第68話 母上様と冒険の後で
※ 改稿は誤字脱字と表現の修正です
「むすこ?何か所か寄っていくわよ」
ついにむすこ呼び。何て呼ばれてもいいけど。
「母上様?問題ありませんがではどちらへ?」
マーサさんの体がびくびくと痙攣しているのはもう置いておくとして。
「まずは冒険者ギルドね」
素材を換金しないとだ。
俺達は大量の魔物とA+ランクのジャイアント・スネイクの素材も回収している。
「ギルマスを呼んでちょうだい」
受付でいきなりギルマスを呼びつけるマーサさんはドレスの上から皮コートを体に巻き付けていて貴族には見えない。
「はへ?」
若い受付嬢の頭の上にハテナマークが浮かんでる。当然だよ。
俺だってギルマスと会ったのなんてS級にあがった時だけなのに。
いくらマーサさんがベテラン冒険者でも受付でいきなり呼びつける相手じゃない。
「あっ・・・あーーーーっ!」
バタバタバタバタ・・・・
奥から年配の受付さんが慌てて出てきて、若い受付嬢を押しのけてマーサの前に挨拶する。
受付の女の子がちょっとかわいそう。
「マーサさん今日は?」
「素材の換金をお願いするわ。量が多いから裏の倉庫でいいかしら?」
マーサさんは胸元からチラリと等級証のタグをつまんで若い女の子の方へむけた。
「突然悪かったわね。これからよろしく頼むわよ?」
「は、はいっ!」
灯りに照らされたオリハルコンのS級タグがキラリと光った。
「紅金貨5枚、白金貨3枚、金貨50枚、端数は切り上げといたからな」
ドワーフのおっちゃんがガハハと豪快に笑った。
昔からの顔なじみなのだろう気安く親し気。
それにしても金の価値が狂いそうだ。
日本円なら5350万円、くらい?
その金で何がどれだけできるか正確にはわからない。家くらいは建てられるのか?貴族の屋敷とか城とかは無理だと思うけど。古い教会の建て替えとか?
数字は数えられても価値がわかってないのだから、まだ金を遣える資格がないと思う。
日本にいたころ万札なんて何度か持っただろう?何枚か渡されて知らない事務所に行かされたりとか。
今にして思えばあれヤク〇の事務所だ。若いヤツが怒鳴ってたけどなんのことか俺はわからない。
クソ親からアイツの名前を言って渡してこいって言われただけだし。
アイツは本物のクズでバカだった。
世間知らずで相手のことがわかってないくせにプライドだけが高い。最低で低能だ。
汚くて臭くてボロボロで目つきのわりーガキがヤク〇の事務所に入って来たら、ぶん殴られて追っ払われて終わりだ。
そういえばあの時。
まとめ役みたいなヤツが黒くて豪華な椅子に背を預けて俺の方を観察していた。
「おまえわかってココにきてんのか?」
「知らねえよ言われた通りにやってるだけ」
「おまえの親父の借金、こんなもんじゃ利息にもなんねえんだけどな」
「しらねえ。足らねえならアイツとっ捕まえちまえば?」
そうなっても何も困らない。むしろやって欲しい。
だけど迫力あるおっさんはナンダこいつって感じで首をふった。
「なんなんだおまえ?親父かばってんじゃねえのか?」
「あんなクソは今すぐ死ねばいい。俺んち見張るなら好きにすればいいけどたぶん当分帰ってこないよ。あんたらに追われてるのわかって逃げてるから。あいつ知り合い少ねえからどっかの女んとこだと思う」
俺は殴られもせずそのまま解放された。
夜遅くにチンピラがふたりで踏み込んできたけど当然のようにクソ親父はいない。
そのまま勝手に居座ってたけど、クソ親父は1か月経っても1回も戻ってこなくてふたりもそのうちいなくなった。
ロクに話なんてしなかったけど、若いヤツラは大量にメシを買い込むくせにつまむくらいでいつも残してたから、俺はその間だけはメシに困ることもなかった。
死ぬほど食って腹が痛くなるまで食っても、明日食べる分がまだある。それだけで俺は安心して眠ることができた。
持ち込まれた布団がそのままになってたからしばらくフカフカの布団で寝ることができた。
ほとぼりが冷めたころにやってきたクソが抱えて持っていきやがったけど。
大金なんて手にしたせいだろうか。
なんだかそんな昔のとりとめのない記憶だけが頭の中を流れていった。
「ジャイアント・スネークの皮が高値でよかったわね?肉も内蔵も廃棄処分だったけど」
「うまくプレスしたみたいで皮だけはアイロンかけたみたいにキレイでしたから。皮の内側の清掃たいへんでしょうけど。グジュグジュの肉とか血とか内臓とかビッシリこびりついて・・・」
金のために魔物を狩る。
こうしていると俺達はただの冒険者仲間だ。
「次は銀行でワタシたち用に1つ口座を作っちゃおう。ふたりだけの秘密の資金なんてどう?」
「いいですね俺達の口座。それならガリクソンの系列はいかがですか?最近マッシュ社長と知り合いになれたので何かあったら頼りやすいですから」
「あそこは守備範囲が広いから使いやすいわね。どこで何をするにもお金が無ければ困るけど有って困ることはないから」
バン、バン、と背中を叩かれる。
すごくありがたい。
前世では触ることすら無かったから、金のありがたみを感じたのはこの世界にきてからだけど。
ジョバンと鍛えたおかげで冒険者として稼げるようになってるけど、それだけじゃ足りないと思っていたんだ。
金に余裕がなければ何もできない。
誰かを手助けしたくても。ホントは金だけじゃ足りない、力も知識もいろんなものがいる。
いろんなモノに繋がらないと新しい縁も生まれない、そうじゃなきゃ力も知識も得られない。
でもまずは金がなければ人も縁も出会いが始まらない。
魔法学院に行く金が無ければ?俺を取巻いてる縁が今と随分違っているはずだ。
「ガリクソン社に知り合いがいるなら一言入れておくといいわ。突然で社長はお忙しいでしょうけど頼れる方に仲介してもらうのがいいと思うわよ?」
今日の軽い冒険で5000万。
ジャイアント・スネイクを討伐できたからラッキーだけど、三日に一回でも今日のような討伐をすればひと月で10億、1年で120億??
その前に森から魔物がいなくなりそうだ。
街に戻るとマーサさんは1件の高級そうなホテルの前に馬車をつけさせた。
以前に訪れたガリクソン商会の本社はもう目と鼻の先の街中にある。
「わたしは着替えてからロビーに降りてるから。その間に知り合いへ連絡を取っておいてくれるかしら」
「すぐそこがガリクソン本社なので顔出してきますね。それにしてもこのホテルって」
王都でも有数の高級ホテルだ。
もちろん俺は初めて。
床も壁も大理石でピカピカしていて、黄金の獅子像や金枠の絵画が当たり前に飾ってある。
格調高いっていうか尻がムズムズして落ち着かない。
「はじめてかしら?こういう場所は確保しておかないと街中は不便なのよ、魔物の血が飛び散った格好だと人に会えないし。ここは昔の冒険者仲間が立ち上げたホテルだから顔がきくのよ」
いいなあ。
立場のある大人とか貴族ってこういう裏技をいくつも持ってるのだろうなあ。
「あなたにも今度支配人を紹介してあげるからね?やっとできた可愛い息子ちゃんだし今日はガリクソン社を紹介してくれるからお互い様よ」
ウィンクされて別れた俺はガリクソン社へ向かった。




