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第45話 繰り返される死

シャルロットは感情のこもらない声で夢の話をはじめた。


「いつも仲良しのはずの衛兵たちがニヤニヤ嫌らしい顔で私をギロチンに乗せるの。太い木枠に首を固定されていつ刃がおちてくるかわからない恐怖がずっといて。夢なのに目隠しされて暗闇で、大勢の人の罵声がそこら中からきこえてみんなが私の首がおちるのを期待するわ。タップリじらされて最高潮になったところに突然刃がおちてきて自分の首が引きちぎられる。ご丁寧に感触はスローモーションで感じるの。ブジリ、ブジリ、ブジリ皮膚が割けて筋が千切れて首の骨が砕けて痛みが頭の先を延々突き抜けて悲鳴をあげると周りが盛り上がって」


「暗闇に黒い人影が細長い杭を突き付けて押し入ってくるの。怖くて動けない私の手の平と足杭で壁にうちつけていく。指の1本1本を爪の上からうごけなくなったら、足の先からだんだんと打ち付ける場所が上がってきて。膝の骨を打ち砕いて、腰に、おへそに。痛くて痛くて泣き叫んでも相手は嬉しそうに笑って。もう全ていいから気を失って死んでしまいたくても意識が連れ戻されて。最後に心臓をズブリ、ズブリって。叫ぶ私の声だけがもうひとりの私の耳に響いて」


「親友のように仲良しなメイドが椅子に拘束された私の爪を1枚1枚金具ではいでいくの。やめてやめてって叫んでも聞こえないの。その娘は指をひろげてゆっくりゆっくり私の目玉に近づけてくるわ。目を閉じたくてもマブタをおろせなくて、私の目玉に指がついても止めてくれなくて、ズブリズブリと目玉が突き破られて。指の先が頭の中をかきまぜて」


「わかった。もういいから」

「ほかにも私の護衛騎士たちが突然・・・」


おかしくなったように空の1点を凝視して話を続ける王女の口をふさぐように、俺は胸にぎゅっと抱きしめた。

自分では気付いてないようだけど、涙がボロボロとこぼれて自動音声のように話を続けようとしている。


「もう大丈夫だから」

さっきまで普通にしていたのは精一杯の虚勢だ。



怒りで心がはち切れそうだ。


ジワジワと恐怖心を植え付けるためだけの殺し方しやがって。

殺したいだけならさっさと殺してしまえば抵抗されることもない。現実ではいたぶって殺すなんて意味がない。

クズの妄想だ反吐が出る殺し方だ。


俺の友人に。

俺なんかを頼ってくれるヤツに。

何をしてくれてやがるんだ!そんなに死にてえのかよっ!!


それなら今度は俺が何度でもお前を殺し続けてやる。

骨を砕き爪を剥いで目玉をくりぬいてやる。

魂が砕け散るまで百年でも千年でも甚振り続けてやる。


怒りが振り切れすぎて血液が逆流しそうだ。

確実に抹殺するために頭の中のナビゲータに確認する。


「こういうのって魔法で可能なのか?」

『闇魔法に特化したハイレベルの魔導士でしたら可能でしょう。今回は"夢の回廊"まで使用していますのでレベル80前後と推定します。この世界の人間としては闇属性に特化した大魔導士になります』

「そんなヤツこの世界にいるんだな」

『<力の顕現>を使用したあなたを除いて6人。内4人は東の帝国の参謀職、一人は東方の国の呪い小路で呪いを専門としている魔導士。もうひとりは王都の殺し屋です』


殺し屋に違いない。


東の帝国の4賢人が闇魔法に特化しているのは有名な話だし、そんな有名人が手を汚すはずがない。東の帝国からでは遠すぎる。


「その殺し屋をとっちめればいいわけだ」

『人間の上位レベル程度ではこれだけ大規模な術式を毎晩発動することはできません。機械式の魔導祭壇で闇魔法を自動発動させていると推測します』


ある意味で冷静になれていい。

だけどよお。

もうちょいわかりやすく言ってくれねえかな。


「なにがどうなってんだ?」

『対象の魔導士を抹殺したとしても、自動で発動する闇魔法は魔力供給が途絶えるまで発動を続けるということです。供給が3日で尽きるかもしれないし10年続くこともあり得ますから、その間攻撃は続き悪夢を見せ続けるでしょう。魔法陣を破壊して魔道具を取り上げてしまうことをお勧めします。もちろんやってみなければわからないことです』


今すぐにでもやってやる。

これ以上1日でもこんな夢でシャルロットが殺されるのは許せない。


「発動した術を防ぐ手段はないのか?」

『相手の術が発動した際に呪い返しが可能です。条件はあなたが呪詛の対象に触れている必要があります』


俺が姫さんに触れている必要?

でもこの娘は王女だからそうそうできることじゃないだろうに。


「なぜだ?」

『魔力が物理的な空間を伝わらず精神空間から直接相手の夢に干渉するためです。こちらも対象の精神空間にふれていなければ感知できません』

「なんじゃそりゃ?」


焦ってもしょうがない。

わからないものはわからないんだから。

だから先生もうちょっとわかりやすく頼むよホント。


『現実世界と精神世界は位相が違います。夢の回廊による攻撃は現実世界を通りませんから、途中の空間を見張っていても感知できません。対象と直接触れていれば攻撃される魔力を感知できます』

なんとなくわかったぞ。

アレだろ?空間転移みたいな感じで攻撃してくるってことか?

攻撃がはじまった瞬間に感知するしかないっていうのであってるよな?


『・・・もうそれでいいです。今のあなたのレベルではしょうがありませんので〇カとは申しません。人間という種族の低レベルさにはあきれますがあなたのせいではありませんから』


なんかいつもと違うな。

最近はあからさまにバカにするようなことを言わなくて俺の精神衛生上とても助かる。

その代わり人類とかいう規模でバカにされたような?いや気にしたら負けだ。

張り合いも少し減ったけどな。


横を見ると王女様は泣き疲れたのか俺によりかかったまんまウトウトしはじめた。

『横の女の意識が薄れた瞬間から呪いの波動が近づいています。今のあなたの闇魔法レベルでは呪い返しはできません。<力の顕現>の発動をお勧めします』


くそったれめ。


疲れて一瞬のまどろみすら許さねえつもりか。

何日もロクに眠れなくて、ウトウトした瞬間に夢の中で殺される。

そんな地獄を仕掛けるのは享楽的な殺人者だ。


〈力の顕現〉

〈闇魔法〉

〈呪詛返し〉


俺の頭の中を闇魔法の術式が埋め尽くす。


触れている部分から彼女の心を観察すると、暗くて禍々しい力は彼女の心を浸食しようと周りを取り囲んでいる。

心がひび割れしてる隙間から入り込もうと闇魔法が取り付いているから、もう彼女の心も体も本当はとても弱ってるに違いなかった。

俺は魔力を黄金の鏡へと変質させて彼女を覆い迫る闇を跳ね返す。


鋭くささる闇は人が持つ悪意だ。

怒り、羨み、妬み、殺意。そんな激しい悪意が降りかかってくる。

だけどもそんなも俺にとってはヘでもない。かたっぱしから跳ね返していく。

前世で続いた心を削り取る悪意は真面目なヤツばかりが傷づく。

こんなガキに振りかざして許されるものなんかじゃない。


どれかひとつでも深く刺されば簡単に心を割ってしまう。そんな尖った悪意の雨をさんざんはじき返して最後に跳ね返す悪意へ干渉してやった。


<浄化の矢>


跳ね返っていく悪意のすぐ後ろに光属性の<黄金の矢>を飛ばす。


相手は今頃。突然自分が打ち込んだ闇の攻撃が跳ね返って向かってきて、慌てて防いでいるところだ。

自分で振りまいた闇を必死になって払っているに違いない。

そこへ逆属性の光の矢を突き刺して精神を貫いてやる。

防げるもんなら防いでみろ。


「ぎゃあっ!」

跳ね返した彼方から激しい痛みと怒りの感情が伝わってきて、シャルロットを取り巻く闇の波動は一瞬で消えた。


『敵の闇魔法「夢の回路」がとじました。しばらくは危険がないと判断されます』

「最後のは余分だったか?」


許せなかったのだからしょうがない。

でもその行為で相手にこちらの存在を気づかれたに違いなかった。


それでもな。

どのみちぶっ殺すんだから。


『さあ?』

「そうか。つまりいつも通り俺がなんとかすればいいって話だな?」

『大した話じゃありません』

「いつものことだな」


横を見ると王女様が穏やかな嬉しそうな顔をしてぐっすり眠ってた。



「ふたりとも随分見せつけてくれるね」

キルリスが後ろから声をかけてきた。


「ちょうどいいとろこに来たな。姫さんをどこかに寝かせておいてやってくれないか?」


キルリスに抱っこしてもらって騎士たちのもとへと送り届ける。

安らかな寝顔でグッスリ眠る姫さんは揺らしても声をかけても起きる気配はない。

随分久しぶりの熟睡なんだろう。


「闇魔法だね。ふたりで寄り添ってるからおかしいと思って魔眼で見させてもらったよ。キミが闇魔法を発動して王女の表情がどんどん優れていったから何かを払ってると気づいた」


「それくらいじゃあ状況全部はわからねえよな。さっきのはな」


俺が知っていることをキルリスに説明すると即座に敵を言い当ててくれた。

「そういうことならひとりしかいない。バーン・ゲルストス、闇魔法の使い手で凄腕魔導士だ。別件でもギルドに手配されている暗殺者」


凄腕だろうと暗殺者だろうと関係ないんだよ。

叩きのめすだけなんだから。


「もし俺がソイツをぶっ殺しちまったらどうなる?」


「王女を狙った証拠をつかめなければキミも逮捕されるに決まっている。闇魔法は使える人間がすごく限られるし目に見えないから証拠を押さえるのが難しい」


手配されているから抹殺していいだろうと考えてたけど違ったか。

じゃあアイツぶっ殺せない?


「しょうがねえのか?だったらまずはその暗殺者を埒るか」


ラチって殆ど殺してから回復させてまた殺そう。

千回くらいやってやれば少しは俺の気も晴れるか?なんなら姫さんにそいつの目玉えぐらせてやるか?


「なんだかブラックな顔つきしてるが直接制裁するのはダメだからな?これでも私は師団長だから捕まえれば何とでもできる。じゃあ行こうか?」


「ムリすんな。俺がうまくやってやる」


薄暗い話だ。目立つ場所にいるキルリスがわざわざ関わる話じゃない。


コイツを叩きのめすのは俺が決めたのだから。

迷惑かけるつもりはない。

怒りは俺のものだ。


キルリスの肩を叩いて行ってしまおうとしたら、逆に肩を叩かれて引き戻された。


「なに私にとっては大したことじゃない。子供ひとりで危険に向かわせるほど老いぼれていないしこれは本来コッチの仕事だ」


平気な顔して一緒に前に進んでいく。いいのかよアンタ?

これは俺を本気で怒らせたヤツへの制裁なんだから。

あと子供扱いするなよな。


「何かあったら証人がいた方がいいだろう。敵の居場所はわかるかい?」

「場所はわかる。でも行ってみないとどういう所かはわからないけどな」


追尾した光の矢が炸裂した地点を魔力感知でマークしている。

逃がす気はないし隠れても無駄だ。


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