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第70話 決めたから

「さあ帰りましょう。あなたの帰りを待ちわびてる娘の顔が浮かぶわね?」


マッシュ社長たちがお帰りになったあと少しだけ二人でお茶をして打ち合わせ。


「マーサさん今日はありがとうございました。なんだかわかんないことだらけだけど、オレのためにしてくれたってことはわかったから」


この人が俺のどんな未来のためにやってくれたのかわからない。

ご期待?にそえるかなんてわからないけど。

キャサリンと一緒に思いっきり生きていけばそのうちわかるのじゃないか?


「あら母上様はもう終わり?残念ねマーサさんなんて呼ばれると他人行儀なのに。でもさすがに呼び捨てだとあの人も娘もおかしな顔するだろうし困ったわねえ」


マーサさんが微妙なところで引っかかってる。

俺としてはこのあたりが落としどころだと思うのだけど。


「冒険に出るときはマーサでいいからね?あと呼びたければいつでもハハウエとお呼びなさいな。あなたはもう私の息子なのだから」


たはは。

母親ってのが俺にはわかんねえけどありがたいなあ。

一緒の冒険が確定してるのならついでに貴族社会の渡り方も教わることにしよう。


「そういえばユーリはキャサリンに叱られたことある?」


「こないだ学院でぶん殴られたのがそうだと思うけど」

今にして思えばキャサリンはこのヒトの娘なんだよな。


「気を付けてね?あの娘が学院に入る前までは私が武術を教えてたから。パッと見は線の細い魔導士だけども、武闘家として上位レベルまで仕上げたつもりよ。本気になったらAランクくらいの武術力はあるから気を付けてね?たまにうちの旦那をぶん殴るくらいしか使ってないみたいだけど」

「は、はは・・・俺も気を付けますよ」


キャサリン狂暴説が今さらだ。イロイロと後出しが多いんだよ。

なぐられる前に教えてください。


「ただいま帰りました」


「すみません、たびたびお邪魔します」


マーサさんに続いて入った俺は振り向いたマーサさんにギロリンと睨まれた。


「どの口がそんなこと言ったのかしら」

俺のほっぺをギュウっと掴まれると唇が八の字に・・・


「い、いや、だってさ・・・」


「わからないのかしら。おかえりなさい?私の愛しいむ・す・こ」


そのまま顔面をつかまれた指に力を込められて、俺の両足は釣り上げられた。

ああもうだめだ。

俺はこの人にはかなわない・・・


「ただいまもどりました、おかあさま・・・」

「よろしい。それより私の娘があなたを待っていたようですよ?」


玄関ではキャサリンが俺を出迎えてくれた。

うつむいたまま寄ってきて俺にギュウと抱きついた。


「ごめんよお。わがままでごめんよお」

ポロポロと涙がこぼれていく。俺は優しく包み込んで抱きしめた。



キャサリンの部屋で二人並んでベットサイトに腰かける。

肩と肩がちょっと触れてる距離。


「嬉しかったんだよボクは。ユーリが父さんとの話を聞かせてくれて」

「うん。俺だけのことじゃないと思ったから」

「ありがとう、やっとお礼を言えた」


ちょっとだけ笑ったキャサリンのホホには何度も何度も泣いた涙のあとが残ってた。


「その後の話はもうキミ何やってんだいって思って聞いたよ。いつの間にか王国一の魔導士になってるし王女様の護衛になってるし」

「隠すとかじゃなかったんだけど。全部がなんか一瞬っというか全部がひとつなぎであっという間だったんだ」

「わかってる。わかってるよ。でも・・・じゃあさ、まだボクが知っとかなきゃいけないことってないかい?」


涙が枯れて赤くなった目てジッと見つめられると、何でも話さなきゃいけない気持ちになる。

ことの起こりはあの暗殺者の件だよな、あれってどこまで話していいのだろう?


キルリスが説明したのは御前試合の前に王様からお礼されたところからだ。

お礼の理由は上手くごまかしてたからまだ秘密の話なんだとは想像できるけど、第二王女の護衛になった件の元となったのもあの事件。だからソコから知らないと今回の流れが全部つながらない。

俺にあったことだけは別に喋っても大丈夫かなと勝手に解釈することにする。どこまで喋っていいかなんて聞いてないのだからキルリスが悪いうん違いない。そんなの全部に決まってるだろ、ってキレてる顔が浮かぶけど気のせいだ。


「知っているかもしれないけど」


俺は第二王女を夢で殺し続けた闇魔法使いの話を始めた。


王女の心が壊れる寸前まで浸食されていたこと。

相談されて手を貸すことにしたこと。

闇魔法の「夢の回廊」をマーキングして跳ね返し敵のアジトを突き止めたこと。

ハイラント公爵が黒幕だったこと。

キルリスに手伝ってもらい雷魔法と闇魔法で混乱させて侯爵邸に乗り込んで、暗殺者バーンをぶっ飛ばして捕獲したこと。

その後はキルリスにまかせたこと。

ハッキリ言葉で聞いたわけじゃないけど暗殺者はとっくにこの世からバイバイしてること。。。。


キャサリンは何も言わずに聞いてたけど、俺と肩が触れてない方の拳を握って何度も布団を殴った。


「知らない。ボクは何にも知らなかった。キミが王女を助けたこともそのために危険にあってたことも!」


「危険って何とかなるつもりだったし。それに姫さん絡みだったから何を秘密にしなきゃなんねえか俺にはわからなかったんだ」

「うん。ボクはもともとエストラント侯爵の他人を見下した態度が気にいらなかったから、今度見かけたらぶっ飛ばしてやる」

「バカ。ダメにきまってんだろ?おまえが捕まっちまう」


俺は腕をまわしてキャサリンの頭をギュっと抱きしめた。

いつもより濃いキャサリンの匂いを久しぶりにかいで、たった2日しか経ってないけどズッと感じたかった大好きな匂いにもうクラクラした。


「だってユーリを危ない目にあわせるような悪者はボクがぶっとばすって決めたから」

「キャサリン?」

「そして守り切れなくてキミが死んじゃったらボクも死ぬから」

彼女の目は強い決意がみなぎってた。


でもそれは違う。

誰にもキャサリンへ手を出させないことが俺の中での決まり事なのだから。


「ダメに決まってる」

「でもキミは死んじゃってるから止める事なんて出来ないからね?もう決めたから」


「バカ野郎だ」

「だからキミは死んじゃダメだよ。でもね?」

「なんだよ」

「もし二人とも死んじゃって、神様のところでふたりでノンビリ研究なんかできるかもって思ったら死ぬのも怖くないんだ。だからどっちかだけ天国でもう片方が違うところだとイヤだよね」


俺の声がかすれて、やっと頑張ってなんとか口を動かせた。

「ナニ言ってんだか。おまえってホントにワケわかんねぇ」


こんなこと言っちゃダメなのはわかってるけど。

口に出しちゃダメなんだけど。

心で思うだけでもダメなんだけど。

それでも。


嬉しくて。


俺が死んでも守りたいこの人が。死んでしまうなんて俺の心が耐えられるワケがない。

絶対に許せないし想像しただけで頭が壊れそうになる。それなのに。

一度心が感じてしまったらもうダメだ。


「だからさできるだけ一緒にいたいな。いいことも悪いことも一緒にやっていれば、天国じゃなくても同じ所にいけるじゃない?ボクはキミと一緒だったらそれが一番なんだ」


前世から、ずっと、ずっと一人だった俺の心が。嬉しくて涙を流してる。


誰かにほんの少し声をかけられると嬉しくて。でもすぐにみんないなくなって。

誰とも関われずに、虚勢だけはって一人で震えてた俺の気持ちが。心が。

喜びに満たされて。


こんなにうれしい言葉は、それでも今だけのものかもしれない。

またすぐに消えてしまう希望なのかもしれない。

例えそうなったとしても。そうであったとしても。


死ぬまで、そして死んでも大好きな人とずっと一緒にいられる。

俺はもうずっとずっといつまでも、ひとりにはなることがない。

そんな夢物語を俺に言ってくれた人がいるのだから。

心が満たされて。

この世界に生まれてこの人に会えたことに感謝するしかできなくなってしまう。


「バカ」


俺がベットに押し倒してきつく抱きしめると、彼女も思いっきり抱きしめ返してくれた。

離れたくなかった。体も、心も。

ひとつになってしまえと願った。

大切なぬくもりが消えてしまわないように。


「神様に辿りつく少年」第70話お届けしました。いかがでしたしょうか?

掲載はじめてから2か月が経ってしまいました。この作品を見つけて読んでくださっている方々には日々感謝です。PV数も評価もコメントもすごく嬉しいです。いただいたパワーをそのまま作品に注いでます。


物語はやっと最初のヤマを越えるところ。この先12話ほどかかってやっと序盤がひと段落です。

まだまだ先が長いお話しですのでじっくりお付き合いいただけますと嬉しいです。



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