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神様に辿りつく少年  作者: 水砲


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第47話 後始末

「よいしょっと」

強引に壁から頭を引っこ抜くと、ボコンッと音がして壁の穴が大きくなった。


「なんで止めたんだよオマエ・・・って、しょ、しょうがねーか」

カマキリジジイは壁に張り付いたまま今も口から泡を吹いて沈黙している。

<力の顕現>で全盛期になった俺の全力パンチだ、岩でも砕くのだから全身の骨なんてコナゴナだろう。

さっきの勢いでもう一発ぶん殴っていたら確実に殺してた。


だが、だが!


「せめてもう一発ぶん殴んないと気が済まないぞ俺!」


『却下です。それより早く魔法の仕掛けを破壊した方がいいでしょう。壁の穴を土魔法で元に戻すのをお忘れなく』


暗殺者の部屋に入るといたるところ魔法陣だらけだった。

床一面の巨大な魔法陣だけではなく、壁にも天井にも大小の魔法陣がところせましと描かれている。

「部屋中を燃やせばいいのか?」

『それだとそのあと壁を元に戻す必要があります。それなら最初から壁の表面を一度融解させて、まさらな壁に作り返してしまえばいいかと。あと中央の祭壇の魔道具は回収です』


ゴゴゴゴゴ


俺は床も壁も天井も、砂に戻してからもう一度壁に再構築ししていく。

あっという間に魔方陣という落書きのないキレイな壁に元通り。


部屋の中央にある祭壇には羊皮紙スクロールに魔法陣が描かれていて、部屋の四隅には魔石のついた魔道具。台座には大きな魔石が輝いている。とにかく全部の器具を袋に入れてサンタのように抱えた。

『あとは消えるだけです』


壁からカマキリジジイを無理やりひっぺがして土魔法で壁を修復する。証拠は完全に隠滅しなければ面倒になりそうだ。

適当に穴とへこみを戻したら先生に『まわりと色が違います。やり直し』させられたので手間取る。先生が正しいのだろうけどコマゴマとウルサイぞ。


暗殺者を抱えて幻覚の魔法で俺達の姿を消してはるか上空へと昇る。

さあ、パニックになっている屋敷の住人達に現実を思いださせてやろう。


パチンと指をならすと屋敷一帯の闇魔法は全て消失した。

キルリスと一緒に設置した魔法陣は輝きを失って止まり、魔法陣自体も砂がくずれるようにボロボロと霧散していく。


いたるところで住民たちの慌てる声が行きかった。

「え?今まで俺達何やってたんだ??」

ついさっきまで大火事に見舞われて茫然としたハズなのに突然その思い込みを消したのだから。

記憶は納得できるように都合よく改変されるから、実際にボヤは出たからその炎で勘違いしたということで一件落着するはずだ。


ハイラント公爵以外には。


公爵は気づくハズだ。

火事だと思ったらただのボヤ。

そしてコッソリ屋敷に囲っていた暗殺者がいつの間にか消えている。


暗殺者に手を出したヤツがいるのか。

危険が近づいて暗殺者自身が身をくらませたのか。

公爵どのように考えるかはわからない。

だから証拠だけは残さず俺だとバレないようにしておくしかない。


「なあ、こいつどうする?」

完全に気を失っている悪党を足でこずいても動く気配はなし。

「どうするとはどういうことだい?」

「ギルドへ突き出してやっていいんだけどな、少なくとも侯爵には俺がやったとバレちまう。暴れた痕跡は完全に消しちまったから王女様の命を狙っていたことが証明できない」

キルリスに迷惑かけられないし。


「なんだ、そんなことかい」

キルリスは冷めた目で男を見つめた。


「コイツは王宮の誰も知らない地下牢獄で誰にも知られずに息を引き取るのさ。裁判もなく誰とも会うことなく」


顔は笑ってないくせにフフフ、と笑い声だけ聞こえたのは気のせいじゃなかった。

俺としては姫さんの安全が担保できればいいだけなんだけど闇魔法は見えないからやっかいだ。

同じ敷地に入れて大丈夫かよ。


「こいつの魔道具は全て取り上げるし牢獄は魔法が発動できないように祭壇魔方陣をくみ上げてある。両手両足を束縛するから魔法陣をかくこともできないぞ?」



本当に大丈夫だと思うか?

『完全とはいえません。アナタの懸念した通り魔法を発動できる可能性があります。一番簡単な手段は魔法陣を彫り込んだ魔石を体のどこかに埋め込むことです。魔石から魔力供給すれば刻んだ魔方陣は魔力を通すことで起動します』


体に意思を埋め込むのか?

そこまでやるのか。

暗殺者ってそうなのか?

生き残るとか切り抜けるとかの必死さの格が違う。


けど俺は。

姫さんを二度とあんな目に合わせるわけにはいかない。


『あなたの「力の顕現」であれば相手の魔力回路を破壊することも、体内に埋め込まれた魔道具を転移の応用で抜き出すことも可能です。ですが』

「なんだ?問題ありか?」

『いえ、少々あなたの気持ちの在り方に対して任務の遂行性を考察しただけです。結局あなたはあなたが在りたいように生きるしかないワケですから』


ワケわからん。

今までもコイツの言うことは「わからん」ことだらけだけど。

今のは全く意味がわからない。


『今のあたなに伝えるのは難しいので伝わるようになったら伝えることにします』




ナビゲーションと呼ばれる神の代言者は言葉には出すことはせずに考えていた。

それはユーリの先ほどの暗殺者に対する感情。

「そこまでやるのか」「そうなのか?」


暗殺者と呼ばれて人の命のやりとりをする人間は、たえず死が自分のそばをうろつきまわる。

死が近くにある人間は、善人であれ悪人であれ死に対して真摯になり生き残ることに必死となる。

それはこの世界に転生したユーリにも心の奥底に焼き付けられている真理なはずだ。


『これは良い傾向・・・なのかどうなのか考えても仕方がないですね。最後に決めるのはこのお〇カ自身ですから』

ユーリのナビゲーターとして創造神から命じられた自分の役割を果たすのみだ。



「俺にコイツを一度調べさせてもらっていいか?すぐに終わるよ」

<走査(スキャン)>


体中の隅々まで魔道具がしこまれていないか探索していくとやはりだ。


むりやり口をこじあけて奥歯をむしり取る。

ひっこぬいた歯ぐきからボタボタと血があふれる。


「ほら、これだ」

引き抜かれた奥歯にしか見えない物体をキルリスに渡す。

「随分気持ちの悪いものをくれたけど。どうしろと?」

「魔眼で見てみろよ」


キルリスの目が暗闇の中で金色に輝き、やがて灯りが消えていく。

「魔石だね。ご丁寧に一度二つに割って断面に魔法陣を書き込んでからまた張り合わせて歯に擬態させてある。これは気づけない」


やはり安心はできないな。

生物として殺せないなら魔導士として引導を渡してやる。


「こいつの魔法回路を焼き切ってしまうけどいいか?俺でも戻せないくらいまで体の中の魔導回線をいっきに消滅させて魔核を破壊する。魔法を使えなくなるし魔法の攻撃に抗う術を完全に奪う」

魔法弱者にしてやる。


<光魔法>

<極回復>

<闇魔法>

<反転!!>


バリバリバリバリ、とこの男の体内の魔力回路が引きちぎられて粉々になってきえていく。そして回路をたどった辿ったさいごの根っこの小さな輝く粒がパリンと割れた。


「光魔法の極回復の力を闇魔法で反転させた破滅の魔法だ。魔核が砕けたからこいつの体内で魔力が生み出されることは二度とないよ。破壊した魔核は極回復でも元に戻せないから」


静かに言い切った俺を見つめてキルリスはしょうがなさそうに息を吐いた。


「キミが恐ろしくなってきたよ。明日には私の40年の結晶がキミに破壊されているかもしれないんだから」

「なに言ってんだアホくさい。そんなことしなくてもな」


俺はピタリとキルリスの眉間を指さす。

「レーザー・ショットでイチコロだろ?」

笑ったつもりの俺は悪人の顔をしてるに違いない。

破壊光線あらためレーザー・ショットだ。


「姫さんに手を出した報いだ。本当はこいつの脳みそ洗脳したいけどソコはまかすよ。魔法耐性ゼロだからあんたなら好きにできるだろ」


「わかった。これから私がコイツをしょっぴいて王宮で処理してしまうけどいいか?」

「もし姫さんに会うことがあればもう大丈夫だからたっぷり寝ろ、とか伝えといてくれ」


これで直接の原因は排除できた。

それでもまだ終わりじゃない。奥に根っこが残っている。


「黒幕はどうするんだ?公爵だろ??」

「王に相談してきめる。だがコイツが口を割らなければ証拠がないから手が出せないだろう」

「それだとまた姫さん狙われるぞ?」

「そのための魔法師団だが。対策は今のところ相手次第になるけどな」


「ふーん。でも飛び出たクイは打っておかないと好き勝手されたら堪らないよな」

ボソリと言った言葉は当然聞き取られた。

「なんだかヤバイことを考えてないかい?やめてくれよ?」


「王女の命狙った悪党を放置するが魔導士団のやり方か?それならそれでかまわねえよ。俺が勝手にやるだけだ」

「おい、そうは言ってないだろう。今すぐに追い詰めることができないだけだ」

「それだと姫さんはいつまで怯えて生きていかなきゃいけないんだ?」


キルリスの顔には怒りとイラつきとそして悔しさが滲んでいる。


「今はまだというだけだ!」


アンタが必死なのは俺だって信じられる。

だけどアイツをいつまた狙うかわからないヤツを野放しにできない。

すぐにだ。


「わーった、わーった。もういいって」

「下手を打つとお前が犯罪者とか国賊として国を敵にまわすことになんだぞ!そして公爵はそういう裏工作が得意でそれだけの権力を持っている!」

「あいあい。大人のやりくち勉強させてもらうから」


キルリスは悪党を連れて王宮へと向かっていった。

やるだけやったし言うだけはいった。あとはいったんおまかせ。


公爵のヤツどうしてやろうか。

すぐに次の手を打てるとは思えないけど時間を置くとろくなことにならない。

相手は大人で権力も金もある。どんな悪だくみだってできる。


『相手にこちらのシッポをつかませないようにした方がいいですよ。人間同士の醜い争いに興味はありませんが念のため』

「そうだな暗殺者の魔導士を捕まえるヤツなんて限られるだろうけど。俺は知られてないから大丈夫だよな?」

『少なくとも冒険者ギルド内ではAランク魔導士として有名なのでは?』

「ぎゃああしまった!でもでも俺がやった証拠なんて残してないし!」


はあ、と久しぶりにため息が聞こえた気がする。

お?なんだ?久しぶりに喧嘩売ってきたか?


『ちょっとはマシになってきたと思ったら。何度も言ってますよね?』

こういう言い方されるときにコイツが言いたいことは決まってる。

『正解ですよ』

そうだ、考えることをやめるな、だ。


俺がやった証拠がなくても。

相手は警察じゃない。証拠があろうとなかろうと関係ない。怪しいと思っただけで刺客を差し向けてくる。

こちらが断罪するには証拠がいるけど、相手は怪しいヤツにかたっぱしからチョッカイ出して炙りすだけ。相手が俺をどう考えるかはわからない。

魔力探知だけはスキャン頻度をあげておく。


なんだかきな臭くなってきた。


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