第53話 御前試合
御前試合の開始時間が迫ってきた。
俺とガイゼル司令官は演習場に向かって歩いていく。
演習場への入場が正反対の入り口だから突き当りでお互い逆方向へと別れる。
「なあ、どこまでやっていいと思う?」
『あなた次第でいいのでは?もう決めてるのでしょう?』
最近のナビゲーター先生はこんな感じで回答をくれることが多い。
いいから好きにやれって感じだ。
「ただ人目がなあ。王国軍の偉い人と王様だろ?」
『それだけでなく魔導士団全員にも見られるでしょうね。王女も同席するでしょうし他にもゲストがいるかもしれませんよ。そして見た人間から内容は王宮にも軍にも貴族たちにも知れ渡るでしょう』
「だよなあ。公爵にも目をつけられちまうよなあ」
『そこが狙いかもしれません。この模擬戦は最強の武人と戦闘ができる実力者が王女の後ろ盾にいる、と牽制することが目的である可能性が高いです。利用されていますね』
ああそうだよな。
利用されるのは腹が立つ。
ハズなんだけど。なんだかな。
孤立無援で見えない敵と必死に戦う王女を助けるって決めた時からこれくらいは覚悟していた。
王国に利用される、王様に利用されるってのはイヤなんだけど。王国でも王様でもなくって俺の友達の親父から頼まれちまったしなあ。あの人は自分のために俺へ頼んではいない。
『それすらも王の計算かもしれませんよ?』
「まあな。でも俺を使い潰すつもりならこんなモノくれねえだろ」
俺の手には古びたロットが握られている。
ヘッドの宝玉がキラキラと輝いて、なんだか俺に「大丈夫だ」と言っているようだった。
「なんかもう利用だろうがなんだろうがいいんだよ。それでアイツを守れるのだったら」
『そうですね。利用されたくないというのはあなたのこだわりですから』
「あれこれ面倒くさくなったらバックれて別の国で冒険者でもやるさ。ジョバンあたりと一緒によ」
うまくやれそうなら会場で手を打っておこう。
公爵からのちょっかいにいちいち対処するのも面倒だし、シャルロットに何かあっても困る。
「ユーリさん準備はよろしいですか?」
軍服を着たお姉さんが呼びにきてくれた。
今の俺の「力の顕現」は1時間以上だ。
大規模範囲の核激魔法を使えば別だけど、対人の模擬戦だからそんな魔法を使いはしない。
最盛期の俺が王国最強にどこまで通用するのか胸を借りよう。
勝ち負けは大した問題じゃなさそうだし、強敵と模擬戦できるなんてめったにない機会だ。
「あんまし格好悪い負け方するのもなんだし」
リミット解除だ。出し惜しみはなしだ。
「それではこれより、御前での模範試合を開始する。」
だたっぴろい演習場を囲むように観客席。ローマのコロッシアムとかみたい。
中央の闘技場を覆うように分厚い結界が囲う。
正面の見晴らしよい席には高価そうな布が張ってあるから偉い人達の席だ。
貴賓席に何十人もいるのはおそらく貴族で、それ以外は兵士魔導士に事務方の人もいる。随分とギャラリーが多いぞ。
国王、女王、と並んで二人の青年が座っていてその横にはシャルロットが座っている。
あれが第一王子と第二王子だ。
第一王女はすでに他国へ嫁いでいるからここにはいない。
お姉さんはシャルロットと仲がよかったそうだから、その人がいればこんなピンチになることもなかったのかもしれない。
さらに国王一家の下座に高価そうな服を着てる貴族が何人もいる。
順番からいけば・・・
公爵だ!!
この国には公爵が3人いる。そこに座っている数が合っているし席も王族のものと似て豪華だ。
この中のどいつかがシャルロットを苦しめたヤツだ。
シャルロットと10メートルも離れていないくせして、どいつも興味津々って顔で平気なフリしていやがる。
レーザー・ショットで眉間に風穴開けてやろうか。
『やるとさすがに捕まりますよ』
「わかってるよ、思っただけだよやんねーよ」
『それより集中した方がいいのでは。相手はしょっぱなから全力で戦闘を仕掛けてくる気配ですよ。剣士と魔導士の戦闘では、剣士は素早く距離をつめて魔法使いが魔法を発動する前に制圧するのが王道です』
大丈夫。
よそ見をしても俺の魔力感知は絶えず相手の動きを見張っている。
総司令の鍛え上げられた肉体にはすでに身体強化で腕力、脚力も強化済で力がみなぎっている。今すぐでも全力で飛び出してくる。
エネルギー密度が高くて俺の魔力障壁もブチ抜いてきそうだから王国最強は伊達じゃない。
この人は俺を殺しに来てるぞ。
俺も相手の素早い攻撃に対応できるように、両腕を広げてフワリと体を浮かす。
手のひらで王様からもらったロットが眩しく光る。
コイツやる気まんまんだな。
<力の顕現>
時間制限は無いようなものだ。
しょっぱなから切り札使わせてもらう。
[おいっ]
<魔法障壁>
普段は1枚の魔法障壁を3枚重ねにする。
<障壁発動>
さらに障壁が破壊されたら瞬時に追加障壁を自動発動させる条件型の魔法を発動。
[おいったら、おいっ!]
頭の中に聞いたことがない声が何度も響く。
うるせーな今それどころじゃねえっての、集中させろって!
[なんだ聞こえてるんじゃねーか、だったらさっさと返事しろ!]
バカ野郎!今それどころじゃねえんだよ!!
って。
・・・なんだコレ?
誰だよ、お前!!
なんで先生以外の声が俺の頭に響くんだよ!!!
若造っぽい声が俺の中で響いて邪魔でしょうがない。
なんだっていきなりこんな声が聞こえるようになったんだ!?
[おまえのレベルがアホみたいに上がったからに決まってるじゃねえか]
力の顕現を発動させたから。
って、なんだおまえ!?
ひときわ眩しくロットの宝石が輝いた。
「おまえ、なのか?」
そんなことをやってるうちに審判が大きく手をあげた。
「それでは試合開始!!!」
手が振り下ろされると同時にガイゼル司令官は残像だけ残して俺の前から消えた。
一瞬後にはガンッと激しい衝撃音が響く。
その後は続いてガンガンガンガン、と防御障壁を突破する音が響く。
ガイゼルが事前にはっておいた結界を一瞬で3枚ぶち割って、次から次へと自動で構築される障壁すらも破りまくってる音だ。
すげえぞこの人ほんとに人間か?
普段の俺の魔力障壁の何倍も固い障壁を秒で破ってズンズンと突き進んでくる。
イメージは鋼の扉を大剣でバンバンぶった切って進んでくる剛腕剣士だ。
大剣にも魔法効果が付与されてるか剣を強化するバフをかけてるかしてないととっくに歯がコボれて使い物にならないハズだ。
[なあ、なあ、なあ!!!いいから俺を試せよ、わりいようにはしねえから!!!]
なんだなんだ?
ロットのくせに「悪いようにはしないから」って意味わかんねえんだけど!!!
[おまえに面白い魔法みせてやるよ!いいから俺をつかってやってみろって!!!]
何言ってんだかわかんないんだけどコイツ。
まかせろっておまえ本当にわかってるか?
これ簡単に負けたら超ハズいヤツなんだけど!!
[逆だ逆だなんだその後ろ向きの姿勢!!こんなの超PRするための晴れ舞台じゃねーか!!!]
いや俺は別にPRしたいわけでも・・・でもその面白い魔法は気になるな。キャサリンのおじいちゃんが使ってたヤツだろ?
[おっと乗ってきたな。どっちかっていうと魔法の応用だけど俺が認めたお前なら絶対できる]
そこまでいうんなら、いくぞっ。
わかんねえけど初コラボにしゃれこむぞ!
[よしきた最初は詠唱と魔法操作を俺が補助するからな、慣れたら自分でやってみろ!!]
<極炎球>
<極雷球>
ポッポッポッポッ
俺のまわりには炎と雷の性質を持った球が次から次へと生まれていく。
炎の球はマグマのように光と熱を発し、雷の球は圧縮された雷光がバチバチといまにも暴発しそうだ。
<極風>
「ショットッ!」
何百も生まれた魔球が弧を描き超音速でいっせいに司令官に向かった!
「うおおおおおお!!!!!」
叫び声をあげて司令官の速度がふたつもみっつもランクアップする。
すげえぞ指令官!!
せまる攻撃は目視なんて絶対できないのに、感覚だけで自分へと無数にたかってくる魔球をしかも大剣で切ってハジいて防ぎまくる。
[おいおい?これでおわりじゃねーぜ?]
ロットの宝玉が強く光ると、俺の頭の中では全ての魔球が司令官にはじかれていく様がスローモーションのように見える。
まるで時間が引き延ばされたようだ。
[さあやってみろ!!]
俺が頭の中でイメージするだけで。
弾かれた獄炎球は軌跡をクイッと曲げてもう一度今度は背中から突進する。
正面からは極雷球で連続攻撃だ。
司令官は両手で持っていた剣を片手に切り替えて、腰から短剣を抜いて前と後ろの攻撃へ同時に対応する。
正面の大剣は片手で切り飛ばすまでいかずに、剣の刃の平面を盾のようにして受けて弾く。
弾かれた球の軌道を次々と転換さて何度も何度も司令官の四角から突っ込ませる。
司令官の手数がどんどん足りなくなっていき、おそらく反魔法の効果のついた籠手やスネ当ても使いながら被弾覚悟ではじいていく。
[じゃあそろそろやっちまおう。いたぶって逆恨みされても堪んねえもんな!!]
<雷竜解放>
<炎撃解放>
正面から向かう極雷球が、司令官の刃に当たった瞬間に雷音が響いて球はじけた。
割れた球から白く光り輝く雷竜がカラをぶち破って現れ、そのまま司令官の鎧に喰らい付いいたその瞬間。
バチバチバチンッ!!!
電流が鎧ごとガイゼル司令官の体中をつなぬいて巨体が大きくしなる!!
その後ろから、同じように極炎から生まれたマグマのゴーレムが司令官の背中に超高温の拳を叩き込むと炎が体を貫通して腹部から炎が一瞬噴出した!
「あ・・・あれ?お、おい!これまずいぞ!」
さらに次々と生まれ出でる雷竜が何度も何度も司令官を襲い、炎撃が何度も何度も炎の拳で司令官を貫く!!
[わかってるって!]
<極癒球>
「ショットッ!」
前から後ろから下から上から横から、完全に雷と炎のサンドバックになって、もう倒れることすらできなかった総司令官に最後の一発を打ち込む。最上級の回復球だ。
崩れ倒れる寸前の、棒立ちとなっていた司令官の頭に最後の一発が当たってそのまま大きな体ははじけ倒れた。
お、おい、あれ、本当に大丈夫かよ??
[た、たぶん・・・]
ちょ、ちょっと待てなんだよそれ下手すると俺がやったのって公開処刑じゃんよ!今度は俺が殺されるわ!!
[なんならここにいるヤツラ全員消滅させるか?全然よゆーだけど]
そうじゃねえ、そうじゃねえんだよ!!!
「あっ」
遠くに吹っ飛んでた司令官が震える片腕をあげた。
「勝負あり、勝者ユーリ・エストラント!!!」
王国最強の男を全く近寄せることなく圧勝。
審判の声が響いた。




