第60話 拒絶2本
俺は王宮から馬車で帰路についた。
またもや副司令官のジンに送ってもらって。
さすがに今回は何事もなく魔法学院へと到着したのだけど。
じゃあまたなとジンに挨拶して馬車を見送ろうとしたところで御者があわてて飛び出してきた。
「お忘れ物ですっ」
何だろう?ロットも聖剣も持ってるけど。
それ以外に俺は何か持ってたっけか?
走り寄って来る御者が握りこぶしを俺の手のひらにのせて開くとそこには紙片がひとつ。数字と記号だけが書いてあって言葉は何もない。
暗号?
「あなたが直接いらっしゃるときは聖剣をお見せください。近衛兵の誰でも結構です。郵便やメモを言伝る場合は宛先にこの暗号をバラして書いてください。優先的に私に届きます」
深くかぶった軍帽のひさしを上げるとそこにいたのはシュタイン近衛隊長だった。
さっきまで控えめで主張のない御者だったはずなのに、やり手の隊長の顔が一瞬だけ。
「あんたのことジンは知ってるのか?」
「私の本当の名前と立場を知っているのは先ほどの部屋にいらした方だけです。ジン副指令にはたまに仕事を手伝っている下っ端の兵士というだけでしょう。それでは御武運を」
ただ忘れ物を届けてくれて挨拶しただけ、のように離れていくシュタイン。
帽子を深くかぶりなおすと近衛隊長の気配はすっかり消えている。
「なんだアレ。変装ってやつか?」
俺の知らない世界、普通に生きてりゃ関わることがない世界を見てしまった。
特殊メイクみたいに顔の形を変えなくても。雰囲気とか表情とかだけでもプロがやるとわかんねえ。
侯爵邸に戻って眠りたかったけど魔法学院の様子だけは確認しておきたい。いよいよ俺にまで手が回り始めてるのだから、シャルロットと近い場所にいた方がいい。
キャサリンの教授室で昼寝させてもらおう、なんて校門をくぐろうとしたところ。
バチッ!
バチッ!
胸元のロットと腰の宝剣が同時にバチバチと音を立てた。
ん?なんだなんだ!?
宝剣からの放電じゃなくて、この2本が弾かれてるってか攻撃されているように激しく音を立てた。
『この学院に張られている結界が防壁で弾こうとしています。2本は排除の防壁に対抗しています』
「そういえばこの学院の規則で危険な武具の持ち込みは禁止だったよな」
『結界という魔術の構造で内側からは容易に崩せるための対策でしょう。もちろんこの程度の結界に干渉されてどうかなる2本ではありません。ですが意思を持っていますのでそのうちブチ切れると思われます』
ブチ切れるってそんな・・・いやまあそうだよな。
やっかいなのはその矛先オレってところ。
「め、めんどくせー!なんか手はあるか?」
『結界の張り主に2本が通過できるよう結界を再構成してもらえばよいでしょう。一時的な対応としてはあなたがこの2本の表面に魔法障壁を展開すれば保護できます。どうやらカンシャク娘がブチ切れ寸前のようです一声かけてあげた方がいいでしょう』
腰の宝剣が今にも魔力を放出しそうだしかもこの結界を破壊する気まんまん!?
柄に埋め込まれた宝石がすべて赤く染まって点滅して煙が出てまるで爆弾のカウントダウン中。
<魔力障壁>
<対魔結界>
俺は手でパンパンと短剣を打ち鳴らして正気に戻す。落ち着けってば。
「気付かなくて悪かったよ次からは大丈夫にしとくから」
ロットの宝石は薄暗く光り宝剣の宝石は薄く赤くとどまったままだ。
<力の顕現>を使ってないのにコイツラが言ってることがわかる気がする。
[頼むぜ本当によぉ]
《次はこの結界を破壊してやるわ》
わかった、わかったから。一本物騒だな。
今晩帰ったら二本ともきちんと手入れするからそれで勘弁してくれよ。
一応学院長室に行ってみるかな。
キルリスはさすがにいねえだろうけど、代理の人にでも事情を話しておかないと。
こんにちはーしつれーしますー
ガチャン。
「うわっ、いたあ!!!!」
思わず声出た。
コイツ最近ワザと俺を驚かせようとしてないか?
キルリスとは王宮で別れて先に俺が帰ったのにどうしてここにいるんだよ。
「あ、あんた、さっき王宮にいたろ!なにやってんだここで!!」
「魔法学院の結界から怪しい反応が2つもはじけたから」
ジトリ。
目が語ってる。
お前どんだけ俺の仕事増やすんだって。
でもさっきまで王宮にいたじゃんよ。
「どうやって先回りしたかって?話は簡単さ、私は君みたいに絶妙な重力操作を操って空を飛べる偉大な魔法使いと違う平凡な魔導士だからね!この場所に向けてロケットのように風魔法で自分を打ち込んだだけさ!!着地前に眠くて意識が飛びかけてあやうく地面に突き刺さるところだったけどね!!」
そ、そりゃあ一瞬で着くよな。
随分イヤミ言ってくれるけど、これって俺のせいか?とは思うけど。じゃあ俺のせいじゃない、って言い切るのもちょっと違うか。
「なんかわりいな、頑張ってくれて」
「しかたないさ、総司令やワタシより強力な『か弱い』学生を守らなきゃいけない王命だからね!いい加減になんとかならないのか?」
「それは王様に言ってもらわないと、俺はただアンタらに連れて行かれて受け答えしただけだぜ?」
「キミを守る対応はガイゼルと対応中だから決まり次第話をする。少なくとも王国軍、魔導士団、魔法学院はキミが安心できる場所でなければならない、と二人で一致したところだ。そんな打ち合わせが終わる瞬間に魔法学院の結界に異常が出たのだからヘロヘロでも死ぬ気で飛んでみせるさ!なんなのだい明らかにキミ絡みだろう?」
「ロットと宝剣が学院の結界と反発しちまったみたいだ。今は俺の障壁で包んでるから大丈夫だけど、なんとかなんねーか?」
キルリスは無表情で頷いた。
俺のせいとも自分のせいとも言えない感じだろうなあ。
「わかった明日の朝までになんとかしておく。本当は強力な武具は持ち込み禁止だけど、その二つとも王様から託されたものだから学院長権限で特別に許可を出しておく。しかし絶対に面倒くさい貴族がなんくせつけてくるのが目に見えてるからホント面倒くさい。王様からの依頼だからキミも何か言われてたとしても放っとけばいいぞ」
キルリスは昨夜も一晩中俺をまもってくれてたしさすがに疲れているようだ。
そしてどうも俺がいると仕事が増えるみたい。
「今日はなるべく早く帰るようにするからよ。そっちもゆっくり休んでくれよ、な?」
「キミが無事に帰った後に王宮に戻ってガイゼルと今後の詰めを打ち合わせをして、夜中に誰もいなくなる頃に学院に戻って3時間ほどかけて魔力を振り絞って朝までには再度結界を構築してみせるさ。か弱いキミがゆっくり休んでるころにね!」
もちろん明日も王宮とココで仕事だけどね!とイヤミったらしく付け加える。
うるさい。
ほんとーにうるさい。
そしてくどい。
これでも感謝してるから我慢できてるけど。そうじゃなかったらとっくにバックレてる。
まあ疲れきってブチ切れしてんだろうけど、自分が守んなきゃいけない相手なんだろ俺って?
それだけフィフティな関係だと思ってくれてるのはわかるけど。
魔力探知でキルリスを確認するともう魔力もスカスカで生命力の炎も随分小さくなって薄くなってるから、体力も限界に近いんだろう。どう考えても守ってもらわなきゃなんねえのはコイツの方だ。
それでも王命のためにここにいるのは責任感ってやつか?これ。
おれも3割ほどしか魔力がもどってないけどこのおっさんより随分マシだ。
「なあ?俺が横でみててやるから一休みしとけよ」
倒れられても目覚めがわりいしな。
そう思って声をかけたら呆気にとられた顔された。
「守る対象に見ててもらえっていうのかい?」
その守る対象にコレだけ文句言っておいてどの口が言うのだか。
頭の中ぐちゃぐちゃなんだろうなあ。ここはオレが広い心で面倒みてやる。
「今は俺の方が魔力も戻ってるだろ?俺も何かあったらまたあんたを頼っちまうだろうし。持ちつ持たれつでいいんじゃねーの?」
「そうはいってもこっちは仕事だしな」
「まあいいから、いいから」
俺はキルリスの方へ寄って後ろからヤツの頭を両手で挟んだ。
振り向こうとするけどその前に力を籠める。
「おいおい何をするつもりだ?」
「こうするんだよっ」
パチンッ
意識を失うくらいの軽い衝撃を流すと一瞬でキルリスは気絶した。
ソファに運んで上着をかけてやる。
目の下に隈がクッキリと浮いて、死んだように眠ってしまった。
おっさんはこれだから体力ねえな。
ガキの体の俺も人のことはいえないけど。
眠る間くらいは守っておくよ。
昨日は俺で今日はキルリス、まあお互いさまってことで。
俺は寝ているキルリスのソファの向かいでロットや宝剣を磨いたり、学院長室の本棚にあった「爆撃魔法の構築理論」なんて面白そうな本をめくったり。
いつのまにか俺も寝落ちしてしまっていた。




