第61話 膝枕と初めての
夢の中で俺は、柔らかくてあったかくて、厚みがあって頼もしくて、だんだんになっていて、すべすべして太みのある感触の最高の布団に抱きついて夢のような時間を過ごしていた。そんな気がする。
「太い・・・」
ギュウウとその布団を抱きしめる心地よい感触を存分に味わっていると。
現実の俺がパチンと頭をはたかれて覚めた。
「はっ!?」
俺はキャサリンの太ももに頭をのっけて彼女の腰に抱き着くようにして眠ってたらしい。
ゆっくり撫でてくれてた頭からうれしくて幸せな気持ちがあふれてくる。
「だ、誰の足が太いのよ!!!」
「ん?・・・ん~ん、きもちい」
ぎゅうううう、と抱え込まれた頭がキャサリンのお腹に押し付けられて、お腹もやわらかくってあったかくって、
「ポワンポワン・・・・」
「え?それボクじゃないよね?このシュッとしたお腹のことじゃないよね?」
真っ赤になって顔を近づけて慌ててるからもう可愛くって。
女の人の体って、やわらかくって、あったかくって、いい香りがして、ポワポワして
もう一回腰にまわした腕でギュッと抱きしめて、
「キャサリンかわいくて大好き・・・おやすみ・・・・」
もう一回俺は眠りについた。
やっぱり俺もだいぶん睡眠不足だったみたいだ。
「ああ、ゆっくり眠れたよ。」
キルリスの一声が聞こえて俺も目が覚めた。
結局俺はずっとキャサリンの膝枕で寝てたようだ。
なんだかやさしい気持ちが夢の中にあふれていて、なぜだろうと思ってたらキャサリンがずっと俺の頭をなでてくれてたからだった。
目をこすると涙がたまってて、でもいやな涙じゃなくて嬉しくてやさしい涙で、体も気持ちもすごく楽になった気がした。
膝の上から見上げるとキャサリンがまだやさしい顔で俺の頭をなでてくれてておれは素直に「ありがとう」を口にした。
「大変だったんだってね。ボクの膝なんかでよかったらいつでも貸すよ」
そんなんじゃない。
そうじゃなくて。
「違うよ。俺はキャサリンのお膝がいいんだよ」
こんなにやさしくって、愛情がつまってるのを感じたのは初めてだと思う。
もう一度俺はキャサリンのお腹に顔をうずめた。
「キャサリンがいいんだ」
いい匂い。
俺はたくさんのやさしさを吸い込むように、おもいっきり息を吸い込んだ。
「ここは学院長室だけど、学院長はいなくなった方がいいのかい?」
キルリスのヤレヤレ顔はいまさらだ。
むしろあれは照れ隠しか?
「そんなんじゃねえし。アンタもずいぶん元気になったな」
「お互いにね。休む前は妙にテンションがあがってたみたいだから強制的に落とされて助かったよ。二度とゴメンだけど」
「じゃあそうなる前に自分で休めよ。どうしようもなくなったら俺の横に来て寝てろ」
キルリスはまいったな、という顔をして頭をかいたけどしょうがない。
元気ならコキ使ってやろうと思うけど、コイツも俺のこと間違いなくそう思ってるけど。
倒れられちゃ目覚めがわりいんだよ。
「そうだな。そんなことは二度とないように気を付けるけど、いざとなったらお願いするよ」
「俺だってそうするから。俺もあのクラスの魔法は一発放てばヘロヘロになるんだし、そうなったらアンタに頼むしかないし」
いつでも頼りになってなんでもできる、なんて。
そんなヤツこの世にいないんじゃないか?
今の俺が<力の顕現>を使えばキルリスより随分と高度な魔法も使えるけど、だからって完全なんかじゃない。どんなにレベルがあがっても一人ではできることが限られてしまうから。
「やっぱり反呪は魔力を使うのかい?」
「神の理に近い魔法だから。神様の領域に触れる感じだから魔力もそのくらい使うみたいだ」
「つまりキミは神の領域の魔法を使えるということだよな」
深刻な顔で聞かれても。
ちょっと仲間っぽい感じで通じ合った感じで話してたから素直に話したんだけど、まずかったか?
いまさら隠すこともそんなにない感じだけどな。俺のことで話していないの前世のことと生まれ変わったときのことくらいか。そっちはわざわざ聞かせる話じゃない。
「そんな感じ。実際には神様が構築した理に少し触れただけだから、そんな大層な言い方はおこがましいけど。家を建てることができるのが神様の領域で、俺はソファや本棚のレイアウトを勝手に動かしただけ、みたいな・・・わかるか?」
「わかるわけがないだろ?だがそうだと思うようにしておくよ。それでキミは大丈夫なのか?」
「魔力はカラッカラになるけどな。家自体を壊したり改造したりしたら神様も怒るかもしれないけど、使い方まではアレコレ言われない感じだ。それを言い始めたら魔法自体が人間の出来る理を超えてるし」
「魔法の探求をする身からすると非常に興味深い話だけど。今後もいろいろとあるだろうし順々に聞いていくよ」
キルリスは、それじゃワタシはいくよ、と声をかけて上着をひっかけて出ていった。
総司令と打ち合わせとか言ってたっけ。俺のことで。
「じゃあ俺達もいこう?」
座ってるキャサリンに手を伸ばして立たせたげると、そのままギュッと手を握られたので俺もギュッと握り返した。触れてるところから優しくってあたたかい気持ちが流れてくる。
キャサリンはポンポンと自分の膝をたたいて
「いつでもいいからね、ボクのお膝はキミ専用だから」
「頼むよ。あんな幸せな時間はこれまで感じたことなかったもの」
感じた通りに素直に言葉にした。
キャサリンは赤くなって、当たり前でしょって俯いた。
「当たり前なの?」
「当たり前だよ、ボクのキミへの愛情がたっぷりつまったお膝だからね」
真っ赤になって目が潤んでて、俺をしっかり見つめていってくれるから、もう胸がつまって俺があげられるものは何でもあげたくなってしまう。
「俺もなんかしてあげたいな。なんかある?」
「キミがボクのお膝で幸せそうに眠ってるのを見てるだけでドキドキして嬉しくって、ボクも幸せだったからボクの方こそありがとうなんだけど。じゃあ今度はボクがキミのお膝で眠りたいな。キミをギュウギュウに抱きしめちゃうよ!」
茶目っ気タップリに言うキャサリンかわいい。
そんなことならいつだって。
いや待てよ?
冷静に戻って想像すると、キャサリンのお膝での幸せな時間を互いに入れ替えてみると。
俺はバッチリとワレに返った。
「それはムリ!」
「えっなんでさ!!」
否定されると思ってなかったみたいで、キャサリンが反射でビックリして顔を近寄せて迫ってきた。
「そ、その、さ。男の生理っつーもんが、あるんだよ、いろいろと!!!」
間違いなくおれは今真っ赤だろうけど、カミカミだけど!
キャサリンを膝枕してずっと撫でたげれば、俺だってすんげー幸せな時間だとも思うけども!
こんなに愛しくて可愛らしい女性にお膝で俺を抱きしめちゃったら。
頭をのっけとくのに邪魔なもんが立ち上がっちまうだろ、あ、あれがよ。
こんなに気持ちがつまっちゃったら誰だってそうなるだろうよ違うのかよっ!?
キャサリンは一瞬キョトンとした顔になって、すぐにニコニコと真っ赤な顔して微笑んだ。
そのままギュウっと抱きしめられると、俺の顔がキャサリンの胸にあたって、お腹とは違ってもっと柔らかいものに包まれて耳元でささやかれた。
「ボクでよければ、いつでも、大丈夫だよ。い、今でもさっ」
そのまま、耳元にチュッとキスされた。
「っっっっ!!!」
声が出そうになったけど我慢したけどキャサリンは逃がしてくれなかった。
ギュッと頭を抱きしめられて、何度も何度も耳元でキスされて・・・
もう、恥ずかしくって、気持ちよくって、愛しくて。
俺もギャサリンをギュウって抱きしめてた。
すっかり薄暗くなった学院長室で、俺達は上着も羽織って、でも離れられなくて。
ソファに並んで座って、俺の肩にキャサリンが頭を乗せて、俺はその頭に顔を預けて。
手をギュウっと握って寄り添って触れた肌がまだ火照っていて、それも愛しかった。
「なんだかもう動きたくなくなっちゃった。このままずうっと離れたくないよ」
キャサリンが、クリクリと俺の顔に頭をこすりつけながらつぶやいた。
愛しくってせつなかった。
「俺も」
「うん」
1時間もふたりで肌を寄せ合ってボーッとしたり思いつくままにキスしたりして。二人で手をつないで学院長室を後にした。
寄り合い馬車の乗り場まで来てもそれでも離れがたくって、二人でせーので声を掛け合って強く握った手を同時に離して別々の馬車に分かれた。
前世も含めて初めて俺が大人になった日が終わったんだ。




