考えるヤツラだ。
そんなヤツラの気まぐれに振り回されて虐げられる生き方はもうできない。
前世の俺がそんなことを許さない。
俺は俺の力で生きるしかない。
何も考えられずに、いいようにボコボコにされるのはもう御免なんだ。
力のあるヤツラのいいなりになって死ぬのなんてごめんだ。
今度は俺があいつらをアゴでこき使う番だ。
失敗したって問題ない。
やるだけやってダメなら死ぬ前に逃げ出してやる。
クズどもにペコペコするなら、どうせ何かあれば殺されるくらいなら。
泣きわめいて謝っても願おうが。下手に出ようが言いなりになろうが。そんなことをしても苦しむ時間が長引くだけだ、前世でさんざん経験済だ。
今の俺はそう考えられるだけ貴族の子弟として余裕がある。
うまくいけばクズどもに靴の裏を嘗めさせてやれる。
もう無力な自分に諦めるのはいやなんだ。
死ぬ可能性なんかよりずっと。