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神様に辿りつく少年  作者: 水砲


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第78話 俺の知らない話

「なんですかそれ?」


ご子息ってウチに子供は俺しかいない。

なんだか俺の黒歴史が明かされる気がする。


「もう何年も昔の、そのお子さんが幼かった頃のことよ」


何がはじまるんだ?

俺?これはオレの話?

そんな前の記憶なんて俺にはないけど。

前世から生まれ変わった後の物心ついてない小さい頃だ。


「ある侯爵夫妻とその令息が馬車で王都の街を移動していたらしいわ」

「はあ」


ある侯爵夫妻。うん、うちの親の話ですね。

それに令息って。


「やっと喋ることができるようになったばかりの息子さんが急に泣き叫んで。馬車を止めて、と大きな声で叫んたらしいの」

はあ?

記憶にはない。

でも聞くしかない。もともと親のことを訪ねたのは俺だ。


「ご夫妻が慌てて馬車を止めさせると、その子は馬車から飛び出して建物の間の細い路地へ駆け出した。ご夫妻も護衛の騎士たちも慌てて追いかけたとか」


「聞きたいことはいろいろとあるのですが?」

「まだよ。これからがいいところなのよ」

「えーーーー?」


なんか照れくさいってか恥ずかしい話が始まりそうなんだもの。


「路地を抜けたところではご子息よりほんの少し年上くらいの6~7歳くらいの子供が、大きくて体格のいい大人の男性に何度もムチ打たれてたのですって」


自分で顔がこわばるのがわかる。

そんなクズはどこにでもいる。


「どうしようもないクズですね、その男」

「その男が単なる荒れくれ者で街にいる子供にいきなり暴力をふるったらそれは犯罪者だわ」


そうではないのか?

だけれど子供に暴力を振るってる時点でそんなものクズな大人に決まってる。


「公爵のご子息は打たれている男の子の上に身を挺しておおいかぶさって「やめて、やめて」って何度も叫んで自分がムチを受けたそうよ。男はあわててムチを止めようとしたけど、大人でも痣になるようなムチを小さな侯爵令息は3回も受けたとか」


ムチは急には止まらないかもしれないけど。

ちいさな子供がそんなことされたら死んじまうだろうが。


「そんなことがあったんですね。でもその男は犯罪者ですよね?」

「いいえ。その子供もお金をいただいて人夫として働いていて、お客さんの荷物を落としてダメにしてしまったのよ。ムチで打っていたのは人夫たちをとりまとめていた親方だったの」

「それでもダメでしょう。かばった子供は自分から飛び込んだのだから置いておいても、先に打たれていた子供だってそんなことされたら死んじゃいますよ」


「そうね。でもその場には荷主さんもいて、その親方がそうでもしなかったら荷物を落とした子供は折檻されて壊した荷物の金額を請求されているわ。そしてもちろんその日暮らしの男の子にそんなお金は払えないから、奴隷に落とされて売り飛ばされるのよ」


そうすればもっとひどい目に合う。

悪い買主にあたってしまば動物以下の生活が待っている。

この街ではよくある話だ。


状況はわからない。

子供にはとても無理な重い荷物を運ばされてたかもしれないし、子供が生活のために無理をしていて現場に迷惑をかけたのかもしれない。

ムチで打たれていた子供は、怖くて痛くて泣き叫んでいただけかもしれないし、その親方に、ムチを打ってくる大男にこっそり感謝してたかもしれない。


どこかのクズとは違うらしいことだけは理解できた。

できた、だけど。

例え派手に見えるようにだけで打ち込むムチだとしても、やっぱり痛いし怖いのは間違いない。それを振るっているのが自分より絶対に力が強い大人だ。


「それでどうなったんですか?」

「かばってムチで打たれた子供が侯爵家のご令息だとわかって荷主の男もムチ打ちした親方さんも地面に頭をこすりつけて平服したそうよ。そりゃそうよね、貴族の息子をムチで打ったなんてその場で殺されても文句はいえないし、衛兵に捕まれば辺境の鉱山送りだもの」


「そうなったんですか?」

「侯爵様ご夫妻は荷主の商人やその親方、あとまわりにいた何人かもをひとりひとり馬車に呼んで話を聞かれたそうよ」


話を聞いてそのシーンを思い浮かべていると。

何だかほんの少しだけ、当時のことを思い出してきたような気がする。


「そのムチを打たれていたって子供って、肌が浅黒くって、ガリガリにやせてて、目つきが鋭くて、でもいいヤツで」

「さあ?南方系の男の子としか。侯爵は全員から話を聞いた後で荷主には壊れた荷物の補償をしてあげて、親方さんにはその子を引き取る金額を渡してそのまま男の子を侯爵邸に連れ帰ったらしいわ。しばらく預かった後でその子は地方貴族に下働きで雇われたそうだけど」


ちょっとだけ憶えてる。


傷だらけの体が熱くって、なんだかボーっとして目が覚めたらセバスの顔がみえて、扉のむこうで泣いたような男の子がじっとこっちを見てた記憶。

俺はずっとウトウトしている感じでしばらくはベットの上で生活してた。


そいつは誰もいない時を見計らって俺のそばまでそっときて、なんだかいろいろと話していた気がする。

もう、何を話したかも覚えてないけど・・・まだ体がフラフラしてた俺を支えてくれたり、庭のテラスまで連れて行ってくれたり、めずらしい昆虫を捕まえてくれたり。

いつの間にかいなくなったから俺も忘れたんだな。


記憶なんてほとんどない子供の頃の話。

顔もボヤけてはっきり覚えてないけど元気だといいなあ。


「その親方さんは言ってたらしいわ。小さな子供を働かせたってろくに荷物なんて持てないし教え込む手間もかかる、こんなトラブルだって度々おこる。でも俺が使ってやらないと今日のパンが買えずに明日死んじまうんだからって。まるでさっき私の愛する息子から聞いたような話ね」


俺は何も言えなくなる。

でも、でも腹が減って動けなくなる前にメシが食べられる方がいい。

いつかジンから聞いた話を思い出す。何も持たずに社会に出た子供たちでもすごく稀には社会で認められたり立場を持てたりするヤツがいるって。


「その親方自身も小さいころから荷物を運んでその日の食事にありついていたそうよ。30年もかけて必死に頑張って信頼されて、顔役みたいな親方になって。子供たちのミスは親方が折檻するところを見せることで、荷主さんは親方の顔をたてて少々の損は何もいわないそうよ」


いいヤツとか犯罪者とかそういう話じゃなくて。

当たり前のように起こる哀しい出来事。

誰が悪いんだ。

何が悪いんだ。


「だれが悪いんですか?だれが悪いヤツなんですか教えてください母上。同じことが俺の前で起こったら俺は誰をぶっとばせばいいんですか」


今の俺にはどうすればいいのか判断なんてできないんだ。

頭も悪い俺が今持っているのは、せいぜい悪いヤツをぶっとばす力くらいしかないのだから。


「私にもわからないわ。でもその後にエストラント侯爵は国王へ貧困対策や孤児院の援助を上申したのですって。他の貴族たちの反対のせいでほとんど形にならなかったけど、それでも国王は孤児院の支援に身銭をきってお金を出してくれているし、ほんの少しの貴族たちはご夫妻に感銘をうけてわずかでも支援したりカンパしてくれたりが始まったのよ。エストラント夫人は貧困支援のチャリティのパーティではすっかり顔役だわ。私達夫婦も正直なところ貴族のパーティなんてごめんだけど、ご夫人のパーティにはたまに顔を出させていただいているの。ムリはできないけど臨時報酬があったときなんかはね」


マーサさんは握りこぶしをグッとかかげた。

魔獣討伐して臨時報酬があった時だろう。

そんなの俺が魔獣を討伐して教会に差し入れしてるのと一緒じゃないか。


「私達も代々続いた名ばかりの貴族とのお付き合いなんて最低限だけで勘弁してほしいわ。それでも、代々続いた貴族同士の権力闘争の中で生き抜いてきて、王宮の要職をつとめている貴族にしかできないことがあるのよ。私達とは別世界だけども、家柄や貴族であることに誇りをもって自分の務めを果たそうとする姿勢は立派だわ」


「それがうちの親ですか」


「でもこれは一面よ。普段は国王のためとはいえ腹黒い交渉事に裏取引、危険な派閥をひきずり落とす画策なんかの薄暗いこともされているのじゃないかしら。私達にはできないし、やりたくないし、触れたくもない裏社会ね。あなたにそちらばっかりが見えているのであれば今のご両親との関係も理解できるわ。それもまたあのご夫妻の仕事なんだろうし事実でしょうから」


もう俺は何も言えなかった。

何が良くって何が悪くって、誰がいいヤツで誰が悪人なんだかワケがわからなくなった。

それでも両親が俺に近づくことが無いのはわざなんだろうなと思った。


「あなたが今すぐにご両親への考えを変える必要はないと思うわよ。ゆっくりとご両親も社会のことも知っていけばいい。でもこれだけはすぐに考えた方がいいかもしれないわね?」

「なんですか?」

「わたしたちベッシリーニ家は先代も今代も国王からご信頼をいただいているけど、魔法師団だから軍部になるわ。内政であったり貴族たちの権力闘争からは距離を置いている実力社会ね。そんな私達と関係をもってあなたをまかせたいと考えたエストラント侯爵はどうお考えなのかしら?」


わからないわかるわけがない。

でもほんの少しだけは、俺のことを考えてくれているらしいのだなと思えるようになった。

「考えてみます。いろいろ教えてもらってありがとうございます」


知らなかった事実を知って衝撃を受けるのはコイツと一緒か?

ノビているキルリスをみてそう思った。


とりあえず俺は、キャサリンの部屋に戻って一緒のベットに入って、彼女と頭をコツンとひっつけて、寝てしまおう。

考えることがいっぱいで、もう頭の中がお腹いっぱいだ・・・。


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