第63話 邪魔者
コンッ!コンッ!
強めのノックの音がして、二人で体がビクビクッて震えて!ほんっとうにビックリした!!
扉の向こうからはこの学院の学院長の声がする。
「二人とも?この扉は開けないけれど身なりを整えたらすぐに学院長室までいらっしゃい。すぐにだからね?」
何ともあきれ返った声で呼びかけると足音は遠ざかっていった。
ふたりで顔を見合わせてお互いにヒャーびっくりした!
「びっくり、した」
「ボ、ボクも・・・」
「ここ学院だって、ぶっちゃけ忘れてたよ」
「ボクも・・・」
ふたりで息を整えてちょっと笑ってから。身なりを整えてもう一回キスをした。
学院長室に入るとキルリスがソファに座って俺達を待ち構えてる。
雰囲気がただごとじゃないぞ。
もしかして結構バレてるか?
「俺はもうキミをガキ扱いしてないって前に言ったよな?」
俺に向かってしゃべる言葉が学院長モードじゃなくなってる。
「かまわないぞ俺もその方がいい」
「それがわかってるならまずキミからだ。俺が前にこんな話をしたこと憶えているか?学院の安全のために張ってある結界の中は誰がナニやってるかわかるって」
「あっ!」
なんだかこの学院の敷地内は結界が強くて安心できるから気が抜けちまう。でもそれは学院内にキルリスの守護が働いてるからだし、そのせいでキルリスは中で起こっていることがわかるし監視?チェック?してる。
「キミがキャサリンのことを大事に思っていると聞かせてくれたから、俺は口出ししないとも言った」
「間違いないぞ。俺にとってキャサリンは大事な人だ」
キャサリンが目を白黒させてピクンと肩が跳ねたけどホントだから。
「だからワタシは昨晩ココへ戻ってきた時に感じた気配のことを口に出すつもりはなかった。手塩にかけて育てた娘のことであってもね!」
俺も隣のキャサリンも昨夜のことを思い出すと。
あれを気取られたってなるともう、真っ赤になって俯くしかない悶絶!!
大声あげて走り出してココからいなくなってしまいたい!
「自分の娘が・・・くっ」
キルリス本気で悔し泣きしそうで俺とキャサリンは恥ずかしすぎて今すぐ逃げ出したい。カオスすぎる。
「俺の切ない親心を置いておけば二人がいい仲になるのをどうこういうつもりはない!昨夜のことはそういうタイミングだったとしても?いやいや本音は見逃せないが!だがさっきのはダメだろう!!」
ごめんキルリス。
いやな役回りさせて。
「キャサリン愛しい僕の娘。キミが大人になっていくのを父親の僕は止めることができない」
頭を抱えて苦悩するキルリス。
しかしこれは。
「お父さん・・」
申し訳なさそうにキャサリンが声をかける、待つんだキャサリンだまされるな、これは大人のワナだ!
「だ・け・ど・ね!?」
「え??」
「学院長のワタシとしては注意せざるを得ないんだけどね!キャサリン教授!!」
何かが爆発した、気がした。
「学校でイチャイチャ禁止、接触も極力控えること!わかったねキャサリン教授!!」
「ゲゲゲッ!!ムリだよそんなの!!今だってそばにいるのに触れられないのが苦しくってしょうがないのに!!」
「おさわり厳禁だあ!!」
いつまで続くんだ?
「なあ俺さ」
「なんだい?また無理難題言ってくるつもりか?」
俺がしゃべった瞬間にかみつくなよ。
「多分だけど講師と生徒ってのがよくないんだろ?」
「そういうこともある。だがそれだけの話じゃない」
キャサリンがビクッとうつむいたから、俺はキルリスの前でもかまわずに手を伸ばして彼女の手を握った。
「年の差なんて関係ねえよ。こんくらいの年の差の結婚なんて貴族じゃよくある話だろ?」
キルリスは苦虫をつぶしたような顔だ。
「今は魔法学院長としての話だ。確かに貴族じゃよくある話だし二人くらいの年の差なんて気にもならない程度だ。でもそうじゃない、ここは王国一の教育機関である魔法学院だからな!入学前から婚約でもしていればよかったけどこのタイミングでそんなことをしたら下衆な貴族たちのいいカモだ!!」
「あんたの立場的にか?」
「そんなの関係ないな!私の代わりがいるんなら好きなヤツがやればいい、俺はもともとただの魔法師団長だ!それでもココは王様の肝いりで理想の教育を目指してる熱いヤツラが集まって運営してんだ、そいつらに迷惑をかけられないんだよ!」
「わかったよ。あんたの気持ちもわかったし、キャサリンがヘンな目でみられたりしたら俺が耐えられない。俺が学院を辞めりゃ丸く収まるんだろ!?それでいいだろう?」
どうせ学院に入学した頃とは予定が変わっちまったんだ。
目立たずに力を付けていくって思ってた頃が懐かしいぞ。
それでも今は冒険者としても一人前になれたしそれなりの縁もできた。
今さら学院で時間をつぶす必要なんてない。
キャサリンとどうやって生きていこうか?
冒険者でもそれなりには稼げるつもりだし、マッシュ教授に頼んでガリクソン社で働けないか聞いてみる手もある。キャサリンが良ければフローラ会長を頼ってタペストリー領に行くとか?
「それこそダメに決まってんだろ!おまえ国王と交わしたシャルロット王女を守るって約束はどうすんだよ!!」
「あっ・・・・」
「そういうわけだ俺は別に二人に別れろなんていう気はない。学院内ではいっさい素ぶりを見せない、学院の外でも目立たずに節度ある範囲にしなさいとそういう話だ!」
当たり前の顔して断言するキルリスに速攻でキャサリンがかみついた。
「じゃあどこでイチャイチャできるんだよ!」
「そ、そんなこと、は、二人で考えなさい・・・」
そんな娘からの反撃に父としてダメージを受けてるキルリス。
俺のせいでもあるけどご愁傷様。
それでもコイツは俺とキャサリンの仲をダメだなんて一言も言っていない。
「ではキャサリン教授は戻ってよろしい。ユーリくんは残って」
「なんだい!ボクには言えない話かい!!」
「安心していいこの話はもうおしまいだ。魔導師団と王国軍を代表してユーリと打ち合わせをするだけだからね」
「魔法師団ってボクも研究所長で役職者なんだから聞かせてもらうからね!?」
キルリスは困り果ててついに堪えられなくなって俺にふってきやがった。
「ユーリ?今後のキミの安全にかかわる話なんだが。ワタシとしてはキミと二人で話した方がいいかと思うがどうだろう?」
話の主題は反呪だろうから国家機密になるよな。
俺のまわりがきな臭くなるって話だから、キルリスとしては俺と話してキャサリンにどう伝えるか伝えないかも一緒に検討しようってことだろう。気をつかってくれている。
キャサリンと一緒にいて俺の大事な人だとバレてしまうと彼女も狙わるかもしれないし。
そのあたりも含めてさっきの話なんだだろうなあ。二人の仲がばれないように大っぴらにするなって。
国家機密を言えないから片方の理由だけで俺たちの接触を控えさせようとして見事に失敗してる。
自分の娘が巻き込まれるかもしれないのに俺と別れろって言わないのだからキルリスは俺を信頼してくれてる。そんなキルリスの心遣いに感謝しながら俺は結論を出した。
「キャサリンにも聞いてもらいましょう。あんたが言いたいことは予想がついてるつもりだしキャサリンを無駄にビックリさせるつもりもないけど。俺はキャサリンとずっと一緒にいたいからどのみち話さなきゃならなくなると思うんだ」
俺が真面目に話すとキルリスも真剣な顔で頷いてくれた。
「キミがそう言うならそうなんだろう。尊重するよ」
「わりいな。キャサリンも悪いけどこれからの話は聞くだけにしてくれ。あと。。」
俺はふと魔法学院に入学したばっかりの頃のワルガキどもとの揉め事を思い出した。あのときのソフィアの顔。
そういえばあれからソフィアとは話をしてないし近寄ってくることもない。
俺みたいな恐ろしいヤツに近づかないのはあたりまえだと理屈ではわかるけど。俺は頭がおかしいのかもしれない前世のまんまだ。何が正しくて何が当たり前かなんてまだわからないのだから。
それでもキャサリンを傷つけたくない。
「もし俺や、俺を取り巻いてる状況に怖くなったら言って欲しいんだ。迷惑かけたくないし危ない目にあってほしくないんだ」
キャサリンが目をつぶってブルブル震えてるのは怒ってるの?
「わかったよユーリがそういうならまず話を聞くよ。でも話が終わったら時間を取ってもらうからね」
「え?話がこれからなのにもう確定?そりゃいいけど・・・」
「確定に決まってるよボクは怒ってるんだからね!お説教大会のつもりだからそのつもりでいるんだよ!!」
「えええええ!?」
キルリスはここ数日のことをキャサリンにわかりやすく説明してくれた。
王様との会談。
模範試合のこと。
その後のパーティのこと。
帰りに賊に襲われたこと。
精霊魔法のこと反呪魔法のこと。
朝にもいっかい王様との会談のこと。
俺はその後にもキャサリンと想いあえて大人になったんだ。
話の前の日はマッシュ教授との昼食からガリクソン社訪問。
この数日は人生を何倍速にもしたようなイベントだらけ。
「先ほど連絡が入った。ブル侯爵の執事が魔力暴走により突然死したぞ」
説明が終わり話が本題に入った。キルリスは淡々と事実を教えてくれる。
「ブル侯爵ってワルガキのところか」
「それもあって昨夜の襲撃は王女絡みかキミへの私怨なのかハッキリしていない。ハイラント公爵が絡んでる可能性も否定できないしな」
「今回公爵は絡んでない」
俺はわかりきっている事実だけをキルリスに教えてやる。
あいつはもう俺たちに危害を加えることはできないのだから。
「わかるのか?」
憮然とした表情で少し俺を問い詰めるような強い口調だった。
あの公爵に何したんだと口調で問い詰めてくるけど、やっぱりこれは俺だけの話だ。
「わかる。単なる勘だけど的中率は100%だ」
「おまえ絶対にひとりで抱え込むなよ。俺のことを気遣ってるならバカにすんなだ。俺の立場を気にしてくれているなら今は娘の彼氏の悩みを聞いてる俺個人の話だ」
「わかってるよありがたく思ってる。でも大丈夫だ」
俺を気にかけてくれるから、頼りになるから。だからってベッタリなんてできねえよ。
あんたのことは結構信じちゃってるけど俺の気持ちが許さない。
「侯爵が関係していなくても派閥は何かがあるかもしれないと勘ぐるだろうな。昨日までピンピンしていた裏の顔役が突然不自然な死に方をしたのだから」
「気を付けておくよ。できるだけ反呪は使わない」
「反呪だけじゃなくお前の限界がくるような魔法もだからな?俺かガイゼル、せめてジンかシュタインがいるところ以外では使うのはやめろ。御前試合で最強だと知れ渡ったからにはお前はこれから弱点を探られる立場になる」
「わかるけどそういうのは使うタイミングがなあ。やらなきゃ先に進めないならやるしかないし」
心配性だなこのおっさんは。
さすがに俺だってヤバそうとかマズいとか考えるってば。
『あなたがそう考えるというならまあいいのでしょうけど』
なぜココで先生が?しかも曖昧?そしてあっさりいなくなった?
「魔法学院と王宮にお前の自宅、あとウチのベッシリーニ家の邸宅は安全圏だと考えてくれて問題ない。俺とガイゼルで魔法的にも武力的にも守護しておく。だからこれ以外の場所に出かける際は教えてくれ商店街で買い物するレベルでも一声だ。どこにいるか見当がつかないと探すのに時間がかかる」
随分と過保護だし面倒臭そうな話。
そんなの俺だけなら一人で好き勝手するんだけどキャサリンのことを思うと仕方ないのかな。
「ずいぶん手厚く守ってくれるんだな?ところであんたの家はいいのかよ?」
ちょいとからかったらスグにブスくれやがった。
どんどんガキっぽくなっていくぞ。
「知らん、知らん、知らん!来たいなら勝手に来ればいいだろ!その代わり結界が張ってあるから私には筒抜けだからな!!」
キャサリンと一緒にいられるなら別にまあどこでも、うん。
「わりいな?なんだか親こーにん、で」
「その話は後だ妻もいるんだからな?それでブル侯爵については王女を排除したいわけだからな、新しく後ろ盾になりそうなお前が邪魔でやったという見解だ。お子さんがユーリにボコられた仕返しするような子煩悩じゃない」
「王選が決まるまで続くのかコレ?あのレベルの攻撃なら何百回来てもムダだけど」
「それで済めばいいがあの派閥には悪い噂がある。東の国の暗殺者集団とつながっている」




