第77話 キルリスの初めて
「なあキルリス・・・パパ?」
俺はキャサリンを寝かせた?まま居間までおりて二人のところへと戻っていった。
キルリスにまだ聞きたいことがあったから。
「やめてくれ。せっかくのワインと穏やかな午後がだいなしだ」
「そういうなよ。ちょっと教えて欲しいんだ」
お願いには返事をせずにジロリと睨まれた。
俺一人なのに疑問があるらしい。
「僕の愛娘はどうしたんだい?」
「気を失っ・・・寝てるよ。うん」
「どんなプレイをくっ」
くっ、じゃねえって!
いいかげんにしろよおい。
「ぶ、ぶんなぐるぞおまえ。そんなんじゃねーって!」
「母体を傷つけるようなことをしたら俺がグーでおまえをなぐる。おれだって武闘の基礎くらいはだな」
「だ、だから、違うって。キャサリンはさっきの続きを視てもらっただけだ」
「続き?視るってなんだ?」
あーもう、めんどうくせえ。
「じゃあさ、あんたも魔眼もってんだろ?それで俺を見てみろよ」
「随分と神様からのギフトを気軽につかってくれるじゃないか。そういえば俺がユーリを視るのって実は初めてって、なんじゃこりゃああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
ガクン。轟沈。
最初のキャサリンのようにキルリスも白目をむいてぶっ倒れた。
ソファに崩れ落ちたから体裁だけはととのえて、と。
「マーサさんごめんなさい。キルリスつぶしちゃった」
「・・・・ぷん。」
え?
「ぷん。ぷん。」
「ま、マーサさん?」
「ふーーーーーん、だ。知らないわよ、ベッシリーニ家の女はみんなシツコイんだから。もう粘着質でグチャグチャなんだから!」
「・・・は、ははうえさま?」
そうそうそれでしょ、って顔された。
「なーに?私の愛するユーリなんでも聞いていいわよ?」
満面の笑顔が美しい。
この人にはホントにかなわないな。
「キルリスはもう吹っ飛んじゃったんだけど本当はお二人に聞いてみたくて。この世界のうちの親のことなんですが。二人とはタイプがずいぶん違うハズなのに仲は悪くない感じが不思議で」
自分の親のことを他人に聞くってのもおかしな話なんだろうけど。
もう他人じゃないってことで教えてもらえないかな。
二人は俺に近いっていうか貴族の闘争なんて興味ないタイプなはずだけど、なぜ俺の親とつながってるんだ?どうしてキャサリンは俺のところへ家庭教師に来てくれたんだろう、とか。社会的には俺と違う見え方がしてるのかなとか。
俺には親ってものがわからないのだから。なにせ基準があのクズしかいない。
「そうね関係は悪くないわ。それほど直接的な利害関係がないのもあるでしょうけど。うちは軍部と学院だし、そちらは宰相だから文官でしょう?戦争していればお互いやりあう仲かもしれないけど今は王様が軍部と政治をうまくコントロールしてるから」
「それは感じてはいるんですけど。うちの親の印象ってどうですか?」
「あなたの話に今のご両親が出てくることがほとんどないものね?まずはあなたはどう思ってるの?」
「印象的なものは殆どないですね。父は仕事と貴族社会の権力闘争で忙しいし、母は舞踏会とかパーテイで忙しくて。どちらもほとんど話する機会なんてないですからこちらとは大違いですね」
「違うのは確かだけど。それならあなたはご両親が嫌いなの?」
当然聞かれるだろうけど。
俺とこの世界の父親の間には、侯爵とその長男という立場以外になにがあるだろう。悪い意味で言ってるんじゃない。
宰相としてエストラント侯爵として貴族として、そして俺の親として。その立場でやるべきことすべてをこなしている父親。
愛情とかそういう言葉ではなくて、俺からすればやるべきことを担ってくれている人。これが親なんだと言われれば十分に納得できるくらいに。
「そういうわけではないです。今の両親は俺を殴ったりしないし食事も寝る場所も与えてくれるし執事やメイドさんたちも付けてくれてます。これで文句いったら前世の俺からバチがあたります」
「大変だったのでしょうけど、殴られないのと食事があることは当たり前のことですからね?ではどう思ってるの?」
「率直に言うと好きでも嫌いでもないし、特に関わりはないですけど生きていくために世話になっている人たちです。これでもそれなりには恩を感じてますよ、少なくとも僕が生きていける環境を与えてくれてますから」
生意気だと取られるかな、とは思う。
けれどもわからないんだ俺には。
あの人たちは俺が生きていける場所をくれてる、それに感謝している。でもそれ以外は何がどうあるべきなのかを俺は知らない。
「現実を俯瞰した子供らしくない答えね。でも、あなたはお二人のように貴族の特権みたいなことは嫌いなのでしょう?」
「性にあいませんし僕にはムリです。両親のことなので軽蔑まではしませんけど良い感情はありません」
宰相なんだから、貴族なんだから、って感覚がわからないのは俺が前世の記憶を引き継いでいるからだろうか。この世界の生まれじゃないからだろうか?
王様だから、貴族だから。だからナニ?とか思ってしまう俺の方がイレギュラーなのはわかっちゃいるつもり。
「でも私達夫婦はエストラント侯爵夫妻のことを真っ当な方だと思ってるわよ?そうでなければ、キャサリンをあなたの家庭教師につけたりしないもの。あの時はあなたのお父上がこちらまでお願いにいらしたのよ」
「そうなんですか?聞いてないですけど」
「なんでも御自分の息子さんが随分魔法の才覚がありそうだから、ぜひ最高の家庭教師をつけてやりたいってうちの旦那に頭を下げられたの。派閥的にも何の関係もない貴族のところへやってきて頭を下げるなんて、随分と子煩悩な方だと思ったわ。そんなことされてもお互いになんの得もないから」
その割にはなんだかあちらの貴族、こちらの貴族、といろいろ便宜をはかったりなんだりと忙しそうだ。
俺からは派閥の間をあちこちとうまいこと飛び回っているように見える。
「エストラント侯爵は宰相ですもの。いろんな派閥を調整して王がやることを実現させなければいけないの。普通の貴族なら自分の派閥を組んで強引にでも推し進めていくのが当たり前なの。でも公爵は派閥をもたずにご自分の調整能力だけでやってらっしゃるからすごいことよねとダンナと話してるわ」
「なんだかむずかしいです。どんな感じなんですかね」
「エストラント侯爵が宰相という立場を自分達のためにフル活用していれば、あなたの家の邸宅はハイラント公爵の次くらいの大邸宅になってるでしょう。毎日ごちそうが出て自宅でパーテイ三昧してもお金はいろんな人から入ってくるはずよ?でもそんなことにはなってないわよね?」
「ええ。普通の侯爵家だと思います。その割にはうちの家臣はみんな凄腕だし、家のためにつくして動いてくれるから正直よくわかんないんですよ」
セバスも邸宅で働くみんなも、気づいたらスゴイひとたちばかり。
そんな人たちがなぜウチなんかで働いているのか不思議なんだ。
あれだけの人たちならもっと大きな邸宅でお給金も多く貰える仕事ができるハズなのに。
「エストラント侯爵は聡明で平等だし貴族の義務を誰よりも重んじる伝統的な貴族の代表みたいな人だと思われているわ。それを国王陛下もお認めになっているから誰も口出せない。それだけの立ち場にあっても私腹を肥やすワケでもないし、派閥に関係なく良案はきちんと取り上げるし、派閥のメンツが潰れないようにバランスをとってくれる。だからどの貴族も攻撃できないし、銘家の名にはじない貴族の中の貴族というのが私達の感想よ」
「そう、なんですね」
別にあの人たちのことを悪く思っていたわけじゃない。そういう仕事、そういう役割なんだろうなと思っていただけだけど。社会から見るとまた違う受け取られ方になるらしい。
「奥様は社交の場で必死に侯爵を支えてらっしゃるわ。貴族としてエストラント家の名前に恥じないよう正しく貴族であろうとするお二人だわ。私達には代々貴族を世襲している方々の気持ちはわからないけど威張り散らかすだけの貴族たちはエストラントさんを見習ってほしいと思ってるわ」
「なんだか俺は自分の親なのに誤解してたかもしれません」
親なんて関わるとロクなことにならない。
それが前世で学んだ俺の教訓だと思っていたから。
「でもこれは私たちからの見え方だからあなたがどう感じるかは自分で確かめなさいな?そういえばこんな話は知ってるかしら。エストラント侯爵夫妻の心を動かして人生の指針を示したご子息の話」




