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第58話 呪詛返し

「なあユーリ?なんだかさっきからバチバチしてるのは何なんだ?」

「お転婆娘が・・・おっと」

バチッ、と短剣がまた跳ねた。


「その宝剣だよな?宝物管理してたメイドたちの噂話だと壁に飾ってある呪われた短剣が深夜にバチバチ音を立ててるっていってたヤツ・・・ぎゃああああ!!!!???」


パチバチバチバチッ!!!!

小さな雷撃がジンに向かって牙をむいた。

周りにも放電できるらしい。俺は魔法結界張ったから痛くないけど。

もちろんジンまで結界張るなんてしない。俺だけ痛い目にあうのもしゃくだから!!!


「おいユーリ!!これもうおまえのだろ!ちゃんとおまえが責任もってしつけろ!!!」


パチバチバチバチッ!!!!

「ぎゃああああああ!!!!!!!ユーリいい加減にしろお前ワザとやってるだろ!!いいからコイツを何とか・・・」


パチバチバチバチッ!!!!

「ぎゃああああああ!!!!!!!」


馬車の中でジンの悲鳴がいつまでも響き続けた。ご愁傷さま。


騒ぎが収まって。


「俺はもうおまえに近づかない。お前からも近寄ってくるな」


あたまがパンチパーマのようにクルンクルンになったジンは俺から距離をとることにしたようだ。宣言された。

「へそ曲げんなって。こいつも根っこはイイヤツなんだから・・・」

「そうなのか?」

「多分だけど。ちょっと希望はいってるけど。だってさっき渡されたばっかし・・・おっと!」

またバチンッとはじけたけども。だんだん慣れてきたぞ。


「それよりも襲撃者たちだ。できれば生きて捕らえていろいろと吐かせたいよな」

「この短剣がドヤってるから大丈夫だろ。ジンは何もせずに見ててくれ。終わったあとに警らのやつらを呼んできてくれればいいよ。魔力は使うけど俺もなんにもしねーから」


どういうことだ何言ってんだコイツ、って顔された。

そうだよなあジンにはこのジャジャ馬の声聞こえてないもんなあ。

「何にもしないってどういうことだ?」


いる。

50メートルくらい先に10人。


「一回攻撃を受けないとせーとーぼーえーにならないよな?」

俺はズカズカと暗殺者たちの方へ歩いて向かって行って大声をだした。


「おいっおまえら!いるのはわかってっからさっさと出てこいっ!」


ガサササッ


草むらがザワめいて一斉に矢が飛んできた。


「ジンは俺の後ろで見ててくれ。証人ッてやつだ」

「いいけどよ、これ剣で払ったりしなくていいのか?」

剣を抜いたジンを手で制して。

「まあ見てろって。総司令が突破できなかった俺の魔法障壁にこんな矢が届くと思ってるのか?」

矢が大きく弧をえがきながら確実に俺達に向かってくる。

ご丁寧に矢が黒色に染めてあるからどこぞの暗殺者だろう。闇夜だと剣士でも目でとらえるのは難しい。


ガインッ!ガインッ!ガインッ!


「確かに狙撃されたよな?いい腕してる」


俺は拾い上げた矢をジンに見せて、襲われている状況をハッキリさせる。

「じゃあ頼むぞ聖剣ソアラ!!!」


高くかかげた聖剣は一瞬ピカリと光り魔力を放出。


ザワッ・・

ザワザワワッ・・・


暗殺者たちが隠れている草原の草が、ザワリザワリとすれあう音が大きくなっていく。


ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ!!!!!


突然大きく伸びた草がいっせいに暗殺者たちへと巻き付いて拘束し、逃げられないように何重にも絡みついていく。


ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ!!!!!ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ!!!!!ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ!!!!!


「うわ、うわああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

いきなり足元の草に絡みつかれ、止まることなくグルングルンと何重にも拘束されていく暗殺者たちが恐怖の悲鳴をあげる。


「あああああぁぁぁぁっぁっぁ・・・・・・・」


そのうち口まで塞がれて声もしなくなった。


静かになった街道に長い草が何重にもまかれた人型の繭のような塊がゴロンゴロンと転がっている。

その数10。


「なんだかメッチャ怖いんだけど。なあユーリこいつら生きてんのか・・・?」

ジンがボソリつぶやいた。


《アタシのやることに死角なし!!指一本動かせないし、空気だけは死なない程度に隙間を空けてあるわ!でもあんまりほっとくと死んじゃうからそのつもりでね!!でもどうせ悪人なんでしょ?》


やっぱりエルフとか精霊とかは超適当だわ。

俺は周囲の騎士たちに声をかけておいた。

「どうやら長いこと放っておくとコイツら死んじまうらしいので。対応お願いしていいですか?」




馬車の行者(の騎士)にお願いして、こいつらを連行する人手と馬車を派遣してもらう。

俺とジンは見張りだ。

こいつらガンジ絡めで逃げらないけど、こいつらが死なないように見張っている。

なんだか手間増えてねえか?


《大丈夫大丈夫、1時間くらいは持つから》


「なんだか1時間くらいしかもたないようですけど。馬車は戻ってこれますかね?」

「なにせもう夜中だし馬も寝てるしなぁ。幸いに司令官も魔導師団長も詰所にいるハズだから即座に対応してくれるとは思うけど。あの人達も忙しいからコレばっかりはなんともだ」


首をふるジン。そりゃそうだよなあ。


「その司令官も魔導師団長もバカガキが大暴れしてくれたおかげで大忙しみたいだけどね!!」


うわわわああああっ!


後ろから大きな声をかけられてビックリ振り向くとキルリスが突然出没しやがった!いきなり話しかけてくんなよっ!

怪しい声がでそうになったじゃねーか!


「な、なんだよ、いるならいるって一声かけろよ!!!ビックリするだろ!!」


キルリスはゴロンゴロンと草のマユが転がってるのを見るとあきれた声を出した。


「これなんだろう?どうやったんだい?見たところロストマジックどころか人間が使う魔法じゃないけどね。エルフが使う精霊魔法にしか見えないけど」


「い、いや、今日もらった宝剣がひと暴れしたがってて、魔力貸したら、まあ、なんっつーかこーなったっつーか」

俺のせいじゃないぞ多分。


聞いたキルリスは本気で頭痛そうに抱えた。

回復かけてやろうか?


「回復なら、そういう当たり前の魔法なら自分でかけられるから結構だ!!それにこの頭痛は誰かさんのオイタによる精神的なものであって、肉体的な痛みではないから回復をかけても治ることはない!」


キルリスの癇癪がおさまったころで軍の馬車が何台も到着した。

随分早かったな。これならコイツらまだ生きてるだろ。


戦闘の馬車から降りてきた軍人がビシッと敬礼して声をかけてくれる。

「ユーリ殿おまたせしました!!賊はどちらへ!?」


は?ゆーり、殿?


「え、ちょっと。オレって殿?」

「ああそうだったキミは国王から演習の教官に任命されたのだった。軍の中では彼ら衛兵よりキミの方が上官なのだった。なぜか魔導士のキミが魔法師団ではなくて王国軍の中で!!」

いちいち突っかかるなよいい大人のくせに。


「おいユーリこいつら放っといていいのか?なんかさっきからピクともしないヤツもいるけどよ」

「スミマセンこのマユみたいなヤツラですけど、口のまわりに空気穴をあけてやってください。死んじゃうので」

やってきた兵士達が慌てて周りに声をかけて、ナイフで口の周りを開け始めた。

「あ、顔まで切れちゃった」と声が。

こんなにグルングルン巻きじゃどこに口があるかなんてわかんないっすよ。気にしない気にしない。

俺が回復で直しておくのでジャンジャンやっちゃってください。なんせこっちは命狙われましたから。それより。


「尋問お願いします。雇い主を聞き出してもらえると助かります」


俺が声をかけるとキルリスも軍人さんたちも残念な顔をした。

「多分ムリだろう。暗殺の依頼を受けた時点で魔導の「沈黙の契約」を結んでいるハズだ。喋ろうとすれば脳が焼き切れて死亡する。暗殺者たちは仕事を受けた時点で依頼主とこの契約を取り交わすかわりにごっそり前金を受け取っているハズだ」

相手がわからなければ俺は今後も狙われ放題、ってことになるのか。あやしいヤツに検討がついても証拠がない。


「暗殺は強硬手段に出た貴族たちの最後の手段だ。あからさまに怪しくても絶対にシッポをつかませない。明確な証拠さえ残さなければ権力でいくらでもモミ消せるからな」


[なあ?]


ロットの呼ぶ声が頭の中で響いた。

「どうした?今たてこんでるんだけど」


[おまえが俺を使えばその契約突っ返せるぜ。反呪の法だからこいつらがゲロったら跳ね返った契約者が死ぬけどいいよな?]


OKに決まってる。

人を殺そうとしておいて自分は高見の見物ってのは気にいらない。自分が死ぬ覚悟もできてるだろうし俺が直接殺すわけじゃないからな。


きっと今の俺は悪い顔で笑っている。

短剣を鞘におさめてロットを懐から取り出した。


[あんな精霊魔法しか使えない短剣より俺の方が役に立つからよく憶えとけ、今回は闇魔法で呪詛の方向をいじるから神が定めた領域に手をだす話だ]


《ちょいとアンタ、アタイに喧嘩うってんのかい?》

どうどう。ステイ!

話が進まなくなるから宝剣さんはちょっとお静かに。


「できるのか?それにやっていいのか?」

先生に確認。これで俺の頭の中フルメンバー勢ぞろい。

話が交錯してて何がなんだか。

そうくるなら俺も言いたいことを勝手に言うことにするぞ。


『<力の顕現>を使用したあなたの闇魔法レベル650をこのロットは1000まで引き上げます。神々が使う魔法の入り口レベルですが人間の使用する契約程度は神の聖名のもとに吹き飛ばすことが可能です。そして』

「うん?」

『まあここまで来ているのですから今更躊躇してもしょうがないでしょう。あとはお考えください』

「いつも通りか?」

なんだかやけに言葉が丁寧というか優しく響くけど?

『いつも通りです。なお発動後は魔力が空になるため周囲に保護を求めておいた方がよいでしょう』


俺の頭の中っていったいどうなってんだ?

これだけのいろんな声がただの想像だとすれば俺って完全に頭おかしくないか?

<力の顕現>のおかげだろうけど混線した会話全部の意味を受け止められてる。頭の回転速度上がってる。


「頼んだぞ」


俺はロットを掲げて力の顕現上で魔法を発動させる。

ロットの魔石が強く輝いて杖が今にも破裂しそうにビリビリと震える。


<闇魔法>

<契約破棄>


ゴウウウウウウウゥゥゥゥ!!!!!


辺り一面に突風が吹き荒れ、夜の闇よりもっと深い暗黒が渦巻く。

繭になった暗殺者たちから黒いオーラが煙のように立ち昇る。


<反呪っ!!!!>


バウンッッッ!!


暗殺者たちからズボンッ、と黒く深い闇の塊が突き抜けると渦が一瞬だけ開いた。

ギュウウウウウンンンと周囲に魂が引き抜かれる衝撃が走って、暗い塊はあっという間に飲み込まれていった。


「ユーリっおまえ今何をやった!!!!!」

キルリスの声が遠くに聞こえて。

そして俺の魔力は一瞬にしてカラッポになった・・・


意識が消えそう、・・・いや、まだ、ダメだ。

俺はキルリスへ倒れ込んで抱きしめてもらうと耳元で伝えた。

もう声がほとんど出ないのだからしょうがない。


「こいつらの「沈黙の契約」を反呪してやった。もうゲロっても死なないけど喋らせたら呪いの契約主が死ぬからそのつもりでいてくれ。それともう魔力がスカスカでなんにもできねえから目が覚めるまで守ってくんねえか・・・頼む」


言わなきゃいけなかったことを必死で言い切って俺は意識を手放した。

暗転。


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