第52話 王様の御礼
ガリクソン社を訪問した翌日。
俺はキルリスと同じ馬車に乗り王宮へと向かう馬車で向かいあうわずかな時間。
しかし俺のスケジュール、誰か管理してくれねえかな。
特にここ最近は狂ってないか?これ早死にするパターンじゃ・・・
いやまてまて。死なない為にいろいろやってきたのにおかしくないか?
「王様との話の内容については教えてくれないんだよな?」
「これでも王の忠臣のつもりだから」
しれっ。音が聞こえた。
「ならその後の模範試合はどういうヤツだ?勝てばいいのか負けた方がいいのか?魔法はどこまで使えばいいんだ、とかわからないだらけでどうなっても知らないぞ?」
「勝ち負けはどちらでもいいよ、御前試合に出場できることが圧倒的な強者として王家に認められてるってことだからね。魔法は1対1の模範試合という範囲で考えてくれればいい。核激魔法の範囲攻撃なんかはやめといた方が無難だな」
そんなことわかってるだろ?って顔しやがる。
圧倒的な強者か。
目立ちたくないという俺の希望は遥かかなたへ飛んで行ったってことだな。
なんだか随分と遠い世界に来ちまったのは今更だろう。
段階的に力を見せていくって最初の予定が少し早まっただけ、でいいのかコレ?もうなるようになれって気がする。
「あとは王様との打ち合わせ。これも大したことないんだろ?挨拶してこの前のことをちょっと話しておわり、かな?」
何気に確認するようにキルリスの顔を覗いたけどさっさと目をそらされた。
「聞いても無駄だって言わない言わない。それより着いたようだよ」
今回の俺達は衛兵に止められずまっすぐ魔導士団の詰所まで通してもらえた。
いわゆる顔パスだ。
門を通過した際にこちらに敬礼をしていた衛兵に見覚えがある。
「こないだあんたが声かけてた衛兵の人だよな」
「人徳のたまもの、だよ。」
このたらしめ。
事務所の2階にある総司令官の部屋に入る。
やはり王様が待っていて今日は横にシャルロットもいる。
王女に差し向けられた魔導士の話だって身構えると笑って手をふられた。
「さっそくじゃが」
王様の一言でなぜかこの部屋にいる全員がいっせいに壁の方を向いた。
え?なんだ?
王様とシャルロットと俺の3人以外。みんな何してんだ?
俺も後ろを向くべきなんだろうか?
でも王様は俺に話しかけてくれてるわけだし。
「シャルロットを救ってくれたこと娘の父として礼を言わせてくれ。ありがとう」
王様が頭をさげられた。
立場上絶対に下げてはいけない頭だ。
「ちょ、ちょっと、や、やめてください。俺は当たり前のことをしただけです」
「当たり前、そうかの?自分の身を危険にさらしてもか?」
「そうです、そうです。友達が死にそうな目にあってて頼ってくれたのに、何もしないなんてありえないってだけです」
あ、しまったやっちまった。王様が軽く話してくれたから俺の方も。
俺が言葉を気にすると王はすぐに手をふった。
「よいよい、今は礼を言いに来た娘の父親というだけじゃ。なにせ聞いておる者は他におらんのだから」
王様がグルリとまわりを見渡すのはちょっとワザとらしいと思うのだけど。
俺たち以外は全員壁に向き合ってピクリとも動かない。
壁?置物?ってことなんだろうけど。でも絶対聞いてるよな。
「しかしお主の年で友のために自分を投げ出せるものなぞおらんじゃろう?王女のために、国の為に、であるならまだしもだ」
んんん?そういうものか?
俺からすれば王女という立場とか国とかの方が何ともしないの確定だ。
それって立場とかってことだろう、教師とか役人とかクソ親父とか。
他のヤツのことはわかんねえよ。
そういうものかも知れないけど。
でもなんだか、お国のため、とか間違って思われたくねえ。
「これはきっと不敬になるんでしょうけど、そんなこと一瞬も考えませんでした。シャルロット・・・王女を、俺の友達をいじめてるヤツがいたからぶっ飛ばしてひっ捕まえた。それだけです。ですからもうお礼までしてもらったのでこの辺で勘弁してください」
王様はふむふむ、とうなずいて優しく笑っていた。
謁見の間で見た厳しい王の顔ではなくてただの父親の顔、に見えた。
「あら。わたくしはただのお友達でしたの?」
プンスカしながらシャルロット王女がオレの横に勢いよく座った。
ぎゅうっと俺の腕を抱きしめて、俺の方を見上げてプンプンしてるのはなぜ?
答えられずにいるとさらにギュウギュウと腕を絞られる。
「ただの友達、ですの??」
そんな涙目で言うなよな!!
「・・・大切な、大事な、友達です」
「もうっ」
腕をつかんだまま、ぷいっと違う方を向いてしまった。
はっはっはっは、と高らかな王様の笑い声で壁をむいている皆さんがビクッとしたのが見えた。ほら聞こえてる。同じ部屋なんだし聞こえないわけない。
「すまんなあ、わがままな娘で」
「もうお父様ったら!」
「いやいや。ワシは嬉しいのだよ。優等生だと思っておった娘のこんなに可愛らしい顔を見れてな」
「知りませんっ!!もうそこまでにしてくださいまし!!」
真っ赤になってプンプン怒ってるけど、俺の腕はロックされたままだ。
俺の顔がヒクついてる気がする。自分じゃ見えねえけど。
「今回の礼もかねてじゃが、お主はこれを貰ってくれぬか」
王様は胸元から魔法使いが使うロッドを取り出して渡してくれた。
ヘッドに宝玉がついているだけのシンプルな木のスティックだ。
使い古された渋い飴色になっていて年季を感じさせる。もうアンティークといってもいいくらいの渋いロット。
一見ただの古びた渋いロットだ。
だけど握ってみて驚いた。
ゴオウッ!!
まるで強い風が吹き抜けるようなすごい圧を感じる!
明らかにただものじゃないロットを魔法で精査する。
「このロット魔法の効果付きですね。しかも全属性に対しての強力な魔法強化を施してありますけど一体コレは?」
だいたい王様は礼も「かねて」っていってたけど、何とかねたんだ?
「このロットは王宮の宝物名鑑にも載らぬワシの私物じゃ。ワシの父が友人から預かったものになる」
つまり先代の王様の友達から預かったものだ。
それってなんだかひっかかる。
「預かりものをワタシがもらっちゃったらマズイのでは?」
よくわからず聞き返してしまう。
「預かるときに言われておるからな。信頼ができ多くの属性が使える強力な魔法使いに渡してやってくれと」
そんなロットを使っていた人なんて。
キルリスの父親、キャサリンのおじいちゃんではないの?
そうなのだとしたら?
「これは、キルリス魔導師団長が持つべきロットではないでしょうか?」
「ああ、それなんじゃがな・・・ほれ、あれを見てみい」
キルリスのおっさんは壁に向かって直利不動なくせに、手元に背丈ほどの魔法杖が現れた。
シルバーに輝く杖の先には大きな魔石がついており、魔石を守るように輝く金属で囲われている。魔法効果も戦闘力もぶっちぎりに高い上に豪華なヤツで違いなしだ。
「オリハルコン製の国宝じゃ。キルリスが使える属性はそこまで多くはないし渡す前に戦で功績をあげたでな。まさかワシの私物を渡すわけにはいかぬし、師団長になる男がこのロットではシンプルすぎて見栄えがせぬ。王国一の名工に作らせた杖を使ってもろうておる」
目立つ立場の人間はそれなりのもの持ってないと他からなめられるってのはあるけど。
でもこの古いロット。俺が使えばキルリスの魔杖よりよほど能力が高い。
「これは定めであろう。ワシに預けた人がキルリスに渡しておらぬのじゃから」
「そうか。師団長に渡すのなら最初からそうすればよかっただけですよね」
「そうじゃ。そこで現れたのが我が娘の命の恩人で、全属性持ち?でいいのか?じゃ。ワシにとっては運命でしかない」
横で聞いてるシャルロットが嬉しそうに頭をグリグリ俺の腕にこすりつける。
誰にも見せちゃいけないヤツだろコレ。
「でも俺は王宮とか公職につくかどうかもわかりませんよ。このロットを王様のためにふるう機会があるかわからないですから貰えません」
「いいのじゃよ。これはワシ個人が娘を救ってくれた礼として、そして昔の約束を果たすためにお主に渡すのじゃから」
そこまで言われちゃ。
友人を助けたらお礼がてらその親から古い魔法のロットを譲ってもらった。それだけだ。
ギュッとロットを握ると手に吸い付くようになじんで俺の頭にロットの情報がいっきに流れた。
「え、これって」
「無事持ち主として認められたみたいじゃの。一瞬じゃが懐かしいヤツの気配が伝わってきたわい。もうワシの手に戻ることはない」
なんだかロットが自分を紹介するように性能を俺に流し込んできたような気がした。
まるで自分を自慢するかのように。
今のレベルよりかなり上の魔法が扱えるようになるし、元の持ち主が使っていたオリジナルの魔法まで使用できる。
「ありがとうございます。この杖を使いこなせるように精進します」
「これからも娘が困っておったらよろしく頼む。これは父としてのお願いじゃ」
「もちろんです。シャルロット王女に(イテッ)何かしてくるヤツがいたら、この杖を使ってたっぷり後悔させてやりますよ」
王女ってつけた瞬間に強力に腕をつねられた、いたい、いたいって!
「では皆の者。もうよいぞ?」
壁に向かっていた総司令もキルリスもこちらを振り返る。
さっきまでの穏やかな空気から一変して王の御前に控える幹部たち。
シャルロットも俺の横を離れて王の後ろに立ち、王様の表情から父親の気配は消えた。
俺もあわてて立ち上がってキルリスの横に並ぶ。
「ユーリ・エストラント、此度は第二王女シャルロットへ危害を加えた悪人の捕縛、大儀であった。此度のことはいまだ大やけにはできぬが、我が応えられる範囲でお主の忠義には必ず報いることを国王の名において約束する。これからもお主の活躍に期待しておるぞ!」
俺はひざまずいて騎士の礼をとった。
キルリスから叩き込まれたからちゃんとできたと思う。王様に関わるようになったら必ず必要だからと。
あの時は文句言ってすまんだよ。
「ありがたき幸せ。わが剣は王国とともに」
俺は魔導士だけど。
「王国とともに!!」
まわりが一斉に唱和してビックリした。
「では、この後の模範試合も期待しておるぞ。お主の力を存分に見せてみるがよい!」
シャルロットが王様の後ろでぐっとこぶしを握った。
それまずいだろ。今は王様と王女様の時間だろうって。
シャルロットの唇がパクパク動いてた。
「が・ん・ば・っ・て・ね」
やるしかないなあ。
ちょっとはシャルロットが楽しんで元気になれるように。
「承りました。僭越ですが力のかぎり全力でご期待に応えます」
俺が言い切った瞬間シンッと部屋の音が消えた。
王様がニヤーッと笑った・・・あれれ?王様?
威厳がなくなっていたずらっ子の顔になってますよ?
「そうときまればキルリスよ。お主ら魔法師団は最強の結界を闘技場に設置するがよい。ユーリの全力でもまわりに危険が及ばぬようにな!!」
「は?・・・・は、はい、承りました!!!」
キルリスの顔に「え?マジですか?」と書いてある。
突然の話のようだ。
「今日のお主を相手するのはな」
なんでそんな、いたずらっ子みたいな王様。
そして王様の横でズイと前に出たのは大柄で筋肉隆々な騎士。
「俺が相手になる。くだらない縛りや手加減は無用だ。俺も手加減せずに模範試合ができるのはキルリスと10年前にやった時以来だろう。胸おどるとはこういうことだな」
名乗りをあげたのは、王国最強の男。
王国軍総司令官ガイゼル。
この20年間に率いた戦に個人の戦闘でも無敗。
王国を武の面で世界最強と謳わせる男が俺の相手として一歩前に出た。




