第62話 翌朝のこと
翌日。
せかされるように目がさめた俺は朝食をモリモリと食べて学院に向かった。
「朝日がまぶしいぜっ」
声にだしてみた俺に、神の声はもちろん聖剣も意思をもったロットも。誰も反応してくれなかった。
わかってるよ俺だって。
似合ってねえよ、そういうタイプじゃねえって自分でわかってるから、いいじゃねーか別にチョビっとテンションあがったんだよ!
正門の前で馬車を降りて学院の結界を見ると、昨日までとは少し結界の波動が替わっている。
近づいて聖剣もロットも特に拒絶されることはなかった。
「よっと」
注意して学院の内に足を踏み入れたけどやはり何も起こらない。
キルリスが夜中にがんばってくれたみたいだ後で礼をいいにいこう。
ガイゼルとの打ち合わせの話も聞きたいし。
でもその前に。
俺はまっすぐキャサリンの教員室に向かって歩いた。
朝早いからまだいないかもしれない。
教授は自分の講義の時間に学院に来ればいいだけだし、キャサリンは魔導士団の研究所長も兼務してるから。そう考えるとまだいない方が普通だと思う。
それでもキャサリンの個室の前に立つと、いつものキャサリンの魔力がおれの魔力感知に跳ね返ってきた。やった、いる。
嬉しくって、扉をノックしようとして立ちすくむ。
え?大丈夫か、ほんとに?
なんだか急に自信がなくなった。
扉をあけてキャサリンがよそよそしかったらどうしよう?
冷たくあしらわれたら、どうしよう?
こんなに愛しい気持ちが俺だけだったらどうしよう?
「あ。。。あう・・・」
生まれて初めての気持ちに自分が怖くなった。
俺はいままで誰にどう思われたって平気だったから怖いなんて思う必要なんてなかった。
世の中にいたのは俺の敵か傍観者だけだから。
この世界では仲良くなったヤツラはいるけど、それは俺が勝手にツレだと思ってるだけだし、離れていくならそれでしょうがない話だ。いつものことだ。
他人が離れていくことは平気はハズな俺。なのに。
キャサリンに冷たくあしらわれたら?
そう思うと動揺しまくってる俺がいる。
まだ会ってもいないのに?
扉をノックしようとして体が動かない、声が出ない。
なんだ?
どうしたんだ俺。
いったん落ち着こう。
今、冷たくされたら、俺どうなっちまうかわかんねえけどすごく怖い。
俺はそのまま、ノックしようとしていた腕を降ろしてキャサリンの個室の前から離れようと踵をかえした。
「ど、どこ行くんだい、ユーリ!」
ガチャリと扉が開いて、キャサリンがビックリした顔で俺の腕をひっつかんだ。
「ボクのトコロにきてくれたんじゃないのかい!?」
「うん、いや、・・・そうなんだけど」
キャサリンの必死な顔が、でも愛しくて。俺、ホントどうしちまったんだ。
「キャサリンに迷惑かもって思ったら勇気でなくなった」
キャサリンはビックリした顔で、すごい真顔で必死な顔で、俺を自分の部屋に押し込んでバタンと扉をしめた。
「迷惑なワケないでしょう!!!!!」
必死な怒ったような顔で、グググと顔を近づけてきた彼女の瞳にはジワジワと涙が浮かんできた。
「ボクはキミと一緒にいるためなら今すぐ学院も師団もやめちゃうんだから!たった今から二人で死ぬまで一緒にいられるのだったらボクはこのまま幸せ過ぎて死んじゃうよ!!そんなボクにキミは何を言ってるんだい!」
そこにいたのは昨日のキャサリンそのままだった。
そんなの当たり前だろうなのに。
俺はどうしたんだ。
「うん、ごめん。うれしい。大好きだ」
「ボクもだよ?でもどうしたんだい?」
ギュウって抱きしめてくれた。
昨日と同じように胸につつまれて、昨日とおんなじキャサリンの匂いがして、不安になってた心が落ち着く。
「こういう時の女の人の気持ちってわかんねーし。それに」
「どうしたの?」
「俺、他のヤツラにはどう思われてもいいってずっと思ってたし、嫌われたらしゃーないって思ってたけど」
「うん」
「キャリンに冷たくされたらどうしよう、俺だけが勘違いしてたらどうしようって思ったら怖くなって扉開けらんなくて」
「うん」
「こんなこと思ったの初めてで、自分がわかんなくなって足が震えて」
「バカだね。ボクだってそうだったんだよ?」
「どうして?」
「ほら、その、男の人って、一回しちゃったら満足したりとか、そんなんだったらボクどうしよう、とか、わかんないし。ボクの方が大分年上だし、キミのまわりにはおんなじ年頃のコが沢山いてキミを想ってるし、その・・・お、王女様も、キミのこと気にいってるみたいだし」
モジモジしながら泣きそうになりながら一生懸命に喋るキャサリンに、胸が痛くって。
顔を両手で挟んで、キスして、キスして、キスした。
でもキャサリンの瞳からはもっともっと涙があふれてきて、見てると胸が痛くて好きな気持ちが強すぎて、ずっとキス続けるしかできなかった。
「昨日のことがうれしくって、だけど不安になって、でもうれしくって。キミに早く遭いたくてまだ誰もいない学校に来ちゃってキミが来るのをズッと待ってたのに!」
もうどうしていいかわかんなくて、キャサリンの頭をギュウっと抱きしめて、それでも足りなくてどうすればいいかわからない。
「やっと足音が聞こえて近づいてきて、すごくうれしくてドキドキして。何て声かけたらいいか必死に考えてたのに。それなのに、そのまま扉を開けずにキミは行っちゃおうとしたんだよ!もうボクの心臓は恐怖で止まっちゃったよ!何回も!!」
「ごめんな。ほんとごめん。でもすっげー嬉しい。死んじゃうくらいうれしい。よかったうれしくて涙でる」
キャサリンは俺の目にたまった涙にそっとキスしてぬぐってくれた。
まるでやさしくなる魔法をかけられたように世界が輝いてみえた。
「ボクはキミとこうして出会うために生まれてきたのに間違いないよ。だってこんなにもボクの全部が、キミと触れるだけで嬉しくって嬉しくって頭がおかしくなっちゃうんだもの。我慢できないんだもの!」
二人の唇がもう一度触れ合おうとしたその瞬間。




