第42話 リーダー代理
「少し手間取っていたが危なげなく仕留めたな。これなら素材全部が売れる」
ジョバンのニヤけ顔がさく裂する。
「討伐完了だ。でも分け前半々っておかしくねーか?」
俺がやったんだけど。
お前見てただけだよな?
もう一回言うか?
「まあそうかもな。じゃあしょうがねえから俺様がこいつを持って帰ってやるよ」
しょうがねえなヤレヤレって空気感。
分け前はおまえのものだなんて言わないのがジョバンだ。
こいつも2メートル近い大男だけど、バジリスクはしっぽの先まで5メートルはあるし幅もある。軽々としょって歩くジョバンがすっげえ怪力に見える。見えるだけだけど。
「大分闇魔法になれたからな。軽くしすぎると風で飛んでいくから10キロくらいは重さ残してる」
ぜんっぜん大した力使ってない。しかも悪びれることなく堂々宣言するのがコイツだ。
今の俺なら同じことくらいはできるかな?
俺たちの闇魔法は今のところだいたい同じのレベル感だ。
「なあ。ジョバンは俺に魔法のこととか聞かねえのか?」
はあ?って顔された。
もう何回も一緒に討伐してきただろう。
なんだかコイツの前でイチイチ隠すのが面倒になってきた。
厚かましい小物なのは違いないけど悪いヤツじゃないのはわかった。
「勘違いすんな俺の魔法元素が何かとかそういう話だよ。別に俺があんたに何か教えることはねえよ」
ジョバンはそれを聞いて、ああ、と顔しただけで興味ないようだった。
「別に興味ねえなぁ。オレからすりゃあお前はたいていの魔法が使えて魔力が高いブキッチョなガキってだけだし。ほとんどの魔法元素を使えるのはもう違いないけどな」
全部の魔法元素使えるのもバレてるんだろどうせ。
わざとヤンワリ言ってくれた感じがする。
「俺もお前に自分のことを言ってねえし。他人にベラベラしゃべることじゃないからなあ。パーティ組んでればだいたいわかるもんだし」
そりゃそうかと思ったけど。
ちょっと待て。
そうか?
「俺ばっかり働かせやがって。おまえが魔法使ってるのほとんど見てねえんだけど」
「でも予想ついてんだろ?それでいーだろそんなもん」
俺が見たコイツは闇魔法の使い手だから基本元素は全て使えるに違いない。
闇以外の上位元素はどうだろう。何となしで全部使えそうだって思ってるけど、それってあり得るのかよくわかんねえ。
「そういうもんか?」
「そういうもんなんっだって。いいんだよ今日も無事に生き残ったんだからよ」
ギルドに戻って査定して貰うとコカトリスは1000万Gになった。日本の価値でも一千万円になる。
取り分折半で5百万G。
ちょっとした金持ちだ。これまで討伐した魔物とはケタが違う。
竜の系譜の魔物は強くてランクが高い。その分報酬も高いし素材もレアだから査定が高い。
「いきなり全部を教会に持っていくなよ?いろんな意味であやしまれるからな」
わかってるかお前?って教えてくれる。
魔法の使い方を除けばコイツから教わることなんてあったかな。
「なんでだよ、そういうものかよ」
「貧乏だった教会がいきなり潤ったりしてみろよ。これまで見向きもしなかった怪しいヤツラがあの辺りをヨダレを垂らしながらうろつきはじめるぞ?」
これまで寄付してくれたヤツラも大丈夫そうだって逃げちまうかもな、と付け加えてくれる。
こいつ適当なくせに。言ってることは筋が通ってやがる。
適当でちゃらんぽらんが服着て歩いてるくせに!
「こういうのはずーーーーっと続くようにどうするかを考えねえと。そんでどうしても必要な金に困ってるんだったら別枠で出せばいい。じゃなければ年寄りシスターが必死に金策しないと子供たちがメシを食えない世界を何とかするか?」
「おまえもしかして頭よくないか?」
口が達者なだけかと思ってた。
「あったりめーだろ、だいたい俺をなんだと思ってんだ?これでもちっとは名の通った魔導士だぜ?」
そういえば王国の冒険者ギルド一の腕っこきなんだった。
まともなこと言ってれば少しは尊敬できるヤツなんだけどなあ。
多分だけどコイツなりに俺へアドバイスしてくれてるんだろ。似合わないホント。もらっといてやるけど。
「コカトリス討伐でお前もAランクくらいの冒険者になれるだろ、少しは貯金もできたろうしあとはボチボチやれよ。冒険も魔法も金も酒もいいがもっといろんなことやっとけよな?」
「ん?なんだよ」
なんだかめずらしく師匠ズラしてそれっぽいこと言いやがる。
悪いものでも食ったか酒の呑みすぎでついに頭がくさったか?
「俺は別のギルドから緊急で呼ばれたから当分王都には戻ってこねえからな」
こいつとパーティを組んでからズンズンとランクがあがって今はもうB級だ。
こんな速さであがるヤツなんてS級クラスの実力者だけだから、最近では俺にもやったら他のクランから声がかかる。
引き抜きじゃなくって困った討伐へ手伝いしてくれって内容だから俺は笑って受けてるけど。
ギルドでジョバンの相棒を引き抜く度胸のあるヤツはいない。
「おいなんだよそういうことは早く言えよ。パーティ解散かよ?」
「パーティ登録はこのままにしとくけどおまえをリーダー代理に登録しておいたから。リーダー代理はメンバーを追加できるから好きにしていいぞ。俺が戻ってカスだらけのパーティになってたらそいつらクビにするけどな」
好き勝手やっていいらしいけど。
さっきコイツが言ったからじゃないけど、俺にだってやることイロイロあるんだよな。
ジョバンとの冒険者活動でこれまで後回しにしてきたこともやっておかないと。
「たまにソロで冒険者で金稼ぐくらいにしとくよ、もう少し金も持っときたいし。考えれば500万ぽっきりなんていざって時に何もしてやれないし」
「いいんじゃねえか少しづつで。それよりおまえ学生だろ?今しかできねえお勉強しとけよ。魔法も冒険も、金も女も酒もな!!」
関係ないヤツが混ざってないか?
適当なのは今に始まったわけじゃない。
「でも助かった。おかげでいっぱしの冒険者になれたと思うよ」
お別れだからってわけじゃない。どうせまた会うだろうし。
だけど思ったことは言っておかないと、いつになるかわかんねえから。
冒険者仲間の鉄の掟だ。一期一会。
「礼なんていらねえだろうが。毎度毎度俺はお前からキッチリお代をいただいてたからな。これからは対等な冒険者なだけだ、なんか困ったら来てやるから呼べよ?お代を準備してな」
カラカラ笑う。
だったら俺もそうだ。
「だったらお前も俺を呼べよ?おんなじパーティなんだからな、儲かる話は山分けだ」
「そりゃそうだ山分けだ。たのむぜリーダー代理!!楽して儲かる話が一番だからな!!」
翌日ギルドに顔を出すと、もうジョバンは旅立った後だった。
受付さんに聞くと冒険者ギルドの依頼で南方密林地帯の魔物討伐任務。
出逢いは北から、別れは南へ。忙しいこった。
南方のジャングルは蛇、蜘蛛、ワニ、亀、サル、豹・・・小さな毒虫から大きい魔獣までなんでもござれの魔獣密集地帯だ。
暑くて、蒸して、危険で、怪しい。
もちろん俺は呼ばれても絶対にいかねえ。
初めてあったときは碌にメシもくってなくて汚くて臭かった。
そういう運命なんだよきっと。
泥まみれ汗まみれでヒーヒー言ってる様が目に浮かぶ。
そしてしばらくすればまたメシをたかろうと顔だしてくるに決まっている。
その日は新しくA級になった証票だけ受け取って学院に顔を出すことにした。
数人しかいないS級を除けば最高ランク。世間的には一流冒険者の仲間いりだ。
学院を卒業したらアイツとヒーヒー言いながら世界中を冒険者するのもありかな、とか想像するとちょっとだけワクワクするけど。
やっぱりダメだ。
そうなったらアイツは俺にばっかり討伐させて報奨金は折半で懐に入れるに違いない。
一区切り。次回からは魔法学院に場所を移して新しい展開がすすみます。
やっと本線に入っていけるのでホッとしてます。




