第57話 宝剣
夜も更けてきたので軍の詰め所をおいとまする。
帰りは軍の馬車で送ってもらうことになった。
キルリスは魔導士団の会議で抜けられないらしい。俺のせいじゃないよな?
「つかれた、わ、ホントに」
「いろいろ司令官から聞いてるぞ。大変だったな」
送ってくれる副司令官のジンはもうすっかり顔なじみだ。
貧民街を案内してくれてから二人の時はこの口調。
今日は王宮で国王と面会してから模範試合でその後はパーティ、宝刀も下賜されたから主賓扱いだ。国の宝を運んでるから副司令官が送ってくれる。
「貴重品って言えばそうだよなコレ」
俺にとっては飾りのついた短刀?
シャルロットの守護者として王様から認められた証明、でもあるか。
盗まれないようにしまっとけばいいのか飾っておけばいいのか。
「その宝刀売れば死ぬまで食うに困らんらしいぞ。買えるだけの金を出せるヤツがいればだけどな」
「あつっ?」
あれ?
なんだか宝刀を握る手に痛みの感覚が走った。
「宝刀に嫌われちまったらまずいからな。今のは冗談だ」
ただの冗談なんだろうけど。
なんだったんだ今の痛みは?
「今度は俺とも練習試合につき合ってくれよ。総司令ほどじゃないけど俺でもまともな相手がいねえんだ。体力は鍛えられても実践の勘とか磨けなくて」
王国軍のナンバー2なら上には総司令しかいないし、総司令と副司令が訓練場で気軽に手合わせもできないだろう。
「いいぜその代わり俺にも剣術教えてくれよ。近接戦闘もできるようにておかないと、いざってなると手が限られるし」
「よっしゃお安い御用だ取引成立ってわけだな!!」
「ところで悪いけど馬車止めてれねえか?」
「なんだ?小便か?あんまり夜道で馬車止めるのって狙われやすいんだぞ?」
「もう狙われてる。もうちょい行った先で草むらに10人くらい潜んでやがるぞ。矢で狙われてるから馬を殺されたくないだろ?」
「おい、ちょっと止めてくれ!」
行者に声をかけると馬車はすぐに止まった。
「ジンは馬車を守っててくれねえか?俺ちょっと行ってくるわ」
「おいおい?俺がココにいる理由わかって言ってる?」
「・・・話し相手?」
ガコン、と頭殴られた。
「お前を守るためだよ!!お前の方がオレより強いってあの場所にいた全員わかっちゃいるけどな!」
「でもよお」
「でももへったくれもねーんだよなんかあったら俺のクビが飛ぶんだよ、お前がひとりで片づけても俺は一晩中説教されるんだよっ!それに馬車の行者は目立たないように普通の服着てるけどうちの騎士だからな!見えないように帯剣してるだけで、丸腰でもなんでもねえから馬車くらい守れるぞ」
「それならいいけどよ。じゃあ一緒にいこうぜ」
さてどうすればいいかな?
金持ちの馬車を狙う強盗ってわけじゃなさそうだ、わざわざ王国軍の馬車を狙う命知らずはいない。
なら狙いは宝剣なのか俺なのか?
「いてっ!!」
まただ!また宝剣からバチンッと電流みたいな痛みが。
なんなんだ静電気かこれ?
パチパチパチッ
「あたたたたたたた、あったー!!!!!!!」
連続の痛みが止まらない何なんだよいったい!!
包んだ布をめくると短剣の柄に埋め込まれた宝石がいくつもキラリキラリと灯りを反射する。
そうこなくっちゃと言わんばかりに。
絶対にコイツだ自己主張してやがる!
柄からゆっくり剣を抜く。
さすが王宮に保管された宝刀だ。刀身には俺の顔が映るくらいピカピカ・・・って、映ってるの俺の顔じゃない!!
なんか女の顔!!!
何も見なかったことにしよう。
パチンと刀を柄に戻した。
今はコイツにかまってる場合じゃない。
襲撃者たちもコチラの馬車が止まったことに気付いているハズだ。
短剣を置いていこうとした、その瞬間
パチバチバチバチッ!!!!
連続して電流が流れるような痛みが、痛い、痛い、痛いっつーのテメエゴラアアアいい加減にしろよ!!!!
『もうおわかりでしょうが連れていけと言ってるんですよこの刀』
先生これってなんなんだよ!
嫌がらせする短剣なんていらないんだけど!それにさっきの顔!!
「これダメだろ!なんか女の霊に取り付かれてるぞ!!」
パチバチバチバチッ!!!!
再び電流攻撃。
コイツってもしかしてしゃべってることわかってる?
だったら。
「なんだか激しくお怒りのようですが?連れていけってことですか?」
短剣に向かってしゃべる危ないヤツな俺。
でも正解だったようだ、瞬間に放電がやんで宝玉がキラリキラリと輝いた。
「でもな?あなたは宝刀なのだから、見たり飾ったりする為のもので武器じゃないでしょ?」
短剣をやさしく説得?シュールだとか気にしたら負けだ。
パチバチバチバチッ!!!!
い、痛いっつーの!!
もうコイツ本当に。
「面倒なんだけど?」
『ロットと同じでは?<力の顕現>を使用した全盛期のあなたならインテリジェンス・ソードと意志を交わすのは簡単です』
「い、インテリ・・?ってなんだ?」
『意思がある剣です。模擬戦で使用したロットも同じ考えで問題ないでしょう。日中の<力の顕現>の消費が短かったため今でも対人魔法なら1時間は使用可能です。外で狙っている相手程度であれば魔法消費は一瞬でしょうから一晩中宝刀のお相手をしても問題ありません』
「怖いこというなよ。俺はさっさと帰って寝たいんだけど?」
『ならば経路を換えて逃げてしまう手もありますよ?しかしどの道・・・』
パチバチバチバチッ!!!!
『随分としつけの悪い宝刀ですね。さっさと短剣のご主人様が話をつけてください』
プツン。
切れた。
逃げやがった。
こいつ逃げやがった!
<ち、力の顕現>
《やっとつながったーーーーーー!!!!!!!!!》
わっ。
声デカイって。
耳、ないなった。
《ちょっと、ちょっと、ちょっとあんた!!行くわよ悪を殲滅するわよ、ひっさしぶりーーーーーっ!!!!》
[ちょっと待て、俺を使うのが先なんじゃねーのか?昼間のちょぴっこな戦闘で終わりってそりゃねえよ。なあそう思うだろう?]
短剣の女だけでもうるさいのに、意志の疎通が可能になった瞬間からロットの声が言いたいことをかぶせてくる。
ちょっと待てオマエラせめて順番にしゃべれ。
会話をカブらせるなってワケわかんねえっての!
《あんたなにもの?アタシのことわかってて言ってんの?ねえ?》
[おまえこそなんだっつーんだ、こっちは10年もじっと耐えてやっと今日久しぶりに暴れられんだぞ?]
《へへーんだ。たった10年でよくそんなこと言えるわね!ワタシなんて50年よ50年、その間ずーーーーっと蔵みたいなところで飾られて、たまに手入れされても話相手なんかいないし、わからせてやろうとしたら呪われてるとかじゃじゃ馬とか言われるし!!!!誰も寄ってこなくなっちゃって、もうヒマでヒマで、この鬱憤がアンタなんかにわかるっての!?ねえ!?》
あー、・・・。
そりゃ気を引こうと電撃打ってたら近づくヤツはいなくなるわな。
やかましいから放っておけばよかったのに、聞いてしまったからもう俺の負けだろコレ。
《なに?なんか文句でもあんの?行ってごらんなさいこのお姉さまに!!》
頭に現れた姿は今の俺の実年齢よりちょっと上?くらい?
それなら前世と今を通算した俺よりガキンチョだな。
《ムキーーーーーッッッ!!!!よく見なさいよアタシを!!あんたの何十倍生きてると思ってんのよ!!!》
『エルフの魂が短剣に宿っています。エルフは幼く見えますから推定500歳~1000歳というところでしょうか』
いやざっくりしすぎ。先生やる気が感じられない。
500と1000は数が倍だぞ。
《え?あれ?ナニあんた神様と会話してるけど何者???》
それは俺がアナタに聞きたいのだが?
ひとまずロットをひと撫でした。
「いっかいコイツ使ってみるからよ。なにかあったら頼む」
ロットはもう何もいわず宝玉が鈍く光っただけで気配が煙のように消えて収まった。
宝刀を抜いてももう顔は映らない。
かわりに俺の頭の中で十代後半くらいの女がプンスカしながら俺に文句を言っている。たしかに長い耳がエルフだ。
言われた通りにグッと柄を握ると今度は電流ではなく大量の情報が流れてきた。
この剣の特性と注意事項?
注意事項、取り扱いが気にいらないと電流が流れますって。そういうことは先に言えよ!!!




