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神様に辿りつく少年  作者: 水砲


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第55話 晩餐会

「主賓のお二人は今しばらくこちらでお待ちください」


王宮の大宴会場の裏の控室。


俺はさっきまで模範試合で戦っていたガイゼルと向かい合ってお紅茶なんぞ飲んでいる。

この無骨なおっさんに白いティーカップの紅茶って全く似合っていないけど口に出さないのがお約束だろう。手が大きすぎてカップがミニチュアにしか見えない。


「久しぶりにいい稽古になった」

音も立てず上品に紅茶を飲む武人がこちらを向いて感想を述べた。

「まさかこの俺が手も足も出ずにやられるとは。世間は広いな」


「俺から言うと誤解されそうなんですけど」


せっかくの機会なので思ったことを聞いてみることにする。

勝った俺が言うと上から目線みたくとられちまうかもだけど、ガイゼル総司令官の動きは人間を超えていた。


「俺達魔法使いは感知するスキルで起こっていることを感覚的に知覚して対応します。ですがガイゼル司令官の反応は、少なくとも俺以外の魔導士の感知スキルを大きく超えてます。どんな鍛錬を積めばそんなことができるのでしょうか?」


なにせ毎秒20発の魔球が死角死角をついて襲ってきたのだから。攻撃が直線の軌道上にあるのなら一気に振り切れても、俺は当然あらゆる方向から、そして振り切る大剣が流れる逆へ逆へと魔球を打ち込んでいた。

この人はコンマ1秒以下の世界で、剣を折り返して魔弾を叩き落し続けたのだ。俺だって新しいロットの反則的な感知スキルで捉えていたのだから鍛え上げて対応できる速度ではない。


「俺はおまえにとても興味をもっているが、お前も俺に興味をもってもらえたようだな。この話の続きはまた練兵場でやろうではないか。俺は『自分が避けることができない攻撃をする男』に出会ったのは十年ぶりだ。一度攻撃を見せられて命が残っているのだから乗り越えるよりほかに術を知らぬ」


そういえば俺は神様のおかげで剣術や武闘術なんかもレベルが優遇されるのだった。

この人を参考にしたらすごいことになる。


「ぜひよろしくお願いします」

「ならば今度使いを寄越すことにしよう、おっと時間だな?」


この人はやっぱり俺の感知に近いレベルのことを生身でやってる。

司会者からの指示で案内役がこちらに向かって歩いて来ているのを察知したのだろう。

随分遠くにいて人込みに紛れているけど。


「そこまで魔力感知できるのに自分のことはわからないとは、まだかわいいものだな」


ガイゼルは俺の方へ向き直って襟元を正してくれた。

俺の顔のすぐそばでは無骨な男の手が繊細に動いていた。


「ありがとうございます。でも魔力探知では襟元まで確認できません」

「そうか?なら意識しておくといい。これからお前は少なくとも俺と同じくらいにはこういう社交場に出ることになるのだろうから」


ちょっとだけ面倒臭そうに話す総司令官は、顔は怖いし体ごっついけどいいヒトに違いなかった。

「一緒の際はお願いしますね」

「何をだ?」

「面倒くさそうな貴族から逃げて司令官の影に隠れておきますから」

俺がいったことがさぞや面白かったんだろう。

総司令官は楽しそうに笑った。

「ああ、そうするといい。俺は体だけはでかいからな、お前みたいな子供が隠れたら誰からも見つかることはあるまい」


「それではよろしくお願いします」

メイドさんに案内されて、会場の扉が開かれる。


会場の中では。

着飾った貴族たち、色鮮やかな料理、きらびやかな装飾、楽団の演奏・・・

俺の想像した通りの貴族のパーティがそこにあった。


「本日の模範試合の闘技者であるガイゼル王国軍総司令、およびエントラント家ご令息ユーリ・エントラントの両名がご入場です!!」


御貴族様たちは物めずらしい動物でも見るかのようにジロジロと俺達を眺めて形ばかりの拍手をした。

国王主催のパーティでなければ俺達のような野蛮なヤツラは相手にしたくもない。そんな感情が見え見えだ。


「まるで見世物小屋の動物ですね、俺達」


「お前はまだいいさ、いずれあっち側だ。俺は死ぬまでこっち側だな」


王国軍の総司令だから侯爵家待遇はされているだろうけど、純粋な貴族じゃないからやはり蔑まれたりするのだろう。


「俺はあんな風にはなりませんよ」

「そう願いたいがなったところで俺が責める筋合いではない。お前はお前の道をすすめばいいだけだ」


小声でボソボソと気づかれないように話する。

どうせコイツらからすれば軍人や魔導士なんてモルモットだ勝手にやらせてもらう。


続いて王族が入場。国王が玉座にすわったところで俺達は王の前に案内される。


「本日の模範試合大儀であった。我が国の最高戦力の実力を大いに堪能させてもらったぞあっぱれなり」

「ははっ。ありがたき幸せ」


俺はガイゼルと膝をつき王の前で礼を述べた。

もちろん俺はガイゼルのマネっこするだけなんだけど。


ガイゼルは俺の方を向くことはなかったけど、わざとらしく動作の動き始めをハッキリと示してくれた。おかげで次に何をしようとしているのかわかりやすい。

それに「これだけやればおまえならわかるだろう」と言われてる気がして、認められた気がしてちょっと嬉しかった。

さすが軍のトップだな人を導くのがうまいな、なんて素直に尊敬できる。どこかの魔法師団長もぜひ見習ってほしいところだ。


「勝者のユーリ・エストラントよ、何か望みはあるか?おぬしは魔法学院の学友として第二王女シャルロットも世話になっておると聞いておる。何なりと申すがよい」


なにげにシャルロットとの関係を匂わせたのは予想とおりだけど。

へ?望み?

聞いてないぞ。


こういうときの褒賞ってなんだ?

爵位?領地?金?

でもたかが模範試合じゃあそんなものくれないんじゃねえの?


ガイゼル俺を導いてくれ!

俺はすっかり頼りにしているガイゼルの方をむくと。


この堅物のおっさん、下を俯いたままこちらに少しだけ顔を向けて歯をだして笑っていやがる!!

王様のイタズラがツボに入ったらしい。

返せ、俺の純情!!じゃなくて俺の尊敬!!!


やってやろうじゃん。王様もガイゼルもいるんだ、無礼に受け取られても最悪はケツ蹴られてこのパーティから追い出されるくらいで済むだろ。

こっちはこんなパーティなんて出ていたくないのが本音だ帰って寝ちまおう。

料理だけはちょっと美味そうだけど。


「せっかくおっしゃっていただいたのに何も申し上げないのも無礼かと思いますので」

「申してみよ」


「私の望みは二つっ!」


周囲の貴族がザワザワとする。


「二つ?これだからガキはわかってない」

「あつかましいにもほどがある」

「エストラント家の教育が知れるわ」


よく聞こえるし感じる。

俺に対する悪意の波動をダイレクトに頭へ響くよう方向操作しているから。

これって「地獄耳」だよな?おかげで俺をなめくさった大多数の貴族と、面白がってるほんの数人が選別完了する。

王族は、王と王妃は面白がっていてシャルロットが慌てている。

第一王子は気にいらないようだけど第二王子は興味をもって身を乗り出した。


俺はわざと大きな声で口上を述べるように高らかに宣言する。


「一つ!私は今日の試合でガイゼル総司令のすさまじい技巧に感嘆いたしました!このご縁を今回限りとするにはもったいない!!私が王国軍に自由に出入りする権限をお与え下さい!!」


貴族たちは俺がどんな金銀財宝を望むかと思ったのだろう。

なんだそれ、って肩透かしを食らったような感情が流れてくる。


「よかろう。とはいえ模範試合に軍の外部から参加したものは訓練講師として招くのが既定路線である。これでは褒美にならんじゃろう?」


国王がわざとらしく言葉を繋げる。

欲しい物を二つくれといったのに結局望みは次のひとつだけとになるように。


「それでは二つ目として私の研鑽してきたこの魔法を。第二王女であり私の学友でもあるシャルロット様を守る際にふるうことをお許しくださいっ!」


「ふええええ!!!???」


真っ赤になったシャルロットがガタンと椅子から立ち上がって、王妃からジロリと睨まれてまた座った。

上気した顔がニマニマと緩んで下を向いてる。

喜んでもらえてよかった。

たったひとりでクソ貴族たちと必死に戦ってるようなツレを見捨てたりしねーよ。


王はしばらく逡巡していたようだけど重くなった口を開いた。


「それは大変ありがたいことじゃ。ガイゼルに勝利したことでお主が王国最強を名乗ろうと文句を言えるものはおらん。そんな強者がわが娘の後ろ立てとなってくれると申すのか?」


何人かのご婦人がこそこそと


「どうして?」

「どうして?」

とワケがわからず聞き合っている。

ほとんどのヤツは王女が狙われたことを知らないのだから。


何人かの貴族たちが、口には出さないけど苦虫を潰したような顔をしてやがる。

第一王子派のヤツラだ。

ざまあみろ。


俺はハッキリと宣言してやる。


「仰せの通りです」


「ふむ。それはワシの方からお主に願わねばならぬことじゃ。シャルロットを守る役目、存分に行うがよい!!!」


貴族たちからは、おおおおおおお、と感嘆の声が響く。

次期のエストラント侯爵が第二王女シャルロットの後ろ盾となる。

これまでの王子王女の中で最も優秀であると噂されながら、政治的な後ろ盾のなさで王位レースから遠ざかっていた第二王女が初めて手にした武力と、そしていずれ手にする権力の後ろ盾の誕生であった。


シャルロットを見ると、椅子に座って俯いたままポロポロとこぼれる涙を拭っていた。

手の甲でグシグシと拭ってるから目元のお化粧がとれてボヤけてしまっていたけど、それでもいつも通りの輝いてるシャルロットだった。


「宝剣を持て!!」


王の一声で執事が美しい布に包まれた宝剣を恭しく差し出した。

なんだあれ?


宝剣に気を奪われていると・・・


いてっ!!


なんだか俺デコピンされた??

こんな時に?


キョロキョロ見渡すと横で膝まづいているガイゼルがデコピンを打ち込む指の仕草を俺にしてみせる。

離れてるところから今のどうやったんだ?

指弾ってやつか?今度教えてもらおう。


ガイゼルはまわりに気付かせないくらいの手振りで、前に進んで両手で宝刀をうけとれと言いたいらしい。


俺はしずしずと前に進み出ると王の前に頭を垂れた。


「おぬしに宝剣クラリスを授けよう。お主が正しくことを成そうとすれば、この刃のたもとに王家の印が現れて王命であると証明するであろう!!」


おおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!


今度こそ、会場中が大きな歓声と怒号で包まれた。


「なぜ?」

「なにがどうなっているのだ?」

「あのガキがやりたい放題ではないか!?」

貴族たちの声が飛び交う。


王は片手をあげて会場を静まらせると続けた。


「宝剣クラリスは伝説の武具でありながら正邪を判断する魔道具でもある。聖なる行いをするものには大いに力を与える聖剣であり、邪なるものは抜くことすらできぬ。そしてたとえ事前に抜刀しておこうが王家の印はこの刃には宿らぬ!!」


王は腕を伸ばして宝剣を俺に下賜してくださった。

その上でわざと会場中に聞こえるように、でも控えめな声で俺に話しかけてくれた。


「この宝剣は悪しきものには従わぬ。悪事を重ねるものは呪い殺されこの剣だけがいつの間にか王家に戻って来る。この宝剣が勝手に戻ってこないことを願っておるぞ?」



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